第49話 第四章 アルス、ロンガ、ウィタ、ブレウィス(7)

『国防総省生命科学研究局(VBF)』

 いわゆるアメリカDARPAのヴァチカン版である。

 ただしこちらはタブレット記述情報を使用する、まさに人類最高峰の頭脳である。

 その地下四階の最重要エリアの無菌実験室を、インノケンティウス十六世上級枢機卿がガラス越しに熱心に見入っている。

 ガラスの向こうには、椅子に腰かけている義体が精密なヴァーチャル空間にダイブし、日常生活を送るシミュレートをこなしている。

「メンタリティ・テストは予定通り進んでいるんだな?」

「はい、予想以上に順調です」

 技術部門責任者のフォンターナ司教が、セミロングのブルーヘアーをいじりながら、PCの解析データを見つめている。

「閣下、少しよろしいでしょうか?」

「何だ?」

「その・・・ここまでする必要が本当にあるんでしょうか・・・。この義体は、人類と完全に同じ体躯を持っているものの、骨や皮膚などの構成要素はタブレット記述情報を基に開発された未知の新素材です。同様にタブレットのおかげで、ヒトゲノムまで操作出来たため、普通の人間は比較にならない程強靭な存在です」

 ここでフォンターナは意を決したように、自らの疑問を口にする。

「それはある意味・・・もはや『ヒトならざるもの』とも言えます・・・さらに人格・知識を完璧にインストールした『コレ』を・・・我々が完全に制御出来るかどうか」

「産みだしてしまって良かったのだろうか、と言いたいのか?」

 セリフを継いだ美少女は、美しい金色の瞳をフォンターナに向け、

「なあフランチェスカ。我々は主に仕えるクーリア・ロマーナの敬虔な信徒だ。すなわち人類を導く崇高なる義務がある。だが現実を見ろ・・・我々現生人類は争いを続け、しかも種としてあまりに脆弱だ」

「・・・・」

「まずは世界から愚かな争いを一掃して、全人類を我々の下に集約する。そして人類自体も次のステップに進化せねばならない。ネアンデルタール人の様に滅びるわけにはいかんのだ」

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