第8話 第二章 偽りの説教者は、タブレットを所望する。(3)

【現地五月五日 午後二時十分 アメリカ合衆国 ワシントンD.C. 国防総省】

 アメリカ合衆国国防総省、通称ペンタゴン。

 世界の超大国を自認する、アメリカ合衆国軍事部門を司る巨大組織だ。

 バージニア州アーリントン、ポトマック川を臨む広大な場所にあるそのビルに約三万名が勤務している。

 巨大組織に似つかわしい五角形の巨大ビルの二階で、国防政策委員会が開かれている。

 国防総省の行動指針を最終承認し、実施中の作戦に関するレヴューを行う意思決定会議である。

 常任の会合メンバーに加え、省内の統合戦力軍(研究開発担当JFCOM)、国家安全保障局(NSA)、国防高等研究計画局(DARPA)、さらに省外の中央情報局(CIA)メンバーも臨席している。

 当然、スーツ組・制服組が交じっている。

「それでは次のテーマに移ろう。例の粘土板の件だな」と、委員長が切り出す。

「そうです。まず前回御報告の内容・・・『クーリア・ロマーナ国防総省に強力な軍事力強化の意志がある』『彼らの軍事技術はいくつかの点で明らかに現生人類未到達技術を使用している』『その技術の起源は、超古代の粘土板に記述されている情報である』・・・という点について、変更はありません」

 出席メンバーは、眼前に浮かぶHUD(ヘッドアップ・ディスプレイ)で、省内クラウド情報を瞬時に共有する。

「次のステージとして、過去にその様な特殊な粘土板を発掘したことがあると思われるボストン大学に、ニネヴェでの発掘を要請しました。これは我々の手中に今からでも該当する粘土板を収集し、これ以上クーリア・ロマーナの手に渡るのを阻止することも兼ねます」

 説明を始めたCIA局員は、ここでいったん説明を区切った。

「続けたまえ」

 委員の一人が促す。

 CIA局員は、三十人程の円卓の出席者を見渡す。

「今年四月までのニネヴェ遺跡発掘の成果として、十三枚の粘土板を獲得しました。これらはボストン大学ホワイト教授の鑑別にて、現生人類未到達技術が記されているモノと推察されます」

「肝心の解読は進んでいるのかね」

 ここで委員の一人が質問する。

「解読出来んと、その現生人類未到達技術を、我が国が取得出来んのだろう?」

 別の委員も指摘する。

「・・・進んでおりません。ホワイト教授のチームを以ってしても」

 場に沈黙が訪れる。

「・・・ひとつ可能性があります」

 DARPA局員が口を挟むと、メンバーの視線が注がれる。

「ホワイト教授と今月もセッションを重ねましたところ、過去ボストン大学が例の粘土板と思しきものについて、解読のヒントになるレポートを出したことがあった・・・という事実が判明しました。二年前のことです」

「では、なぜ教授の解読が進まないのかね?」

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