第10話 第二章 偽りの説教者は、タブレットを所望する。(5)

「内田少佐、合衆国国防総省から極秘の依頼があった。その内容を検討したのだが、君に担当してもらいたいと思う」

「はあ・・・それで、その内容とはどういったものでしょう?」

 説明しようとする副長官を手で制し、ヴォルフ駐日武官が話し始める。

「メジャーウチダ。あなたは英語が堪能のようだから私が直接説明しましょう。これは日米軍事同盟の基盤に係る重要な依頼です。実は中東で発掘した考古学的遺物があるのですが、日本政府を通じて、ある大学に解析を依頼したいのですよ」

「なるほど、しかしわたしに期待する役割は?」

 内田はヴォルフにではなく、むしろ副長官に自分を指名した理由を聞きたくなった。

 しかも依頼に来たのがなぜ国務省ではなく、国防総省なのか?

 要はアメリカ軍だ。

 そもそも考古学の研究を国軍レベルで委託するなんて、聞いたことが無い。

「遺物の警備をお願いしたいのです」

 にこやかに説明を続けるヴォルフに対して、内田はますます訝しむ。

「しかしヴォルフさん。考古学的研究であれば貴国の方が得意のはずでしょうし、まして警備であれば、軍でなくとも民間の警備会社を雇えばよろしいのでは? そもそもわざわざ政府を経由して研究委託する遺物とは、いったいどういったものなのですか?」

 内田は海外駐留時代、現地のあらゆる勢力(政府・テロリスト・反政府民兵など)と対峙した経験が豊富であり、ヤバい話に対し非常に嗅覚が鋭い。

「メジャーウチダ、良い質問です。ですがそれについては、安全保障に直結しているとしかお話出来ません」

 内田は内心溜息をついた。この男は将官だ、いろいろ突っついたところで余計な情報を口にすることは無いだろう。

 まあ副長官のヤツも思いっきり、

「アメリカさんの機嫌をつまんねえ質問で壊すんじゃねえよ」って顔で睨んでいるので、内田はこれ以上詮索するのをやめた。

「では、ミスターヴォルフ。この後具体的にどうすれば?」

「今日中に、貴官のオフィスに部下を向かわせます。もちろん遺物一式も持って。ですから早速警備体制を構築してください。いいですか? 詳細はお話出来ませんが、単なる考古学的遺物であるというよりは、軍事上の最高機密物件の警備と認識してください」

「・・・了解しました。研究機関への委託については、本日受領する資料一式の中身を確認して行えばよろしいですか?」

「その通り、委託先の研究者の個人名まで限定されていましてね。国立学芸院大学の学芸員であるドクターサイゴーにお願いしたい」

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