第13話 第二章 偽りの説教者は、タブレットを所望する。(8)
◇◇
内田の相手が終わったモーデルは、ホテルの駐車場のクルマに戻るとすぐに軍の専用無線機を取出し、部下を呼び出す。
「俺だ。ウイリアム、部隊の編成はどうだ?」
「順調です。第一大隊総員は、横田ベースに到着して装備を確認中。車両とB装備は明日〇六〇〇時に到着予定」
「日本陸軍の動きは、いつからトレース出来る?」
「明日〇七三〇時、全車配置につきますので、ウチダ少佐が自ら大学へ行く時には完全にトレース可能です」
「NSA経由の衛星監視データは、取得出来ているか?」
「問題ありません」
「よし、引き続き進めてくれ。俺はこれからそちらに戻り、今回の作戦方針を各中隊長に説明する」
「了解」
「あとな! クーリア・ロマーナの動きをチェックして至急報告しろ。そうだ、特に駐日教皇大使をマークしろ! 教皇庁のエージェントも既に日本に潜入しているはずだ」
【現地五月八日 午後二時半 ヴァチカン市国 クーリア・ロマーナ 国防総省】
イエスの時代、原初キリスト教と決別した『キリスト教ローマ教会』は、キリスト教正教会をも凌ぐ勢いで信徒を増やし、西ヨーロッパ・南北アメリカを中心にキリスト教の最大宗派となっていた。
世界でも最もメジャーな宗教であり、その総本山がこのヴァチカン市国である。
イタリアのローマ北西部に位置する丘の上に、城壁に囲まれた約〇.五平方キロメートル程度の国土を持つ。
サン・ピエトロ広場、サン・ピエトロ大聖堂、システィーナ礼拝堂などは特に有名であり、あたかも国家の建築物がそのまま世界遺産になっている感じだ。
統治者はローマ教皇であり、人口約千五百人の国民全てが聖職者である。女性の聖職者も約五割存在する。
一般の国家と同様に中央集権的な政府機能により運営され、その政府機能は『ローマ教皇庁〈クーリア・ロマーナ〉』と呼ばれる。普通の独立国家と同様の政府機関である。
教皇庁の代表的な組織を挙げると、国務省(教皇の権限行使の補佐並びに諸外国との外交を担当)、国防総省(ヴァチカン市国防衛と国外教区の防衛支援を担当)、教理省(教義の維持と宣教を担当)、司教省(教区の管理を担当)、理財省(歳出入並びに予算管理を担当)などである。
各省トップの長官は、教皇の顧問団である枢機卿団から選出されるのが通例である。
これを見ても分かるように、教皇からの距離の近さ、要職に就任する権利といった点から、枢機卿というのは宗教・政治組織上、大幹部ということを意味する。
近年世界では宗教に根差した紛争が激化していることもあり、国防総省の庁内での発言力が増している。その流れを受けて国防総省は、当初のヴァチカン市国の自衛という建前を大きく超えて紛争地域のキリスト教徒を武力支援し、さらに異教徒への撃滅戦を行うことすら当然視されている。
国防総省の管轄には、空軍・陸軍・武装親衛隊の三軍があり、任務の性格上海軍は所持していない。輸送にて海路が必要な場合に備え、空軍と陸軍に海上輸送部隊が存在する。
この三軍を合わせて、二十個師団・十万名を擁している。
全員が聖職者であり、大半は国外駐屯地に駐留している。
まさに聖職者自らが武装した、中世の聖堂騎士団(テンプル騎士団)の様な存在だ。
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