第116話 第六章 目覚めしタブレットの守護者は、優雅に踊る。(13)

「ここまでにしてもらいましょうか!」

 炎に照らされたブロンドのショートカット、華奢で目鼻立ちの整ったその可憐な人影が叫ぶ。

 俺はあまりに信じられないその光景にアタマが麻痺し、口が動かなかった。

「・・・ミリアム」

 俺のすぐ隣に屈んでいるヴィオラが・・・やっと、声を絞り出す。

 米軍の包囲網の中心に、敢然と立っている。

 ・・・そんな、はずは、ミマチガエ?

 だが期待を打ち砕くように、服装もヴィオラと同じ桜泉女学院のものだ。

 俺のアタマは、あまりにも理解不能な現実の光景に固まってしまった。

「フリーズ(動くな)!」

 俺の逡巡の最中、包囲している米兵が警告を発してそのまま射撃体勢に入る。

 ミリアムはまるで聞こえていないかの様に、大きく振りかぶってから手を前に突き出す。

「ミリアム! 危ない!」

 俺は思わず叫ぶ。

 M一六Bアサルトライフルが一斉に射撃を開始する。

 連射の銃声が夜の空気を切り裂く!

 撃ち抜かれるミリアムの無残な姿を想像し、瞬間、思わず腕で目を覆ってしまった。

 だが次の瞬間、俺は信じられない光景を目撃する。

 ミリアムが突き出している腕の直前の空間で、放たれた銃弾すべてが爆散した!

 周囲に猛烈な硝煙と火花を巻き散らす。

 硝煙をかき分けるように、笑みを浮かべるミリアムが悠然と歩み出てくる。

 包囲している米兵が、立て続けに連射するが結果は変わらない。

 そうだ! 俺が誘拐されそうになった時、神保町の路上で目撃したのと同じ事象だ。

 あのときのクーリア・ロマーナのエージェントと同じ装備・・・。

 おそらく、米軍と国防軍を手玉に取ったタブレット・オリジンの装備だ。

 ・・・こんなものを持つ組織は世界に二つあるはずがない。

 つまりミリアムは・・・クーリア・ロマーナ・・・だっていうのか?

 ミリアムは、すっと数歩歩みだすとそのまま跳躍し、五メートルほど先にある攻撃ヘリの残骸に軽やかに飛びつく。

 そのまま尾部にすばやく移動し、素手で強引にテールローターを剥がし取って(!)、こちらに向かって投げつけて来た!

 鋼鉄製の数メートルもある塊を!

 俺は咄嗟に身をかがめると、いつの間にか例の聖槍を手にしたヴィオラが、俺の前に立ちふさがり瞬時に詠唱する。

 一直線に空気を切り裂きながら、ものすごいスピードで投げつけられたテールローターはヴィオラの直前の空間で音もなく消滅!

 魔術だ!

「なるほど、実物を目撃すると凄いわね。電磁波で遮るのではなく消滅させるとは」

 ミリアムは、薄い笑みを浮かべながら冷静にこちらを分析している。

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