第52話 第四章 アルス、ロンガ、ウィタ、ブレウィス(10)

 ◇◇

 十分程たった頃だろうか、ドアにノックがあった。

「ハチ! お帰り。ずいぶん早かったね!」

 わたしは嬉々としてドアを開けたんだけれど、目の前にハチじゃない人物が。

「マスター・・・」

 目の前の美少女は、わたしより少しだけ背が高く、薄紫のシャツにベージュのタイトスカート・・・たしかにわたしのマスター、ブリュンヒルト・パレオロゴスだ。

 ここに来る前の記憶の断片が、そう囁いている。

 金髪の、膝まで届こうかというロングヘアー。

 そして、美しい湖面を連想する緑の瞳、文字通りの金髪碧眼。

 透けてしまいそうな白い肌。

 華奢な身体だが、姿勢の良さも手伝って、凛とした雰囲気。

 ピンクの唇がゆっくり開く。

「ヴィオラ、ようやく見つけたわ。あなたの残した波動をトレースしたのよ。まさか極東の日本なんかにいるとは思わなかったけれど・・・なぜここに?」

 マスターが尋ねる。

「・・・気がついたら来てた。たぶんここにタブレットがあったから、だと思うの」

「タブレットですって? っていうか、もしかしてあなた以前の記憶が・・・?」

「ここに来る前の記憶が曖昧なの」

「わたしのことはかろうじて覚えているのね。あなたにはわたしをサポートする重要な仕事があるのだけれど」

 たしかに彼女は私のマスターだ。でも、いまわたしはここにいる。

 ・・・つまり、スレイヴとしての役目を放棄してしまっていたのだろうか。

 ◇◇

 ブリュンヒルトは、アルティフィキャリスの変わり様に驚いた。

(いままで感情など全く無かったのに・・・アルティフィキャリスは・・・)

 マスターであるブリュンヒルトには、かつて見せたことのない姿。

 喜怒哀楽があり、年齢相応の笑顔も見せる。

 声だって朗らかだ。

 どうやら一度メモリーがリセットされてしまったようだが、それを機に、アルティフィキャリス級が進化しようとしているのだろうか? 

 あり得ることだ。たとえマスターであっても、アルティフィキャリス級の全ては到底把握出来ていない。

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