第58話 第四章 アルス、ロンガ、ウィタ、ブレウィス(16)

「なんだって?」

「クーリア・ロマーナは、タブレット収集に異常なほど執着している」

「・・・つまり、米軍から預かっているタブレットを奪いに来る、と」

「そのとおり。これでわざわざ日本国防軍が警護している理由が分かったでしょう?」

 内田少佐のことまで、知っているのか。

 どこからどうやって監視している?

「クーリア・ロマーナは手段を選ばず奪取に来る。あなたの命の保障は無い」

 思わず息を呑んだ。

 きょうは・・・いろいろぶっ飛んだ話が多すぎる・・・。

 ちょっと眩暈がするな・・・正直入力情報が多すぎて、アタマがオーバーヒートしたようだ。混乱し、汗が噴き出してきた。

「気分が悪いようね・・・それじゃヴィオラのところに戻りましょうか」

 ブリュンヒルトが言うや否や、またしても周囲の光景がぐにゃり、と曲がって渦を巻き始める。

 ◇◇

 どのくらい時間が経っただろう。

 ふと気がつくと、再び俺の部屋に戻っていた。汗は引いているようだ。

 心配そうなヴィオラが、腰掛けたままこちらを見ている。

「ハチ! 良かった、心配したんだから!」

 良い匂いだ・・・ああ、ヴィオラが隣で支えてくれているからか。

 部屋中をゆっくり見渡すと、たしかに博物館から戻ってきていた。

 やはり幻覚だったのか?

 だが、テーブルの上にある粘土板が視界に入り、俺は目を剥いた。

 無造作に十数枚も置いてあるそれは、博物館で見た粘土板じゃないか!

 持って来ちゃったってのか?

 いや、それ以前に・・・ちょっと待てよ・・・ということは・・・。

「そうよ、幻なんかじゃない」

 横にいるブリュンヒルトが言う。しばらく沈黙が続く。

 そうだな、この粘土板を見る限り偽物ではないし、本当に博物館にいたんだな・・・。

 思っていたことを口にしてみる。

「俺は・・・物理屋でもあるんで、君に聞いて欲しいことがある」

「?」

「君が見せた・・・そう仮に『魔術』と呼ぶことにしよう。ついさっき大英帝国博物館に俺を連れて行ったことを物理的に解釈すると・・・」

「おもしろいわね。いいわよ、聞かせて」

 ブリュンヒルトは楽しそうに聞いているが、かまわず続ける。

「情けないことに曖昧な推測レベルなんだが・・・どう見ても瞬間移動だ。空間を二点連結してワームホールを作った。もちろんこの空間軸はn次元で、時間・質量などが形成する。これが出来ると光も重力波もそこを通り、もちろん理論上人間も宇宙船も通過可能だ。通過すると一瞬にして二点の間を移動出来る。ま、結局SFなんだけどな」

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