第240話 外国の魔討士
「ところで、すごい勢いで追い上げて来てる人がいるって知ってます?」
「いや、知らない」
これは性格の問題なのかもしれないけど、あまり知らない人のランクには関心がない。
自分のランクには拘りはあるし、斎会君や清里さんのように知り合いになった人は別だけど。
「私達と同じ高校3年ですけど、この1月から3月までに定着ダンジョンを4つ潰したと聞きました。そんな深い奴じゃないらしいですけど」
清里さんがいう。
野良ダンジョンではランダム要素というか運の要素が強すぎてランク上げはやりにくい。
あえて定着ダンジョンに潜っている人はランク上げに拘る人だ。
「一応俺達も追われる立場ってことかな」
「気が抜けませんね。宗片さんじゃないですけど、追いかけてくる人に恥じない存在でいないと」
清里さんがなんか生真面目そうな顔で言うけど。
「本音は、追い抜かせなんぞさせるかいな、でしょ」
「まあ、そうですね」
清里さんがにっこり笑う。
「ミズキやショータに負けるのはしゃーないけど、ぽっと出の奴に抜かさす気は無いで」
小さい声で清里さんが言った。
「ところで、どんな人?」
「詳しくは知りませんけど、外人さんらしいですよ」
「魔討士で?」
セス達はあくまで
ルーファさんがタイ人と言う名目で魔討士になってるから外国人魔討士がいても問題はないんだろうけど……かなり珍しい気はする。
「私も噂で聞いただけなので詳しくは……なんか今は東海の方で活動しているようです」
「乙類5位同盟に新規加入者が増えるのかね」
「たしか動画が上がってはずです」
そう言って清里さんがスマホを操作して机に置いた。
動画サイトのyour theaterが画面に映って、最初にOZの文字を意匠化したエンブレムが出る。
その後に前触れなく結構な音量でBGMが掛かった。慌てて清里さんが音量を下げる。
画面が切り替わって男の人が大写しになった。
逆立ったような短いこげ茶の髪に面長のサングラス姿の白人だ。SFっぽい黒いボディスーツを着て、背中には銀色のバックパックのようなものを背負っている。
なんていうかSF映画の兵士っぽい。
ポーズを決めたところで格闘ゲームのキャラ紹介のように Ryan Griffin と文字が入った。
彼はライアン・グリフィンと言う名前らしい。
両手から白いブレードのようなものを形成した彼が奥多摩ダンジョン系の蟲型の魔獣を次々と切り裂いていく。
動作と音楽が上手いこと組み合わされていて、かなり格好いい。
暫くして画面が切り替わった。
ゴーグルをかけたこれまた白人の長い赤毛の女の人が画面に映る。芝居がかった感じでゴーグルをクイっと持ちあげて不敵な笑みを浮かべた。
ただ、眠たそうな目つきで今一つポーズが似合ってないな。
仕草に合わせるように小型のドローンが彼女の周りを飛んだ。
同時にScarecrowと言う文字がまたカットインで入る。
「案山子?」
清里さんが呟く。
これはこの人じゃなくてドローンの名前だろうか。
また映像が切り替わって、ライアンと彼を守るように飛ぶドローンの戦闘シーンになった。
シールドのようなものを形成した6基のドローンがライアンを守るように飛んで、魔獣の攻撃を受け止める。
切り込んだライアンが魔獣をなぎ倒したところでまた映像が切り替わった。
長いドレッドヘアのがっちりした黒人の男の人が画面に映る。
ツナギのような作業服を着ていて、大き目のタブレットを操作してこっちに向けて笑顔でサムズアップした。
見た目はライアンよりも戦士っぽいけど……何となくメカニックっぽいな。
ライアンとさっきの女の人が握手を交わす場面とか、日常っぽい場面が次々と切り替わっていく。
背景を見る限り日本で撮ったのが多いっぽい。日本向けのアピール動画なんだろう。
最後に長めの髪を緑と赤に染めた派手な感じの女の人が画面に映った。
肌の色がルーファさんのように褐色で、唇や鼻にピアスをしている。目鼻立ちがはっきりしていて濃い感じの顔立ちだ。
Tシャツ姿の首とか肩には派手なタトゥが入っていて、金色のネックレスを掛けている。
「コレからニホンで活動シマスから、ミンな応援してね」
その子が笑顔で手を振った。
「チームOZ!1!2!3!」
ライアンと、眼鏡の女の人と黒人の男の人、それとその女の子が円陣を組んで空を指さして、動画が終わった。
◆
「なんかすごいね」
「どこかのゲームのムービーとかスポーツ選手のプロモーションビデオっぽいな」
斎会君が呟く。
日本で一番有名な魔討士で動画配信者は伊勢田さんだ。
それ以外にも最近はダンジョン内の動画配信をしている魔討士は増えてきた。
でもこの動画の出来はそんなレベルじゃない。
文字通りプロ顔負けだ。
「ていうか、本当に高校生?」
背が高いし同じ年にはあんまり見えないんだけど……高校生なんだろう。
セスやカタリーナ、パトリスもそうだけど、外国の人は年上に見える。
「チームってことは、魔討士の能力持ちはこのライアン・グリフィンだかっていうこの男だけなのかな」
「そうっぽいね」
ということは……黒人の男の人と、眼鏡姿の白人の女の人と、派手な格好の女の人はライアンなる彼のサポートメンバーってことなんだろうか。
魔討士のパーティというのはいくらでもあるけど、一人の魔討士をチームで支えるっていうのはあまり聞いたことがない。
◆
「ところで、最近はそんなに野良ダンジョンがあるの?」
野良ダンジョンは以前はちょくちょく遭遇していたけど、最近は御無沙汰な気がする。
まあ平和なのはいいことではあるけど。
「八王子系が最近増えてるみたいですね。東京や大阪は魔討士の人数が足りてるからいいんですけど、地方だと野良ダンジョンを討伐できなくて定着ダンジョンになってしまうみたいです。勿論深くなるまでに討伐されるんですけど」
「北海道でも良くあるよ」
「そうなんだ」
清里さんが教えてくれた。
言われてみると富山で戦ったダンジョンもそんな感じかもしれない。
あれも完全な定着ダンジョンになる前に倒せたから良かったけど、5階層以上の深さになるとかなり討伐が難しくなるらしい。
「しかしなんでアメリカ人が日本で魔討士やってんのかな」
「その辺は動画では言ってないんですよね」
清里さんがポテトフライを摘まみながら言う。
とはいえ、高校生で同ランク帯ならいずれ会うこともあるかもしれない。
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