第120話 第六章 目覚めしタブレットの守護者は、優雅に踊る。(17)

 その光景を満足そうに眺めているミリアム、

「・・・魔術は確かに凄いけれど、発動には『具体的なイメージ』が必要なはず。だから多数のミサイルをほぼ同時に散弾させ、どこで爆発するかイメージ出来ない様にしてあげたのよ」

 なるほど、御自慢の脳がよく分析してやがる。おそらくビンゴだ。

 そのとき!

 火炎流が渦巻いている中から、見覚えのある人影がうっすらと見えた。

 ヴィオラなのか? 無事だったのか? どうやって?

 いや、どうやったかなんて、この際どうでもいい!

 俺はほっとして、ガクッと腰が抜けそうになる。

 幸いにしてミリアムの角度からは、まだヴィオラを視認出来ていないはずだ。

 次の瞬間、ミリアムから百メートルほどしか離れていない俺の隣に、ヴィオラが瞬間移動して身を寄せてきている。

 油断なくミリアムの方を警戒しながら。

「ミリアム! やってくれるじゃん。だけどディア・マギアを甘く見てもらっちゃ困るのよ」

 いまや周囲を軽く見ると、炎上箇所が多くて状況がよく分からなくなっているが、日米両軍は後方のエリアまで撤退したのだろう。

 先ほどまで周囲のあちこちにいた歩兵部隊も、ほとんど見当たらない。

 代わりに上空の攻撃ヘリの機数が増えている。

 まあ、あのミリアムを見せつけられちゃ無理もない。

 正直なハナシ、俺だってヴィオラがいてくれなきゃ一目散に逃げだしている。

「ハチ! 大丈夫だった?」

 ヴィオラが頭をこつんと当ててくる。こんな時でも仕草がかわいい。

「俺は隠れていただけだからな、おまえこそよくあの攻撃を耐えたな」

 頭を撫でてやる。

 撫でられたのが気に入ったのか、ヴィオラはいつものようにニッコリ笑う。

「なんたってディア・マギアは、本物の魔女だからね!」

 なるほど頼もしい・・・まあ、制服はまたしてもボロボロになっていたが。

 ヴィオラを撃破したと思っているミリアムは、次の獲物として日米両軍の攻撃ヘリに狙いを定めたようで、上空をじっと観察している。

 だが攻撃ヘリのほうは、近くにタブレットが搭載されているクーリア・ロマーナのクルマがあるので、ミサイル攻撃に踏み込めないらしい。もし流れ弾のミサイルが車を吹き飛ばしてしまえば、タブレットはオダブツになっちまうからな。

 仕方なく、ミリアムへの機銃掃射をしつこく続けているのだろう。

 ・・・だが、やはりミリアムのフィールドを破ることが出来ないどころか、逆に電磁波照射で一機また一機と見事に射貫かれて撃墜されている。足止めすら出来ていない。

 隣のヴィオラが俺のことを覗き込んでくる。

「ねえ、どうしよう? さっき矢の術式で攻撃してみて、こっちのアドバンテージがスピードと魔術というのは分かったんだけど・・・ハチ、頭いいから作戦の相談に来たの」

 とか言いながら、すりすりと体を密着させてくる。

「おいおい、ふざけている場合じゃ」

「もう! こんな時でも一緒にいたいってっていう乙女心を察してよ!」

 ・・・って、いやいや、いまそれどころじゃないだろ?

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