第109話 第六章 目覚めしタブレットの守護者は、優雅に踊る。(6)

 内田のレクサスがメルセデスAMGを追って白山通りに出た頃、サイドミラーに猛烈な速度で迫ってくる物体を認めた。

 センターコンソールディスプレイに表示される部隊位置情報をちらちら見て、矢継ぎ早に無線に叫ぶ。

「D三から六号までは、そこを迂回し、首都高速都心環状線の代官町ICを封鎖しろ!そうだ、待機させている警視庁も全部使え!」「モーデル中佐にも緊急通報しろ、あとこちらの位置情報とモニター情報も、すべて米軍に送るんだ!」

 ちらちら見ているうちに、物体の影がどんどん大きくなり左側に並走してきた!

 ヴィオラだ!

 そんな馬鹿な、内田がHUD内のデジタルスピード表示を確認すると、クルマは白山通りを百キロ近くで疾走している。

 次の一瞬、影が飛び、視界から消えたかと思うと、

 ドン!

 天井に猛烈な衝撃が走った。

 ヴィオラはこのクルマの天井に、飛び乗ったのか?

 伝わった衝撃でステアリングを取られないように格闘していると、助手席のガラスが、もの凄い音を立てて外から叩き割られた!

 防弾仕様の分厚いヤツを、易々と聖槍が貫いている。

 内田が叫ぶ。何から何までクレイジーだ!

 ガラスが割れたと同時に猛烈な風を巻き込み、一気に息苦しくなる。

 割られた窓の上方からヴィオラの頭がにゅっと現われ、高速走行中にもかかわらず器用にも車内へ乗り込んでくる。

「ヴィオラ! おまえ何やってんだ!」

 運転しながら内田が叫ぶが、一瞬にして助手席に乗り込んだヴィオラは、運転している内田をじっと凝視している。

 こうしている間にも、メルセデスAMGは信号を無視し、周囲のクルマを絶妙にかわしながら、猛スピードで皇居に向けて南下する。

 深夜なので都心でも交通量は少ない。クーリア・ロマーナが深夜を狙った理由の一つだ。

 メルセデスAMGは皇居手前に到達し、サネッティ少佐は速度を落とさずカウンターを当て(四輪駆動なのに!)、平川門交差点から内堀通りに右折していく。

 AMGの巨体が思いきり踏ん張り、リアを外側に振り出しながら疾走していく。

 それを追う、内田を先頭とする国防軍の車両群。

 内堀通りに入るとすぐに竹橋交差点で左右の分岐になる。

 首都高ならば当然左を駆け上がる。

 右手にビル群の不気味な影、左手には皇居の堀の闇が迫っている。

 交差点では信号待ちのタクシーが停車していて、道を塞いでいる。

 そこにメルセデスAMGがスピードを落とさず突入し、反対車線に飛び出し、そのまま強引に左の分岐に進路を戻す。やはり首都高だ!

「くそっ」

 内田は全速で追うが、どうにも差が縮まらない。

 隣で、ヴィオラがいらついている。

 すぐにいらつきがピークとなり、何かつぶやいたと思ったその刹那。

 内田は助手席に投げ出された!

 一瞬で。

 ガラスが無く猛烈な風を巻き込んでいるので、息が詰まりそうになる。

「?」

 内田は、なぜ自分が助手席にいるのか皆目理解出来ない・・・待てよ、運転は?

 ヴィオラだ!

 助手席にいたはずのヴィオラが、運転席に陣取っている!

「って、おい、よせ! おまえ運転出来るのか?」

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