第14話 第二章 偽りの説教者は、タブレットを所望する。(9)

 特に武装親衛隊は最後発の組織ではあるが、教皇個人に忠誠を誓い、高い士気・少数精鋭・装備の先進性を誇るエリート部隊である。

 その実績は輝かしく、この半年だけでも一国の正規軍を相手に完勝を収めている。

 たとえばウクライナとの国境地帯におけるロシア正教会との紛争において、正教会の後ろ盾であるロシア連邦軍四個師団をわずか二個大隊にて撃破。

 またトルコ・シリア国境地帯におけるイスラム教会との紛争では、トルコ共和国軍三個師団を相手に、わずか一個大隊にて撃破。

 いずれも、紛争地域の無政府状態に乗じてキリスト教徒を庇護し、異教徒住民には神の御名のもと容赦なく武力で排除を行う徹底ぶりだ。

 大国のアメリカ合衆国が、警戒するのも当然の流れであった。

 だが、その背景には、武装親衛隊が近年最優先任務に据えている『現生人類未到達技術が記載されている粘土板の回収、並びに解読』が大きく役立っている。

 数年前、世界に先駆けて粘土板の秘密に気付いた武装親衛隊は、何度も回収に成功しており、一部は解読にも成功している。

 その成果が、先般ニネヴェにおけるアメリカ陸軍との交戦で如何なく発揮された、不可視化・防護フィールド・レーザー砲である。

 今日もクーリア・ロマーナ国防総省において、その武装親衛隊の作戦会議が行われている。最も奥の議長席に少女がひとり。

 インノケンティウス十六世上級枢機卿、クーリア・ロマーナの最高幹部である。

 本名は『エカテリーナ・ド・コンティ』、中世の教皇権力絶頂期の代表的教皇、インノケンティウス三世直系の子孫である。

 僅か十七歳のイタリア人。

 国防総省のトップである国防長官であり、兼任する武装親衛隊トップでもある(階級は上級大将)。

 やや小柄な身体だが、金髪のショートカットと共に金色の瞳は、いかにも野心に燃える才気を示している。かなりの美少女と言って良い容貌だろう。

 天は二物以上を与えることもある・・・という証拠に、彼女は若くして三種類の博士号を持つ才女であり、天性の人心掌握術と部隊指揮能力を持ち、兵器開発の先陣を切る技術屋でもある。

 事実、国防総省への入省を果たした十一歳以降の幾多の戦闘で、傑出した実績を挙げた軍事の天才である。

 それだけの才能を持つ超エリートなのだが、とにかくアツい性格だ。

 必要があれば、現教皇からの寵愛を利用して、その教皇にさえストレートに意見を言うし、部下にも素のまま接している。

 教会の高官にもかかわらず、異教徒討伐の最前線に常に身を置くことを好む。部下と共に野戦指揮所の天幕で糧食を食べ、弾幕の中で吠え、埃にまみれている。

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