第115話 第六章 目覚めしタブレットの守護者は、優雅に踊る。(12)

 エレオノーラも、自分にのしかかってきているわたしをどけて参戦しようとするが、彼女をステアリングに向けて押しつぶす。

 ツァイツラーが、なんとか声を絞り出し叫ぶ。

「エ、エレオノーラ、発進して! このまま全速力で船に逃げ込むのよ!」

 わたしを乗せたまま逃げ込むつもりね?

 そうはさせない!

 エレオノーラは全力を振り絞って僅かにわたしを押し返し、ギアセレクターをDレンジに突っ込んでアクセルを強引に踏み込む。

 一転急発進し、メルセデスAMGの巨体は全てのトラクションを全輪に掛けて瞬く間に発進する。

 ツァイツラーは急発進の反動を利用し、起き上がりざまに殴りかかろうとする。

「お見通しだって言ってるでしょ!」

 動きは全て右脳が教えてくれる。

 背中に目が付いているかのように、わたしは瞬時に左腕を思い切り後ろに振り込んで、再びツァイツラーに強烈なバックハンドブロウをお見舞いする!

「ぐはっ!」

 ツァイツラーの眼鏡が割れて飛び散る。

「なんて・・・スピード・・・」

 口から血を吹いて頭部をドアガラスに強打、再度その場に崩れる

 ほぼ同時に銃を構えたエレオノーラに対し瞬時に反応、スピードの乗せた右腕のエルボーを叩き込む!

「これで、三人!」

 エレオノーラは、ステアリングに頭部を激しく強打!

 ステアリングから手が離れ、メルセデスAMGは大きくふらつく。

 わたしはこのチャンスを見逃さず、リアシートのハチを抱える。

 瞬時の詠唱と共に周囲の空間がぐにゃりと歪み、そのまま車外の空間に瞬間移動をした。 

 ◇◇

 ふらついたメルセデスAMGは、道路脇の歩道に向かって突進してしまっている。

 サネッティは殴打により激痛が走っているものの、なんとかステアリングに向き直ってしがみつき、回避運動に入る。

 メルセデスAMGは歩道に乗り上げフェンスに激突、ようやく止まった。

 俺は助けてくれたヴィオラのおかげで、メルセデスAMGの車外に脱出し、そのままヘリの残骸の陰に身を隠している・・・どうやらブリュンヒルトがかつて行使した、瞬間移動の恩恵にあずかったようだ。

 そこへ追走していた内田さんのレクサスが、目の前に停車した。

 P二二〇自動拳銃を顔の高さに構え、狙いをつけながら降りてくる。

 まさか車内がヴィオラにより壊滅しているとは思わず、用心深く近寄る。

 迂闊に射撃は出来ない。

 内田さんは、俺たちが瞬間移動で立ち去っていたことを知らないが、なにしろタブレットがあるのだ。

 やや遅れて到着した米軍の装甲兵員輸送車から、ばらばらと完全武装の歩兵が降車し、銃を構え陣形を保ちながらメルセデスAMGに包囲をかける。

 形勢逆転だ。

 これでクーリア・ロマーナを撃退することが出来そうだ。

 だが、そのとき。

 レーザー砲撃による爆発が漆黒の闇を昼の様に照らす中、包囲されつつあるメルセデスAMGの後ろから華奢な人影が現れる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る