第111話 第六章 目覚めしタブレットの守護者は、優雅に踊る。(8)
首都高の標識に、谷町ジャンクションの表示が出てくる。
「ヴィオラ、この分岐は左だ」
内田さんの読み通り、メルセデスAMGは左レーンからジャンクションを通過し、右手の三号渋谷線から合流してくるクルマを、超高速のままひらりひらりとかわしていく。
インポートしたマップ情報によると、この先羽田空港にもお台場にも行ける。
地上に出てから周囲はすっかり首都の様相で、多数のビル群が立ち並んでいる。
そのビル群の照明がきらびやかで、緊迫したカーチェイスの背景を彩る。
わたしは、都心環状線内回りをそのまま猛スピードで疾走する。
上空には追撃をかけるヘリがいるらしい。
「少佐! 逃走車は完全にトレース出来ていますが威嚇しますか?」と無線が入る。
「軍のAH六四攻撃ヘリだ」とわたしに教えつつ、内田さんは、センターコンソール横の軍用無線機をひったくって命じる。
「首都高では、路面を打ち抜いてしまうリスクがある! 射撃は認めない。トレース情報を俺の後続車と合流してくる米軍に流しておけ!」「それから米軍には、羽田とお台場の二手に分かれて先回りするよう伝えてくれ」
一ノ橋ジャンクションを超え、ビル街を潜り抜ける様に浜崎橋ジャンクションに向かう。
「ヴィオラ! 次大きく右! その先は左右どっちか分からん!」
浜崎橋は間違いなく右で、そこからいったん一号羽田線に入るはずだ。
問題はその先だ、直後の芝浦ジャンクションを直進ならば羽田空港に決まりで、左に分岐してレインボーブリッジを目指すのであれば、お台場の埠頭に向かう。
◇◇
「しかし、すごいスピードね!」
メルセデスAMGの助手席のツァイツラー大佐が呟く。目の前の景色がまるでジェットコースターに乗っているかのように、もの凄いスピードで後ろに流れていく。
さすが、エレオノーラ。
これなら埠頭に接岸させている船舶に、このまま『保険』も使わずに逃げ込めるかもしれない、とヴィットーリアはほくそ笑んだ。
しかもタブレットと共に西郷も確保した。
インノケンティウス閣下もお喜びになるはずだ。
◇◇
内田さんの読み通り、浜崎橋ジャンクションに突入するとメルセデスAMGはスピードを保ったまま都心環状線の右レーンに入り、そのままきつい上りの右カーブにクルマを滑り込ませていく。
わたしのレクサスも追従する。
離されてはいない、縮まってもいないケド。
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