第11話 第二章 偽りの説教者は、タブレットを所望する。(6)
西郷だって?
内田は過去その名前に縁があったような気がした。まだ思い出せないのだが。
だがなによりも、研究者個人まで指名とはどういうことだ?
国家経由での委託、安全保障に関わる考古学的遺物、研究者の指名という違和感だらけの任務に内田は警戒せざるを得なかった。
「最後にメジャーウチダ、重要なことを。あなたの指揮する国防軍の警備を我が方にもサポートさせていただきたいのです」
なるほど、彼ら(米軍)は本来自分で警備をしたいのだ。
だがここは主権国家日本、さすがに軍事同盟を結んでいても好き勝手には出来ない。
だからこちらの顔を立てておいて、そこに支援という形で参加せざるを得ないわけだ。
そこまでして警備をしたいという動機は・・・何なのだ?
遺物に大変な秘密が隠されているのか?
だからその遺物を、誰かが狙っているとでもいうのか?
だが、日本国防軍だって仮にも先進国の正規武装組織であり、一国の国軍なのである。
そんなにヘボな訳がないだろうが。
その我々を信用出来ないとはどんな敵なんだ?
これは裏を探らないと、とんでもない貧乏クジを引かされるかもしれない。
「わかりました。ヴォルフさん。ところで米軍側の責任者はどなたでしょう? 直ちに連絡を取りたいと思います」
「ああ、そうでしたね。当方は陸軍のモーデル中佐が指揮を執ります。貴官のことは、この後すぐにモーデルに伝えておきますので、よろしくお願いします」
モーデルだと!
なるほど・・・確かに米軍は本気のようだと内田は納得した。
モーデルは、陸軍のエリートである特殊部隊のエースだからだ。
国防軍の中でも勇名が轟いているくらいの、戦功目覚ましい陸軍軍人だ。
だが幸い内田の知った顔なので、早速探りを入れてみようと考えていた。
まずは、国防軍の警備体制の構築に取り掛からねばならない。
内田はオフィスに戻り、内線で陸軍の部下に指示を繰り出した。
【同日 午後九時四十分 新宿 セリニアンホテル三〇階 バー『オルドリッジ』】
高層ビル群が佇む美しい夜景の中、ホテルのバーの一角に陣取る内田少佐は一杯やりながら、これからの話題についていろいろ思いを巡らせていた。
そこへ、屈強な外国人が現れる。
「よう! ウチダ。久しぶりだな、元気か?」
アメリカ合衆国陸軍モーデル中佐が、ラフな私服で登場だ。
過去に内田とはかなり面識があるらしく、親しげに声をかけてくる。
「最初に割り込んで悪いがウチダ、粘土板の警備は万全だろうな?」
「心配するな、今晩から陸軍省の最高機密エリアに保管している・・・だがな、たかが粘土板になんでこんな大袈裟な」
「・・・『たかが』じゃねぇんだよ、これが」
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