第59話 第四章 アルス、ロンガ、ウィタ、ブレウィス(17)

「現代理論でもそこまでは想像出来るのね。すごいわ! やっぱり惚れちゃうかも!」

 ブリュンヒルトは楽しそうだったが、その横で、ヴィオラがしっかり不機嫌そうな顔をしていた。普段あまりこういう顔は見せないのだが。

「まいったな。超古代の魔術ってヤツは、想像を絶するんだな・・・」

 話しているうちに、俺の額にじっとりと嫌な汗が浮かんでいる。

 どれほど凄いことなのか身に染みているので、恐ろしくすら感じられるのだ。

「そういえば、話の途中で『ディア・マギア』・・・だっけ? あれは・・・」

 ブリュンヒルトが僅かにほほ笑みながら、しかし毅然として言い放つ。

「わたしとヴィオラは、マスターとスレイヴの関係を成す『ディア・マギア』、すなわち『タブレットの守護者』よ」

「・・・そして大昔、世界中に散って失われたタブレットを回収・保管することが務め」

 ブリュンヒルトはさらに続ける。

「タブレットは人類叡智の源泉。そしてディア・マギアはタブレットの力を完全に使うことが出来る者。すなわちこの世の理(ことわり)を統べる者」

 タブレットの正体すらまだ完全に信じられていないのに、その守護者って言われてもなあ・・・さらに困惑したが、すぐに気が付いた。

「・・・じゃあ! 君たちはタブレットを読めるのか?」

「残念でした」

 ブリュンヒルトは、アッサリと否定する。

「わたしたちでも読むことは出来ない。タブレットを製造した時にはまだいなかったしね。でもわたしたちは、タブレットに書かれた技術を使役する能力を与えられている。それが守護者たる所以よ」

 一瞬期待したんで明らかに落胆したが、すぐに次の疑問が頭に浮かぶ。

「「まだいなかった」? じゃあ君達は、いったいいつから存在しているんだ?」

「ナイショ。ふふふ・・・女の子に歳を聞くなんて失礼でしょ? もう」

 ウィンクを送るブリュンヒルトだが、俺はスルーして続ける。

「普通の人間じゃないのか?」

「失礼ねえ、わたしは普通の人間よ。まあ魔術は使うし、かなり長い間人類を見守ってきたけれど」

 ブリュンヒルトはそこで、ちょっとだけ端正な顔立ちを曇らせるが、それすら優雅だ。はっちゃけタイプのヴィオラとはだいぶ感じが違うよな。

「・・・あのな、それを普通の人間っていうのは無理だろ・・・。ちなみにヴィオラも君と同じ感じなのか?」

 横にいるヴィオラが、はっとした。

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