第110話 第六章 目覚めしタブレットの守護者は、優雅に踊る。(7)
◇◇
さっき三十秒ほど助手席から内田さんの実演を見たから、この『自動車』というデバイスの操縦方法を完全に把握出来てる。
わたしの能力からすれば、すでにレーシングドライバー並みの操縦が出来るはずだ。
内田さんの問いかけに返事もせず前方を睨み、鮮やかなステアリング操作で右コーナー、左コーナーと小刻みにクルマを躍らせる。
首都高代官町ICを封鎖すべく靖国通りから迂回してきた軍車両たちが、右側道から押し寄せて来る。だけどメルセデスAMGはそれらをかわし、あざ笑うかの如く猛スピードでICを突破してしまう。
数秒後、わたしのレクサスも唸りを上げて同様にICを通過する。
ICのゲートを通過すると、上り坂のトンネルをくぐり、すぐ右手に見えてくる都心環状線の内回りに合流する。
魔術を発動して、クルマのナビゲーション情報をインポート。この先のルートの特徴を把握する。
深夜なので、交通量はかなり少ない。
合流してすぐに、左に下る高速コーナーが現れてトンネルに入る。
ここは下りのコークスクリュー、トラクションを上手にかけねばならない。
クーリア・ロマーナのあの女エージェント、たしかエレオノーラと呼ばれていた。
近接戦闘といい、ドライビングといい、かなりの達人だ。
さっきだって『普通の人間』なら、確実に殺られていただろう。
運転にしても、クルマの動きに一切無駄が無くて、全ての動作がスムーズだ。
グン、とさらにメルセデスAMGは加速し、ややオレンジがかったトンネル内の照明が、飛ぶように後ろに流れていく。
だけど、わたしだって負けちゃいない。
細い指先を僅かに動かし、瞬間パドルシフトを操作してシフトチェンジを繰り出す。
そしてタイムラグをまったく出さずに、猛スピードをキープする。
メルセデスAMGに負けない、変速ラグの無い秀逸なオートマティック・トランスミッションが、わたしのテクニックに応えている。
これなら腕前自体はエレオノーラといい勝負だろう。
ストレートでは、すでに時速二百キロに達しようとしている。もはやロケットに乗っている様な感覚だ!
「内田さん、このクルマの重さは?」
必要なスペックは押さえておきたい。
「国防軍仕様のレクサスLSは、装甲と防弾ガラスを採用しているせいで、ノーマル仕様の倍近い四トンだ。だがその分、V型八気筒六千ccツインターボエンジンをフルチューンし、千二百馬力オーバーのスペックを誇る」
さすが内田さん、アタマの回転が速い。次に聞こうと思っていた質問にも答えてくれる。
当然受け止める足回りも特製だと思うけど、これだけのハイスピードバトルを繰り広げると、さすがのシャシーも軋み始めてる。
敵に追いつくまで、なんとか持ちこたえてよ!
だがクーリア・ロマーナのメルセデスAMGもフルチューンしているハズなので、それでもなかなか追いつかない。
「・・・車のスペックもそうだが、敵のドライバーがなかなかの腕前だな」
割れたガラスから巻き込まれる猛烈な風に翻弄されながら、内田さんが呟く。
なるほど、高速のタイトコーナーが多くアップダウンも激しいため、世界一危険と言われる首都高速都心環状線、ここはドライバーの力量が試されるステージ。
「この首都高で、このステアリング捌きとシフト操作! レーシングドライバーかよ!」
内田さんが隣で喚いているが、構わず前方のメルセデスAMGを睨んで運転に集中する。
オレンジの照明に包まれるトンネルを左、右とゆるやかなカーブの高速コーナーが続く。
たまに長距離トラックが現れるが、二台とはあまりの速度差のため、現われてはすぐに後ろに飛ぶように消えていく。
メルセデスAMGとレクサスはほぼ同じ車間距離のまま、猛スピードで駆け抜ける。
トンネルを抜け地上に出ると、ビル街の灯りと共に、上りの左コーナーが現れる。
ここの上りはキツイので、上り始めからトラクションをうまくかけなきゃいけない。だから、エンジンの回転数を上げ過ぎないところがポイント。
レッドゾーン直前まで回転を上げたいのが人情だけど、それでは最後の最後にトルクが落ちちゃうので、上手にMAXトルク付近をキープしなといけない。
トルクサイズは速度と違いメーター表示されないので、エンジンを回す感触から把握するしかないんだけどね。
だからここも腕の見せどころ!
そりゃそうよ! ここで見失ったらハチが・・・ハチが!
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