短編集
@Tsukinoyouni
記憶
「ご主人、私はここに初めて来たんですが、はてどういったお店なんですか」
「初めてですか。それは今時珍しい。簡単に言えば、記憶売買の店です」
「記憶売買というと?」
「嬉しい楽しい成功の記憶は高く売れます。悲しい寂しい失敗の記憶は安く売れます。購入の際も前者は高く、後者は安い……というよりもまぁ売れないですね。誰もそんな記憶欲しがりませんよ」
「売れない記憶はどうするんですか」
「仕方ないので廃棄処分ですね。最近はお金かかるんですよ。不法投棄すると怒られるんで」
「そうですか。ではその売れない記憶、私に譲っていただけませんか」
「え、いるんですかこんなもの。どうぞ差し上げますよ」
「ありがとうございます」
悲しい寂しい失敗の記憶たちを譲り受けた人は、後に大ベストセラーの本をだした。失敗から学ぶことが出来なくなった人間たち、失敗の耐性がない人間たちがこぞって手に取ったという。その本を買うためのお金は、成功の記憶を売って得たもの。かの人物は印税で成功の記憶たちを買い、毎日頭のなかで再生しては幸せな気分に浸っていた。
だがどうだろう、かの人物は死ぬときになって、どれが自分自身の記憶だったか最早分からなくなっていた。
自分の人生は失敗だったのか成功だったのか。そんなことしか考えられなかった。
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