第51話 第四章 アルス、ロンガ、ウィタ、ブレウィス(9)

【五月十八日 午前一時半 神保町】

 西郷が本格的に分析作業を始めてから、かれこれ一週間近くが経つ。

 日米両軍もクーリア・ロマーナも、表面上は平和なので互いの情報収集に集中していた。

 静かな状態であった。

 そんなとき、西郷の周囲、とりわけヴィオレンテーリア・アルティフィキャリス、その彼女を見つめている別の視線があった。

 ◇◇

 俺はその日の研究を日付の変わった深夜に終え帰宅した・・・というか正確には、徹夜を続けてしまったので疲労困憊となり、いったん中止したのだけれど。

 なにせ研究を始めると、土日であろうと祝日であろうとお構いなしだ。

 帰宅すると、さっそくヴィオラが何か作ると言ったのだが、俺としては早く寝かせたかったので(夜更かしはお肌に悪いんだぞ)、インスタントにしようと言い張った。

 ・・・のだが、生憎買い置きが切れていた。

 徒歩二分にコンビニがあるので、さっさと買ってくることにした。どのみち明日以降、研究での籠城に備え、大学にも持ち込んだ方が良いと思っていたんで。

「でも、ハチは研究で疲れているんだからさ、わたしが行くって!」とヴィオラが財布を持って速攻飛び出そうとするが、全身で受け止めて阻止した。

 そう、豊かな胸ごと、がっちり受け止めた。

 だけど腰回りは折れそうなほど華奢で細い。

「ご、ごめん! いや! 他意は無くってだな!」

 慌てて言い訳をするが、ヴィオラは真っ赤になりつつも、

「・・・でも、男の子だったら触りたいでしょ?」「・・・じゃ、じゃあさ。もっとしっかり触っちゃう?」

「!」

 一瞬にして凍り付いていると、

「な~んて! ね?」ぺろりと舌を出す。

「~っ。オマエな! また男の性を弄んだな! 許さんぞ!」

 咄嗟に体を離して逃げるヴィオラは小声で呟く。

「・・・でもハチだったら、別にいいんだけどな」

「あ? なんか言ったか?」

「ううん、それより買い物行かないと」

「ああ、ダメだ。女の子ひとりで外出していい時間じゃない!」

 珍しく語気を強めたので、ヴィオラは仕方がないな~というリアクションで財布を返す。

 俺は踵を返すとそのままコンビニに向かう。

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