第112話 第六章 目覚めしタブレットの守護者は、優雅に踊る。(9)

 大きなカーブを終えると、一転、右下に急降下するように進んで一号羽田線に合流していく。

 右手はビル群のままだが、左手にはいよいよ東京湾と、埋め立て地域が広がってくる。

「さあ、どっちだ?」

 内田さんが呟く間にも、エレオノーラはクルマをどんどん右に寄せていく。

 わたしはギアをほぼ固定、左足ブレーキを使ってアクセルで微妙に調整しつつ、下りに乗じて一気に超重量級レクサスを加速させていく。

 追いつくチャンスだ!

 僅かに差が縮まった。よし羽田線だ。勢い込んで接近していく。

 直進二レーン、左へ二レーンの計四レーンあるが、エレオノーラは一番右レーンに進む。

 両者変わらず猛スピードだが、下りを利用して僅かに距離を縮める。

 まもなくジャンクションが終わろうという、そのとき!

 メルセデスAMGが、急に左隣の車線に滑り込む!

 さらにトラックを次々とよけながら、猛スピードのまま左へ左へレーンを素早く変えていく。あっという間だ。

 攪乱のため羽田線と見せかけてギリギリのところで、右端レーンから左端レーンへ四レーン分も飛ぶようにレーンチェンジし、台場線に進路変更したのだ!

 並の技ではない。

「のやろ! なめんな!」

 ええっ、わたしこんな暴言吐いちゃった??

 いや反省している暇はない!

 シフトダウンとステアリング捌きで強引にレクサスを捻じ伏せ、ジャンクションが終わるギリギリでなんとかレーンチェンジを繰り出し、台場線に向かって飛び込んで行く。

 さすがの軍仕様のレクサスも、悲鳴を上げる。

 サイドミラーで確認すると、軍の後続車両はすでにほとんどが脱落している。

 二台はそのまま、左カーブを超高速で上がっていき、美しくライティングされているレインボーブリッジがその巨大な姿を現す。

 両側の眼下には漆黒の東京湾が迫り、吸いこまれてしまいそう。

「野郎! やるじゃねぇか!」と内田さんが叫んでいる間にも、レインボーブリッジを通過する。

「結局埠頭だ! お台場部隊、獲物が行くぞ! 封鎖を完了させろ!」

 メルセデスAMGは台場インターチェンジで降りようと、一番左レーンから高速を維持したまま右下りコーナーを攻めていく。

 いくつかの信号を無視しながらスピードをキープし、東京湾アンダーパスをくぐり抜け、地上に出る。

 そのまま右折し、青海一丁目交差点に向かう。

 とうことは、お台場先端の埠頭地域にいるはずの船舶が逃走先だ。


【同日 午前三時十三分 お台場】

 もうここは埋め立て地なので、道路も直線基調で、片側四レーン以上ある広大なものだ。

 右手には巨大ショッピングモールのビルが立ち並んで不気味な姿を現し、左は東京湾の真っ暗な海が広がる。

「付近の封鎖は?」

「完了しています!」

「よし、上空のM〇二から〇六は機銃掃射で進路を妨害せよ! 誘い込め!」

 国防軍は、ここで打って出る。

 埋め立て地の深夜、さらに封鎖も完了しているので無人の荒野である。

 陸軍の攻撃ヘリAH六四Eが編隊で次々に超低空に降下し、メルセデスAMGの進路に向けて、胴体下部の三十ミリ機関砲掃射を立て続けに開始する。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る