第121話 第六章 目覚めしタブレットの守護者は、優雅に踊る。(18)

 しかし真面目な話、ずっと戦況も観察しているんだが・・・どうしたものか。

 と言っているうちにも、ヘリが撃墜されたときの爆風が轟音とともに押し寄せてくる。

 くそっ。いくら墜落機体の物陰に隠れているからって、凄まじい熱風で呼吸困難になるし、そもそも連続爆発の燃焼で、このあたりの酸素が急速に減ってきちまってるぞ!

 じっくり考えている場合じゃない。

 アドバンテージがあるといっても、向こうもタブレット・オリジンの装備なワケだから、その優位性は僅かかもしれないし。

 そもそも比較にならないくらい魔術の威力が優位なら、すでにヴィオラが相手を吹き飛ばせているはずだしな。

 落ち着け、理系らしく冷静に考えよう。俺は自分に言い聞かせる。

 こういう時の基本は、まずは相手を知るっていうところだ。

「・・・ヴィオラ、ミリアムから百メートルの地点からさっきの矢を放って、ヤツの反射時間を計測してくれ。オマエの動体視力なら正確に計測出来るだろう?」

「うん」

「でもって、第二射を距離三百メートルから撃って同様に計測」

「うん、でもどうして?」「ワケは後で説明する。よし、行け!」

 ヴィオラは黙ってうなずいた直後、瞬間移動で鉄柱に飛び移り、ヘリに狙いを定めているミリアムに向けて矢の術式を放つ。

 想定通り気付いたミリアムは、フィールド全方位展開にて矢を撃墜する。

 瞬間移動で三倍の距離に遠ざかって、第二射。

「ヴィオラ! 何度やっても無駄なことよ!」

 ヴィオラの生存を驚きつつ、ミリアムが叫ぶ。

 第二射も撃墜されるが、これも想定内。反射速度を見たいだけだからな。

 終えるや否や、俺の横に戻ってくる。

「どうだった?」

「距離百メートルで〇.六二六秒、距離三百メートルで〇.六三〇秒」

 なるほど、相手の弱点のヒントが見つかったかもしれない。

 五百メートル先にまた攻撃ヘリが一機撃墜されて、爆風と大音響が渦巻く。

 俺は声をでかくして説明する。

「要するに、頭の回転に手足が付いていけてないっていうこった」

 ヴィオラは目を丸くしたまま呑み込めていないようだが、俺はある『作戦』を授けた。

 聞いているヴィオラは、真剣な眼差しで俺を見る。

「ちょっとした閃きなんだ。学者っぽく理詰めでなくて『直感』で済まんが」

 俺は爆風のせいで煤けた顔を向け、ニヤリと笑ってヴィオラを送り出す。

「いいよ、ハチの右脳を信じてるもの!」

 軽くウインクして、ヴィオラは聖槍を振って短い詠唱を唱え、ミリアムの視線上数十メートルの至近距離に瞬間移動する。

 まだ上空に攻撃ヘリが数機飛行を続けているが、打つ手なしといった様子だ。

 周囲は爆発があちこちで断続的に続いていて、炎の勢いも全然収まっていない。

 おかげでこの埠頭一帯は昼間のように明るいが、ハッキリ言ってあちこちで爆発と炎上が渦巻く地獄絵図そのものだ。

 その地獄の中心で、いま、二人の美少女が対峙している。

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