第54話 第四章 アルス、ロンガ、ウィタ、ブレウィス(12)
「マスター・・・」
マスターって何のことだ?
ヴィオラの御主人様ということなら、それはいったいどういう意味だ?
それに先ほどから、ヴィオラの様子がおかしい。いつも朗らかなで笑顔の絶えないキャラなのに、やや青ざめている・・・。
「そうよね、さすがに説明不足過ぎるわよね」
「・・・」
「じゃ、それは後ほど話すとして、ちょっとお邪魔するわね」
そう言って、ブリュンヒルトは部屋に入って見渡す。
「ヴィオラ、ちょっと留守番していて頂戴、いいわね」
ブリュンヒルトはゆったりと左腕を振ると、突然何も無い空間から『聖槍』を手にする。
長さ一メートルちょっと、槍状の先端がキリスト教の十字に似た形状となっている。
彼女はほんのわずかに何事か呟く。
俺は驚きのあまり、口もきけない。
物理学の専門家でもある俺だが、さすがにコレは説明出来ない事象だ!
そうこうしているうちに、ブリュンヒルトと俺の周りの空間が、ぐにゃりと激しく歪む。
周囲から音も消え、気分が悪い。圧迫感が強烈で周囲の光景がぐだぐだになる・・・。
◇◇
・・・・瞬きをすると、そこはどう見ても俺の部屋ではなかった。
ゆっくり見渡す。
とてつもなく広い回廊と無数の列柱、高い天井、大理石の床、ほぼ白一色の世界。
大勢の観光客の喧騒。聞こえてくるのは英語ばかり。
どこなんだ?
展示ケースがたくさん並んでおり、中には古代オリエントのモノと思われる数々の装飾品や石板が展示されている。
「ここは・・・?」
自分でも動揺がハッキリ分かった。
「ブリティッシュ・インペリアル・ミュージアム(大英帝国博物館)よ。ロンドンの」
これは幻覚なのか? 必死に頭を巡らせるが、彼自身も訪れたことのあるその場所は、どう見ても本物としか思えなかった。
「・・・ふふふ。ホンモノよ。さて、それではちょっとわたしとお話しましょうか」
ブリュンヒルトが俺を見て微笑む。
俺はショックでよろめき、大きな列柱に寄りかかった。
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