第55話 第四章 アルス、ロンガ、ウィタ、ブレウィス(13)
ブリュンヒルトがあるものを差し出す。
「昔イギリスが奪ってきてここに陳列している粘土板よ。ここに刻まれているのは?」
「・・・楔形文字だ、おそらくシュメールの。特徴からするとウバイド期あたり・・・」
「さすが専門家ね! じゃあ、そのシュメール人はどこから来たの?」
「分かっていない」
「それもそのとおり。現生人類最古の文明といわれるシュメール。だけどそのルーツは分かっていない。どこから来たのか? どうやって文字を発明したのか?」
「・・・文明のルーツ、か・・・」
「あなたにとって、とても興味があるテーマのはずよね?」
「俺のことを知っているのか?」
だがブリュンヒルトはその質問には答えず、話を進める。
「さて、文明のルーツだけれど古代エジプトやバビロニア、いくつもの古代文明のルーツは、メソポタミア地域のシュメール文明というのが定説だわ。でも、そのシュメールのルーツについては鮮やかなくらい何も無くて、起源を辿ることが出来ていない。どうやってシュメール文明は始まったのかしらね?」
「・・・・」
俺はいつのまにか、ブリュンヒルトの話に強く引き込まれていた。
それはそうだ。彼女の言う『文明のルーツを解明する』、それこそ研究者である俺自身の究極のテーマだからだ。
「だってシュメールも、農耕文明から都市文明へ発達の足跡は見せているけれど、一方、文明を文明と言わしめる『個々の技術』はどうなのかしら? ジッグラドの建築技術や文字や金属精錬といった素晴らしいテクノロジーの数々は『最古のシュメール文明の最初期から突然現れている』のよ。しかもおそるべき完成度をもって。これは何を意味するのかしらね」
「そういえば、古代エジプトのピラミッドも、初期のモノの完成度の方が優れていることが多いわよね? しかもスフィンクスはあの完成度にもかかわらず、地質学的見解により、ピラミッドよりもさらに数千年も古いことがほぼ間違いなくなっている。その頃って古代エジプト文明の最初期より古いかもしれないくらい。
ギョベックリ・テペの遺構に至っては、紀元前一万年のものと言われている。でもそれって、従来は農耕・定住文化すら無いとされてきた時代なのよ。
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