第7話 第二章 偽りの説教者は、タブレットを所望する。(2)

 すぐ後ろの道端に、少女が一人立っている。

 美しかった。

 それしか言葉が浮かばない程、美しいと感じた。

 夕日を浴び輝いてはいたが、その少女自体が美しかった。

 あまりの美しさに・・・俺の眼は釘付けになった。

 薄い赤、いや正確にはピンクのロングヘアーが、僅かに風になびいている。

 グリーンの瞳。

 ピンクの唇。

 肌も抜ける様に白い。

 とにかく顔の造形が素晴らしく整っている。ギリシャ文明の美の女神のようだ。

 赤髪碧眼の美少女。

 外国人だが、東欧出身だろうか。

 背丈は、俺より低く一六五センチくらい。

 服装はレディースシャツとスカート、普通の女子高生のように見える。

 だが、なにより印象的なのは、その儚げなイメージだ。まさに陽炎のように、夕日の中に佇んでいる。

 息をのんだ。気が付いたら・・・呼吸していなかったほどに。

 彼女はじっとこちらを見ている。

 ほとんど無表情だ。

 俺は突如呪縛から解放されて我に戻り、その場で深く息を吸った。

 そのとき、少女の唇が動いた。

「リンクエト、オムネ、スペム、ウォス、クィ、イントレイティス」

 瞬間理解した、ラテン語だ。

 次の瞬間、少女の姿は無かった。

 幻なのか。

 いや違う、確かにいた。

 まだ甘い香りが残っている。

 俺は狐につつまれた感じが拭えず、頭を掻いた。

 ・・・それにしても、この地でダンテとはね。しかもラテン語だ。

『汝、ここに入る者よ、一切の望みを捨てよ』・・・少女のつぶやいたセリフを口にする。

 どういうことだ? やはり幻覚か。

 それにしても幻まで見たとすれば、彼女イナイ歴が長いせいかな、思わず苦笑した。

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