第15話 第二章 偽りの説教者は、タブレットを所望する。(10)

 そんな彼女なので、部下からも絶大なる信頼を寄せられている。

 そしてもうひとり、インノケンティウスの隣に座るアンジェラ・フェッラーラ枢機卿。

 二十五歳のイタリア人。

 国防長官インノケンティウスの首席補佐官も兼ねる武装親衛隊中将。

 一七五センチの身長は、一六二センチのインノケンティウスの横では、頭一つ抜き出ている。背中まで届くストレートヘアと、薄い縁の眼鏡が印象的な知的美女だ。

 その瞳は赤く燃えているかのようだが、性格的にはインノケンティウスと真逆で冷静そのもの。対外部署調整や事務処理が得意で、これもインノケンティウスと正反対。

 前線に身を置くことが多く、またそれを好むインノケンティウスに代わって、陰からサポートするのが彼女の役目だ。

 なんといっても、クーリア・ロマーナもいわば組織としては巨大であり、組織運営の観点では一般の企業と何ら変わらない。

 つまり、いくら軍事の天才が前線にいても、武器を買う資金の調達(予算獲得)、そのための準備(根回しやプレゼンテーション)、要員の確保(人事)、諸々の手続き(申請や決裁)、果ては兵器開発に関するプロジェクト・マネージメント(スケジュール管理・インシデント管理)等々、一般企業と同じようにバックヤードをきちんとしないと、戦争には勝てないのである。

 いや、戦闘の勝敗がどうなるか以前に、武器を手にすることさえ出来ないのである!

 ・・・このふたりが、武装親衛隊の心臓部である。

 そのいでたちは、白のシャツに薄い赤のスラックス。

 シャツの襟には、金の徽章と共に白の柏葉が刺繍されている。

 そして、シャツの襟元から胸のあたりには、金の大きな十字架が付けられ、それらの上に薄い赤のコートを着用している。

 そこには濃い赤の襟が付いており、『教皇の三重冠と天国の鍵が交わる紋章』の金刺繍が施されている。

 総じて白・赤・金の配色というパターンは、国防総省で一般的なわけではなく、武装親衛隊独自のものであり、『教皇に近しい部隊=親衛隊』であることが分かる。

 どう見てもデザイン自体は軍服なのだが、教皇紋章が入っていることで聖職者を兼ねていることが分かる。

 幹部二人の手前には、ストレート気味のショートカットの金髪に、薄型眼鏡をかけているヴィットーリア・フォン・ツァイツラー枢機卿(武装親衛隊大佐)が腰掛けている。

 知的で物静かな印象だ。

 その隣には、癖のある赤髪を持つエレオノーラ・サネッティ司教(武装親衛隊少佐)が腰掛けているが、こちらは対照的に活発な印象だ。

「ニネヴェの時には逃しちゃったけど」

 テーブルに肘をつきながら、インノケンティウスが口を開く。彼女が考え事をしている姿勢だ。

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