皇太子の愛しき悪役令嬢

あんこうなべ

皇太子の愛しき悪役令嬢

 皇太子である俺ことフランク=ハウスクネヒトは今、多くの貴族がいる卒業パーティーの場にて、自身の婚約者と対峙していた。


「今この時を持って、モニカ=ヴィンケルホックとの婚約を破棄する!」


 俺がそう宣言すると、モニカはその美しい悲痛な表情に変え、俺をじっと見ていた。


「――フランク様……何故、婚約破棄をされるのか……理由を聞いてもよろしいでしょうか……」


 モニカは少しだけ泣き出しそうな声を震わせながら、俺にそう問いかけてきた。


「いいだろう、教えてやる! それはお前がヘルミーナ嬢を苛めていたと何件も報告を受けたからだ!」

(くそ! モニカがそんな事をする筈がない! 頼む! これ以上喋るな俺!)


 俺は今、愛すべきモニカを自分の口で責め立てている。

 本来ならこんな事をしたくない。そのまま結婚し、王である俺をモニカが支えてくれる。そんな未来をずっと想像していた。

 しかし、もうそれは叶わない願いだ。全ては今俺の横に勝ち誇った様に立っているヘルミーナ=レーナルト子爵令嬢のせいだ。


「モニカ! お前は公爵令嬢の地位を使い、子爵令嬢であるヘルミーナを事あるごとに苛めていた! 周りからの報告も、そして私自身もその姿を見ている。言い逃れは出来ないぞ!」

(違う! モニカはヘルミーナに対して、貴族の令嬢としての振る舞いについて2、3言注意しただけだ!)


 本当のところは、私やヘルミーナ嬢より上の貴族である伯爵以上の子息達に対して、馴れ馴れしく接して来た事に、モニカが注意しただけだ。

 私以外にもいろいろな子息に声を掛けているヘルミーナ嬢に対して、貴族の令嬢としての心構えを説くのは、上位の令嬢としては当然の行為だ。

 何故それが苛めに繋がるか理解できないが――


「他にもヘルミーナ嬢の物を隠したり、ヘルミーナ嬢自身に対して物理的に傷をつけようとしたりと、貴族の令嬢としてあるまじき行為を何度もしたな?」

(頼むからこれ以上根も葉もない噂を言うな俺! このままだと大変な事になる!)


 それから俺は、モニカがヘルミーナ嬢にしたと言われる仕打ちを何個も言い続けた。

 もちろん、それらは全て出鱈目だ。しかし、俺の口は止まらない。


(くそ! まさか俺の魔力でも防げない呪いがあったとは――このままでは、国が滅ぼされてしまう……)


 ***


 我がハウスクネヒト王家には、生れながら高い魔力を誇り、その魔力を持って国を繁栄させた歴史を持つ。

 ある代の王はその圧倒的魔力を使い、敵国を滅ぼしたりとか、ある代の王は迫り来た敵軍に対して防御魔法を張り、何日間も守り続けたとか――

 俺にも例外なく高い魔力があり、魔力が高い人物は、総じて高い対魔力を誇っているものだった。


 しかし、そんな高い対魔力を持つ俺ですら、ヘルミーナ嬢の洗脳魔法には敵うことはなかった。

 それは俺が2年に進級した人の事、突然現れたヘルミーナ嬢に急に頬を触られ、ある呪文を聞いた時からだ。


『貴方は私のモノになるのの――そういう乙女ゲームのシナリオだから――』


 その後も彼女は何か私が理解できない事を言っていたが、正直覚えていない。

 何故なら、彼女の言葉を聞いたと同時に、洗脳の魔法が掛けられた事が分かった。

 そのため、直ぐに私は抵抗した。しかし、彼女の魔法の力は強く、初日は何とか跳ね返すことが出来たが、その次の日もそのまた次の日もやってくる彼女のせいで、跳ね返すことが難しくなっていった。


 そして、とうとう跳ね返す事が無理だと判断したその日に、私はモニカを呼んでお願いした。


『モニカ、聞いてほしい。俺は今洗脳魔法を掛けられている』

『そんな! フランク様は高い対魔力をお持ちの筈。一体何故?』

『俺にも分からない。しかし、ヘルミーナ=レーナルト子爵令嬢から確かに洗脳魔法を受けている状態だ』

『ヘルミーナ様!? あの殿方だったら誰でも声を掛けている、あのヘルミーナ様ですの!?』

『そうなのか……まさか、全ての男を虜にさせるつもりなのか? あの令嬢は……』


 どおりで私の周りの者達も、次々にヘルミーナ嬢に親しくなっていた訳だ。

 まさかそこまでの好色女とは思わなかったが……


『どうにかその洗脳魔法は解けませんの?』

『どうやら無理みたいだ。しかも彼女に会わない様に逃げていたのに、何故か私が逃げた先に彼女が現れ、洗脳魔法を上掛けしてくる始末だ』


 本当に恐怖を覚えたものだ。何所に逃げても何故か現れる彼女。

 最近は自室に籠ろうとしたのに、まさかの女子禁制の男子寮までやって来て、私の部屋に無理矢理入り、魔法を掛けていくとは思わなかった。

 そのせいで逃げる事を諦め、彼女が来るのを待ち構え、魔力を高めて何とか洗脳魔法に掛からない様にするしかない状態だ。

 しかし、それももう限界だ――


『恐らく、私は数日中には彼女の洗脳魔法に掛かる。あれを防ぐ手段はない』

『そんな!』

『だからモニカに頼みがある。私がもしも洗脳され、彼女の言いなりになった場合は、近づかないで欲しい』

『――っ! それはいったい何故!?』

『恐らく彼女の目的は、私と結婚し、王妃になる事だと思う。そう彼女が言っていたからな』


 彼女は俺に洗脳を掛ける際に何時も言っていた。

 どうやら彼女にとって、私に洗脳魔法を掛けるのは遊戯と同じ感覚らしい。

 魔法を掛ける度に『もうすぐシナリオが……』とか、『悪役令嬢の婚約者をどうにか……』とか、よくわからない事を口走っているからな。


『彼女にとってモニカは目の上の敵だ。私の洗脳が完了次第、君に敵意を向ける可能性が高い。

 君がいる限り、彼女は私と結婚できないからな』

『しかし、それだとフランク様が――』

『もう無理だ。どんな魔法具を使っても、彼女の洗脳魔法は解けなかった。だから君を守るためにも、私から距離を取って欲しい』


 そうお願いすると、モニカは涙を浮かべながら抗議した。


『嫌です! 私はフランク様と離れるなんて――それに、本当に洗脳魔法を掛けられているのなら、陛下に報告をしないと――』

『無理だ。残念ながら洗脳魔法を掛けられているという証拠がない。故にお願いがあるんだ』

『っ――お願いですの?』

『ああ。済まないと思っているが、今までのやり取りはこの魔法具で記録した』


 私は目の前に置いていた宝玉型の魔法具を手に持った。


『これを持っていて欲しい。そして常に記録をしてほしい』

『記録用の魔法具――こんな高価なものを持って来るなんて――』


 この魔法具1つで大きな屋敷が1軒買えるぐらいの値段がする。しかし、今回の騒動はこの魔法具を持ってこないと解決できないと踏んでいた。


『この魔法具で私が今後行う事や、ヘルミーナ嬢が侵すであろう出来事を記録していてくれないか』

『フランク様――そこまでの覚悟で――』

『今後私は君を何度も傷つける事を言うだろう。更に君を悲しませる事をし続けるだろう。そして――』


 私はモニカに今後の事を全て頼んだ。モニカは最初は難色を示したが、根気強く説得した結果、渋々納得してくれた。

 彼女が特に難色を示した理由は、私の今後を思ってだ。

 恐らく私が用意した魔法具を使えば、彼女に纏わりつく可能性がある悪評は付かなくなるとは思う。

 しかし、私は別だ。私はふしだらな女にまんまと洗脳された愚かな王族として扱われるだろう。


『私は大丈夫だ。それに、恐らく私は王位継承権を剥奪されると思うが、弟がいる。あいつならこの国を任せられると思うから、モニカには弟を支えて欲しい』


 私がそう告げると、モニカは何も言わなかった。

 分かっているのだろう。もうこの魔法に掛かった時点で私の今後の命運は決まっているようなものだ。

 モニカは賢い。その私の思惑が分かったこそ、肯定も否定もできないのであろう。


 モニカと話し合いをした数日後、私はヘルミーナ嬢の洗脳魔法についに堕ちた。

 そこからの行動は本当に最悪と言っても過言ではない。モニカの前でヘルミーナ嬢と抱き合ったり、モニカに対して冷たい目線を何度も向けたりしてしまった。


 しかもこの洗脳魔法の最悪なところは、私の思考はそのままに、体が操られている様な状態という事だ。

 故に私は自身があり得ない行動をして行く度に、自信で頭を抱えたくなる衝動に駆られ、しかし本当に抱える事が出来ずに苦悩し続けた。


 ***


 そして、運命の卒業パーティーの日、ついに私はモニカに婚約破棄を言いつけたのであった。


「故に! モニカは国の王妃に相応しくない! よって私との婚約破棄を宣言する!」


 そう言って私は、隣にいたヘルミーナ嬢を抱きしめ、周りに見せつけるように宣言した。


「私は隣にいるヘルミーナ嬢と婚約し、将来の王妃として迎え入れる!」


 そう宣言すると、ヘルミーナ嬢はますます勝ち誇った顔をして周りを見渡した。

 私も一緒に見渡したが、そこいたのは悔しそうな顔をしている上位貴族の子息達や、私達に対して嫌悪の目を向ける令嬢達であった。

 私は表面的にはヘルミーナ嬢を手に入れた事に対する優越感出しながら、しかし奥底ではこの状況をなとか挽回したい思考を回し続けた。


 私は再びモニカを見た。彼女は目に涙を溜めながら、何かを我慢している様な顔をしている。

 まるで、何かを待っているかのような雰囲気だった。


「モニカよ。何か言いたい事があるか?」


 何故か私はモニカに声を掛けていた。まるで汚らわしいものを見ているような目をしながら――


「いえ……」


 モニカは何か言いたそうな表情をしているが、私は気にせずに言葉を続けた。


「ふん――何か言いたそうな顔をしたから、親切に声を掛けてやったのに、だんまりか?」


 俺は興味を失ったのか、再びヘルミーナ嬢を見つめた。


「このパーティーが終わったら、直ぐにでも陛下に報告をして、君を妃に迎える準備に入る。いいね?」

「はい! わかりましたわ!」


 ヘルミーナ嬢は更に機嫌を良くし、私に更に抱き着いてきた。

 その時――


「モニカ様! ようやく手に入りました!」


 モニカのメイドである一人の女が、この会場に突然現れた。


「――リサ! 待っていましたわ!」

「はい! 陛下への事情の説明も終わり、ようやく持って来る事が出来ました。こちらを――」


 モニカのメイドのリサ。私も知っている信用できるメイドだ。

 そうか、あの件は上手くいったのか――良かった。


「何をしてますの!? 誰か! あのメイドを摘み出しなさい!」


 ヘルミーナ嬢が慌てた様子でリサをこの会場から出そうとしている。しかし――


「まあ慌てるな。モニカ達が何をしでかすか見てみよう。ま、無駄だと思うがな」

「はぁ……フランク様がそう仰るのなら、わかりましたわ」


 私のまさかのストップ発言にヘルミーナ嬢は驚いたが、私の意を汲んでくれたようだ。

 一応形としては私の方が上だからな。この場でのわがままを少しだけ抑えたのだろう。

 それにしても良く言った私。まさか自分でもそんな事を言うなんて思わなかった。

 これでなとかなる可能性が増えた――


「モニカ様。これが陛下に用意していただいた魔法具です」

「ありがとうリサ。後は私がやるわ」

「ご武運を――」


 リサがモニカから一歩下がり、モニカは宝石の形をした魔法具を掲げた。

 すると、魔法具から柔らかな光が広がり、会場全体を包み込んだ。

 そして――モニカが掲げた魔法具は音を立てて粉々に崩れた


「いったい何ですの? 今の光は?」


 ヘルミーナ嬢は特に何も変化はないようだが、周りにいた者達には変化があったようだ。


「あれ? 何でフランク様の隣にモニカ嬢じゃない女性がいるんだ?」

「どうなっているんだ? 私は確かヘルミーナ嬢と庭で話していた筈だが……」

「おかしい――ここ数カ月の記憶がない? どうしてだ?」


 どうやら洗脳されていた子息たちの先頭が解けたみたいだ。

 そしてもちろん――


「さて、離してくれないかヘルミーナ嬢。私の隣は愛する婚約者以外は立って欲しくないんだ」


 そう言って私はヘルミーナ嬢を無理矢理振り払い、モニカの傍まで移動した。

 未だに何もわかっていないヘルミーナ嬢。私はそんな彼女を置き去りにして、モニカの傍に立った。


「すまないモニカ。ここ数カ月迷惑を掛け過ぎた。本当にありがとう」

「いいえ、大丈夫ですわ。フランク様が予め説明してくれていましたから、耐えれましたわ」


 私はモニカの腰を抱き、ヘルミーナ嬢に向き合った。


「何とか間に合ったか。まさかこの魔法具が壊れるほどの強力は魔法を掛けていたとは思わなかったよ」


 そう言うと、ヘルミーナ嬢は私達を睨みつけた。


「どいう事! 何でフランク様がそっちに行くのよ!? あなた何をしたの!?」


 どうやら私の洗脳が解けたのがそんなにおかしいのか、ヘルミーナ嬢はモニカに対して説明を求めた。

 しかし、モニカが答えるのではなく、あえて私が答えた。


「今モニカが使った魔法具は、全ての魔法の効果を打ち消す貴重な魔法具だ。これ1つで我が国の半年分の予算が必要な魔法具だ」


 この全ての魔法を打ち消す魔法具。これは我が国でも3つしかない貴重な魔法具だった。

 今後の時世にて、悪政を敷く王族が出てくるかもしれない。その時に備えて用意されていた貴重な魔法具だ。

 新しい物を用意するには本当に莫大な予算と、長い月日が必要である品物だ。

 その事を説明すると、ヘルミーナ嬢はさらに質問をしてきた。


「どうしてそんな魔法具を使うのよ!? 誰も魔法なんか掛かってないでしょ?」

「いや、私他多くの子息に洗脳魔法が掛かっていた。他でもない君の手によってね」


 そういうと、ヘルミーナ嬢は驚いた顔を浮かべた。


「私、そんな魔法使ってない!」


 どうやら無意識だったらしい。にしても私を洗脳するために、わざわざ私の部屋まで来ていたのだ。使ってないと言われても説得力が無い。


「既に君が私に行った事や、他の子息に対して行った事は、映像記録として保存してある。言い逃れは出来ないぞ」


 そう言うと、ヘルミーナ嬢は頭を抱え、いきなり喚き散らした。


「どうなってるのよ! 私はメインヒロインなのよ! 何でこのタイミングでフランクがそんな事を言うのよ! おかしいじゃない!」


 ヘルミーナ嬢は人をも殺せるんじゃないかという形相を浮かべ、モニカを見た。


「あなたネ! 私のフランクを奪っタノハ! 何でヨ! どうしてそンナ酷い事をスルノ!?」


 モニカを見つめるヘルミーナ嬢。その口から出てくる言葉は、とても貴族令嬢が口にしていい言葉ではない、下品な言葉が溢れていた。


「もういい、詳しくは後で聞く。誰か! 彼女を連れていけ」


 ヘルミーナ嬢に近づく護衛兵。その手には魔力封じの錠を持っていた。

 これはどうやらモニカの指示で持たされていたらしい。流石に気が利く。


「助かったモニカ。あと少し遅かったら、本当に大変な事になっていた」


 実際この騒動がこのまま継続されていた場合、モニカは私に捨てられた令嬢。

 私はそのままヘルミーナ嬢を陛下に紹介された場合、そのまま塔へ幽閉されていたか、最悪暗殺されていただろう。

 魔力が高いくせに魔法を掛けられた無能に王は務まらない。そんな事を思う貴族は多くいる。


「さて、私は事の顛末を陛下に報告しに行く。モニカ、済まないが付き添ってくれ」

「ええ、貴方の為なら、どこまでも一緒に付き添わせていただきます」


 モニカは私に寄り添い、会場を出た。

 会場では子息たちの洗脳が解けたためか、謝罪の嵐が巻き起こっている。

 私と同じように婚約者を蔑ろにしていた者が多かった為だ。仕方がない。


「さて、既に映像は見せているため、説明は楽だが、今後私はどうなる事やら……」

「大丈夫ですわ。もしも皇太子権を剥奪されても、私はどこまでも一緒にいます。だって、この数か月間を耐えれたんです。だから大丈夫ですわ」


 モニカが一緒にいてくれる。そう思うと、少しだけ気分が楽になり、それと同時に本当に申し訳ないという罪悪感が溢れかえってきた。


 ***


 陛下との話は意外と簡単に決着がついた。

 どうやらモニカが何度も陛下に対して説得をしていてくれたらしい。

 更に調べてみると、私以外にも多くの大臣や貴族の子息がヘルミーナ嬢の洗脳魔法に掛かっていたため、私の落ち度ではなく、ヘルミーナ嬢が強すぎたと結論が出る事になったらし。

 そのため、私が洗脳されても仕方がなかった。むしろ事前に対抗策を用意しておいたと逆に褒められる次第となった。


 ヘルミーナ嬢はというと、国家転覆罪にかけられて、人知れず処分される事に決定した。

 彼女の魔法は強すぎる。もし生かしておいて利用された場合、今度は取り返しのつかない事になる恐れがある。

 そう考えた陛下が、彼女を生かさない事にしたようだ。


 ヘルミーナ嬢は地下牢に連れていかれ、事情聴取の際「大丈夫! 私にはまだ隣国の王子や裏ルートのヴェイドがいるもん! きっと助けてくれる!」と発言したらしい。

 隣国の王子はともかく、ヴェイドは王家に忠誠を誓っている暗殺者の名前だ。何故奴の事を知っていたのか。私は洗脳中も一度も奴の名前は出していなかった。

 そのヴェイドの名前を出した事が、ヘルミーナ嬢の処分を決定したらしい。彼女は危険すぎる。

 そう思った陛下が、ヴェイドに彼女を処分させた。一応ヴェイドの忠誠を再確認したいからという名目だ。

 そして、ヴェイドは特に躊躇わずヘルミーナ嬢を処分したらしい。

 今回の騒動を陛下は「ヘルミーナ事件」とし、彼女の実家であるレーナルトは断絶。領地は取り上げられ、一家は離散したようだ。


 私とモニカはそのまま学園を卒業し、結婚。数年後には陛下から王位を継ぎ、王になった。

 私が王になった際、最初に行った事は、二度とヘルミーナ事件の様な事が起きない様に、魔法解除の魔法具を量産する事だった。

 多くの予算を必要としたが、多くの者が理解してくれて、なとか成功に収める事が出来た。

 その際に、妻であるモニカに言われたことがある。


「そんなにあの事件は堪えましたか?」

「ああ、本当にあの事件は疲れた。もう二度と起きて欲しくない事件だよ」

「あら? そんなにですの?」

「もちろん。もう二度と君を傷つけるような事をしたくない。これは本音だよ」


 ヘルミーナ事件時は、何度もモニカを傷つけてしまった。それなのに私を常に支えてくれたモニカ。

 そんな素晴らしい王妃を迎え入れる事ができ、今後彼女を悲しませない様にしようと思い、私は傍に来ていたモニカを抱きしめるのであった。

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