第114話 第六章 目覚めしタブレットの守護者は、優雅に踊る。(11)

「内田さん! あとはよろしく!」

 言うや否や、ヴィオラは一気にメルセデスAMGの右横にレクサスをピタリと付ける。

 ヴィオラが何かつぶやいたと思った瞬間、聖槍を振りかざし、瞬時に防弾仕様のフロントスクリーンを・・・そう、まるで、障子でも突くようにあっさり貫いた。

 メルセデスAMGは、いまや消失してしまったバリケードを易々と通り抜け、上空の生き残っているヘリからの威嚇射撃を避けつつ、埠頭の先端を目指して疾走している。

 ヴィオラは続けざまに短い詠唱を唱え、その刹那、周囲が急に揺らいで見える。

 ・・・巨大な質量歪みが発生しているのだ!

 次の瞬間、ヴィオラの姿全体が『ぐにゃりと歪んで掻き消えた』!

 目の当たりにした内田は、思わず自らの頬をつねりたくなった。

 消えた? 何が起こった?

 だがその質問に答えるかの様に、目の前の光景に異変が起きる。

 突如メルセデスAMGのスピードが落ち、ふらつき始める。

 内田は茫然とする間も与えられず、反射的に助手席から空席となった運転席に体を伸ばし、なんとかステアリングを掴んでレクサスを操舵する。

 その一瞬左手に見えたのは、メルセデスAMGのボンネットに出現しているヴィオラの姿だった。

 運転中のサネッティも、助手席のツァイツラーも声が出なかった。

『何も無いボンネット上の空間に突如、ヴィオレンテーリアが出現』したのだ。

 だが、ストップモーションのように見えた瞬間移動も束の間、次の瞬間ヴィオラは魔術を発動した聖槍を振りかざし、一撃でメルセデスAMG防弾仕様のフロントガラスをぶち破る!

 破片が猛烈に飛び散る最中、ボンネットのヴィオラを振り落すべくサネッティは、フルブレーキをかける。

 ヴィオラは外から、凄まじい形相で睨みつける。

 それもそのはず、もともと怒り心頭な彼女に対して火に油を注ぐように、捕らわれた西郷の姿が目に入ったのだ。

 ◇◇

「よくも・・・!」

 わたしの視線の先にハチがいた。拘束具のついたままリアシートに横たわっており、こちらを見てもぞもぞと蠢いている。

 よかった! とりあえずは無事みたい。

 だが、その安堵もつかの間、強烈な怒りがこみ上げてくる。

 自らの口を噛み切るのではないかというくらい、食いしばっている。

 わたしはフルブレーキの衝撃をものともせず、運転席のエレオノーラを強引に怪力で押さえ付け、あっという間に車内へ侵入する。

 瞬時に、何が起きたか理解した助手席のツァイツラーは、ガラスの破片にまみれながらも、咄嗟にワルサーPPKをこちらに向ける。

 バシッ!

 おまえたちの動きは! すべて右脳がお見通しなんだよ!

 一瞬早く、振り向きざまに肘鉄で殴りつけ、そのままツァイツラーをドアに叩きつける。

「ひとり!」

 怒りのせいか、自分の感覚が冴えわたっているような感じだ。周りがストップモーションのように見える。

 続けざまに、リアシートにいる助祭のワルサーPPKが火を噴く。

 だが弾丸は瞬時の詠唱と共に、聖槍のフィールドに吸い込まれて消滅!

 そのまま聖槍で助祭をなぎ倒し、リアシートに激しく叩きつける。

「ふたり!」

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