第236話 乙類1位との練習試合
「久しぶりやなショータ、それにミズキ」
「久しぶり。元気だった?」
木曜の夜九時の自分の部屋。
最近は大体この時間に斎会君と清里さんとビデオ通話をしている。
同年代の同じランクなんやし、乙類5位同盟ってことで折角なんだから仲良くしようや、という清里さんの発案で定期的に話している。
「最近は調子はどう?」
「ぼちぼちやなー、大したことしてへんわ。ちょっと茨木の定着ダンジョンを畳んできたくらいやで」
大したことしてないと言ってはいるけど、ドヤ顔なので自慢したいオーラが出ている。
まあそれはそれとしても、定着ダンジョンを討伐してるのは流石だな。
「一人で?」
「いややなぁ、ミズキ。さすがにあたしもソロは無理やで。児玉の兄ちゃんとか全部で4人やな」
「俺は野良ダンジョンで戦ってるくらいだ」
「で、ミズキはどうなん?」
「ああ……台湾の人とダンジョン攻略をした」
「ほーん、やるやん……しかし台湾の人とか、なんか偉い歯切れ悪いなぁ」
清里さんが探るような口調言う。
色々と嘘なんだけど……さすがに異世界に行った、なんてことは言えるはずもない
◆
「そういえば、ミズキ。一応確認なんやけど、なんか異世界の人ちゅーのがこっち来とるって知っとるんやろ?」
話題が途切れたところで、唐突に清里さんが聞いてきた。
「清里さんは知ってるの?」
斎会君は直接会っているから聞く間でもないけど、まさか清里さんからこの話題が出てくるとは。
「ああ、つい最近聞いたわ。勿論絶対に口外不要って言われたけどな。魔討士協会の上層部とか、上位帯の魔討士ではある程度共有されとるらしいで」
「俺も先日正式に説明を受けたよ」
清里さんがあっさりと言って、斎会君が応じる。
木次谷さん曰く、半端に隠すよりも教えることは教えて情報を管理した方がいいってことらしいけど、そう言うことなんだろうか。
「だって考えてみーや、突然大阪にあいつらが現れる可能性もあるんやろ」
「まあ、言われてみればそうかも」
グイユウと会ったのは仙台の宮城野ダンジョンの中だし、胡さんは台湾の街中の野良ダンジョンで会っている。ルーファさんと会ったのも野良ダンジョンだ。
同じことが他で起きないとは限らないか。
「なら全然知らんちゅーのはまずいってことやないか?」
清里さんが言う。
それが起きた時全く情報が無ければ収拾がつかなくなるってことだろう。
ソルヴェリアとかのことはいずれ発覚するだろう、と木次谷さんは言っていたけど、今後どうなることやら。
「しかし、あれやな。ミズキもショータもその異世界人とやらに会ったことあるんやろ」
「まあね」
「……まったく羨ましいで、二人とも。面白い経験しとって」
清里さんが不満げに言うけど……エルマル達ともシューフェン達ともファーストコンタクトは面白いどころの話じゃなかったんだけど。
◆
「ところで、や。面白いことと言えばやな、ミズキ。アンタ、マジで一位とやるんか?」
スマホの画面の中の清里さんの顔が迫るように大きくなった。
さっき話の流れでちょっと口にしたんだけど、スルーされたから興味が無いかと思ってた。
「一応そのつもり」
正直言うと、模擬刀なら兎も角、一刀斎を持った宗片さんと試合するのはかなり怖い。
とはいえ、あの人との試合は得難い経験にはなるのは確かだ。
「なんや、ミズキだけそんな面白そうなことやるのはずるいで」
「それは俺もさっき言おうと思った」
清里さんと斎会君が声を揃える。
「俺も一度は手合わせしてみたい。宗片さんとは一度お会いしたきりだからね」
「そうやで、あたしも混ぜんかい。面白いことの独り占めは乙類5位同盟のルール違反や」
清里さんと斎会君が言うけど……
「一応言っておくけど……結構怖いよ」
いい経験になるからやりたいと思う反面、恐ろしさもある。
今まで何度も試合をして、マジで切られるかもと背筋が寒くなったことは数知れない。
あれでも手加減はしてくれてるんだろうけど。
「何今更そんなこと言うとんねん、アホかいな。
5位まで上がってくるときに何度かヤバい場面くらいあったわ。怪我が怖くて魔討士やれるかいな」
「日本の頂点がどんなものが知りたい。俺が目指す場所の高さを」
二人が口をそろえて言う。どうやら二人ともマジらしい。
「分かった。聞いてみるよ」
◆
一か月後の日曜日。
八王子ダンジョンの11階層で試合をすることになった。
宗片さんに話を振ってみたら予想通りと言うか、二つ返事で大歓迎と言う返事が返ってきた。
そんなわけで、わざわざ北海道と大阪から斎会君と清里さんが来ている。
10階の係員の人には宗片さんが笑顔でお願いして、一時的に立ち入り禁止にしてもらっていた。
乙と丁の一位に言われたら流石に断れないらしい。
試合場の広間はいわゆる本道から少し外れた行き止まりにあった。
学校の体育館の半分くらいの広いドームのような空間で、洞窟の岩肌のようなアーチ状の天井が高いせいかあまり圧迫感はない。
斎会君は袴姿、清里さんは紺のトレーニングウェアでもうすでに槍と戦鎚を出して準備万端って感じだ。
いつもの作務衣に着流しのように着物を羽織った宗片さんとこげ茶のジャケット姿の鹿渡川さんが、広間のような部屋の向こうにいる。
「これは此処だけの秘密ですからね」
「関係者しかいないんだから、バレようがないでしょ。君は気にしすぎだよ」
「あなたが適当過ぎるんですよ。全く」
二人の声が反響するように聞こえてくる。
清里さんが二人を横目で見た。
「こういうこと言ったらあかんのやろうけど……こうしてみると二人とも全然強く見えへんなあ」
清里さんが声を潜めて言う
「それは俺も同感だ」
「と思うでしょ」
宗片さんは見た目は細身で体格だけなら斎会君の方が余程しっかりしている。
鹿渡川さんもがっちり型だから細いのが余計に目立つ。でも、対峙してみると分かる。
鹿渡川さんも見た目はサラリーマンだしな。
ただ、あの胡さんの傷を一瞬で治した回復魔法は凄かった……戦闘能力までは分からないけど。
「で、どうなんや、ミズキ。あたしらは初見やからな。キャラ対情報を貰いたいわ」
「確かに」
「キャラ対って……格ゲーじゃないんだからさ」
二人が聞いてくるけど……あの人の強さは言葉にしにくい。
「何とも言えないというか……つかみどころがないんだよ。強く打ちこんでくるとか、そう言うタイプじゃない。僕の師匠の言葉を借りるなら異様にカンが鋭い。あと普通に強い」
見た目は強く見えないだろうけど、強いもんは強い、としか言いようがない。
「ミズキはどう戦うんや?」
「策を練ってもどうにもならないから、僕は真っ向勝負でいくつもり」
今までの戦いで何度か策を練ってはみたものの……なんせ空中から飛んでくる風の塊を避けるような人だ。
小手先の策が通じる相手じゃないというのが結論だ。
「まあ、そらそうか……挑戦者は真っすぐ行くのが礼儀やな」
清里さんが納得したようにつぶやく。
「で、どうする?誰からやる?」
「では先陣は俺が貰う」
斎会君が言って槍を一振りして進み出た。
「
「いいねいいね、やる気が漲ってるじゃないか。どこからでも掛かって来なさい、若人よ」
広間に響き渡る大声で斎会君が名乗りを上げて、宗片さんが一刀斎を担ぐように構える
斎会君の表情が変わった。向かい合って感じるものがあったんだろうな。
斎会君が大きく深呼吸した。横で清里さんが息をのむ。
鹿渡川さんが首を振って、呟くように詠唱した。斎会君と宗片さんの体を白い光が包む。
「防壁が解けたら終わりですからね……では、始め!」
「参る!」
鹿渡川さんの声と同時に震脚の音が響いて、斎会君の槍が突きだされた。
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