第119話 第六章 目覚めしタブレットの守護者は、優雅に踊る。(16)

 いつの間にか、国防軍とアメリカ軍の装甲車両が遠巻きにクーリア・ロマーナの車を包囲している。なんとしてもタブレットを奪還する構えだ。

 根性は認めるけれど、彼らに打つ手が残されているのかしら。

 わたしの不安を証明するかの様に、ミリアムが腕をアメリカ軍の方に向けると、閃光が走る。

 周囲は一瞬、昼間の様に明るくなり、青い稲妻が悲鳴のような甲高い大音響と共に装甲車両を切り刻む。

 クーリア・ロマーナのフィールドは超高密度電磁束帯だろうって、ハチが言ってたっけ。

 っていうことは、それを制御して電磁波照射してるんだ!

 ◇◇

 ミリアムに切り刻まれた(まるで紙を切り裂くように!)装甲車両の燃料と弾薬が誘爆し、次々に爆発音とともに大炎上を起こす。

 俺は相変わらず、クーリア・ロマーナのクルマからほんの百メートルほど離れた残骸の陰に隠れたまま戦況を見ていたが、熱風が渦巻きちょっとやばいくらい息苦しい。

 ミリアムの武装は、以前神保町で襲われた時のクーリア・ロマーナのものとは比べ物にならないくらい強力だ。

 客観的に見れば、ディア・マギアが優れていると思うがミリアムのパワーも侮れない。

 なにか弱点は無いか? 弱点は!

 ここが人生で一番アタマを回転させる時だぞ! 俺は自分を叱咤する。

 しかしこうしている間にも、ミリアムの電磁波照射で、米軍装甲車両は次々と切り刻まれている。

 あれでは攻撃ヘリ、いやたとえ戦車があったとしても撃破されてしまうだろう。

 ・・・事実上、ヴィオラが頼みの綱ってわけだ。

 俺は焦った。

 一刻も早く作戦を練らないと、日米両軍はともかく俺たちまで殺られてしまうぞ。

 そのとき、ミリアムが近くにあるヘリの残骸に目を付け、対戦車ミサイルが装填されたままとなっているミサイルポッドに手をかけ、胴体から引き剥がした。

 そして、続けざまに機体の反対側にあるミサイルポッドも引き剥がす。

 鋼材が引き千切られる悲鳴が夜空に轟く。

「ふふ。それじゃ、スピードが役に立たないプレゼントをあげるわ」

 不気味な微笑みと共にそう言うや否や、ミリアムは引き千切ったミサイルポッド二個を、右手と左手双方から同時に、ヴィオラの隠れている攻撃ヘリの残骸上空めがけて投げる。

 そしてすかさず、飛んでいくミサイルポッドに矢のような電磁波照射を放つ。

 放たれた電磁波はミサイルポッドを打ち抜く。

 打ち抜かれたポッドの枠自体が崩壊。

 中に装填されていた対戦車ミサイルがバラバラと計十数発、散弾銃の銃弾の様に飛び散り、ほぼ一斉に大爆発する!

 一瞬にしてヴィオラのいるところを中心に、幾多の爆発の渦に蹂躙され、炎の竜巻が吹き荒れる!

「ヴィオラ!」

 俺は思わず叫ぶが、猛烈な熱風を避けるのが精いっぱいだ。

 殺られる?

 火炎流の余波で、あちこちの兵器の残骸に搭載されていた弾薬が次々に誘爆し、周囲をこの世の生き地獄に変えていく・・・生きているうちはまだいいが。 

 くそっ、腕が燃えるように熱くて痛ぇ。どうやら熱波を避け損ねて火傷しちまった。

 だが俺の火傷よりヴィオラだ・・・今の爆発の中心地あたりにいたはずだ。

 いくらディア・マギアっつっても・・・あれじゃ・・・。

 俺は嫌な想像をしてしまって胸が張り裂けそうになりながらも、いますぐ炎の渦巻く爆心地に向かって駆け出していきそうになった。

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