第233話 ソルヴェリアとの今後の関係

「失礼しました」

「こちらこそ我が弟が失礼しました。私はジェスイ。ソルヴェリアの丞相を務めております」


 二人がお互いに礼儀正しい感じでいう。

 場の空気が穏やかになった……なんかようやくまともな場になった気がするな。


「いままではシューフェンに任せきりでしたが、我が国はニホンと正式な同盟を結びたく思います。

正式な特使の派遣を願いたいのですが、特使の派遣は臣下の礼と解されるなら、中立地に双方が特使を派遣する形でも構いません。対等の同盟を願いたい」


 お兄さん、というかジェスイさんが言って、ガゼイさんの方を見た。


「陛下、よろしいですな」

「ああ、兄貴。俺様に異論はねぇぜ」


 ガゼイさんが当たり前って感じで応じる。

 この辺は口を出す気は無いらしい……役割分担が出来ているような感じだ。


「いや、丞相閣下。そのようなことは前例がありませんぞ」

「それにそのような重大事は重臣たちと検討を十分に……」

「皇帝陛下……丞相の好きにさせてよいのですか?」


 周りにいた何人かの身なりのいい奴らが言う。

 剣を持ってないし身なりが豪華だから文官とかだろうか。

 ガゼイさんがじろりと睨んで、文官たちが一歩下がった。


「うるせぇな。

前例なんてくそくらえの連中と殺し合いをしてるって時に、こっちがかび臭ぇ前例守って枷付きで戦っててどうすんだ。不利になるだけだろ」


 ガゼイさんが一喝する。


「強い武人がいる国はそれだけで尊敬に値するぜ。これだけの道術師と剣士がいる国だ。しかもこいつらより上がいるんだろ?」

「兵法には、機は雷の如し、掴みたくばそれより速く決せよ、という言葉もあります。この機を逃すのは得策ではない」


 ジェスイさんが言って木次谷さんを見た。

 全員の視線が木次谷さんに集まって、返事を待つように場が静まり返った。


「あー……あのですね、私はそこまでの権限はないので……そう、本国に持ち帰って検討します」

「そうですか、では良い返事をお待ちしておりますぞ」


 ジェスイさんが良い返事の部分を強調するように言う。

 温和な口調だけどかなり押しが強い。

 

「カタオカ殿、ヒノキムラ殿。

お二人とも、是非今度は都にお越し頂きたい。その場で再びお二人の力を見せていただければ、道術を侮るものの蒙も開けましょう」

「それによ、先日フォルレアとトゥリィがそっちの都に行っただろ?あいつらがそのすごさをあちこちで言ってやがるわけだ。となるとこっちの凄さも見せたくなるのが人情ってもんだろ。

俺様もいずれは行ってみたいぜ。天の届く位の高い塔があるっていうじゃねえか。

正式な同盟が成ったら一度機会をくれや」


 ジェスイさんとガゼイさんが言うけど

 ……フォルレアさんの時の用にはいかないだろうし、それこそ正式にソルヴェリアの存在が知れ渡らない限り無理だろうな。


「さて、兄貴。まだ何か……」


 ガゼイさんが言ったところで周りの人込みをかき分けて誰かがが飛び出してきた。



「無礼者!」

「何をする!」


 護衛の兵士やシューフェンが剣を抜くけど、その人が石畳に土下座した。


「皇帝陛下!御前での御無礼、お許しください。

異界ニホンの道術師殿。トゥリィ様の次はぜひ私を弟子にお迎えいただきたく!」


 顔を伏せたままその人が言う。少し高い声が響いた。

 土下座した背中に翼が生えている。ソルヴェリアの獣人は獣耳とか尻尾だけじゃないらしい。


「おいおい、なかなか無茶をやる奴だな。だが、心意気や良し。名はなんだ?名乗らねぇと道術師殿も困るだろ」

「茶鷹士族のナグレウと申します!必ずや道術を修め、陛下のお役に立ちます。どうか機会を」


 その人が顔を上げる。

 子どもっぽい顔立ちの男の子だ。見た目だけなら多分年は僕より下くらいに見える。

 鋭い目つきと濃い眉がなんとなくやんちゃな少年っぽい。

 

 口元には嘴のような三角形の入れ墨が入っていた。

 短めのポニーテールのように焦げ茶色の髪を長く結っている。ぴょんと跳ねた髪がなんとなく鳥の尾羽根っぽい。

 服には簡素な鷹の文様が入っているだけの地味な感じだ。

 

「こういう奴も沢山いるんでな……ぜひ頼むぜ」

「同盟が成りました暁には、こちらからも金獅子士族の近衛をそちらの世界にお貸しします。彼等は一騎当千の精鋭、きっとお役に立ちます。

それに金属精錬の技術も提供いたしましょう。我が国はの技術は高い。そう……サンマレア・ヴェルージャよりお役に立ちますぞ」


 木次谷さんが何で知ってる?と言う顔でジェスイさんを見るけど。

 ジェスイさんは表情を変えないままだった。



「これも思惑通りか、シューフェン」


 話が一区切りというか、木次谷さんが黙ってしまったところで、ガゼイさんがシューフェンに向かって声を掛けた。


「お前、剣の裁定にかこつけて、道術のお披露目をするつもりだったんだろ」

「その通りです」


 ガゼイさんが言ってシューフェンが応じた。

 まあ檜村さんを呼んでいたということはそう言う意図もあったんだろう。


「だが、あの祖人の拳士が負けたら、どうするつもりだったんだ?

目論見はご破算だし、あのチェンカイがただで済ますことは無かっただろ」

「友を信じ友のためにしたことです。それはそれで致し方ないこと」


 シューフェンが答えてガゼイさんが笑った。


「損な性格というかバカだな。だがそれもお前らしいぜ」


 ガゼイさんが言って、チェンカイの部下の一団の方を向いた。


「チェンカイの家のもの。

お前らの主はこの裁定には敗れたが、この話は此処で終わりだ。丁重に葬ってやれ」


 ガゼイさんが言って胡さんの方を見た。


「異界の武人殿……すまねえが、それは赦してやってくれ。

チェンカイがやったことは赦しがたいかもしれんが……裁定は決し、もうあいつは死んだ。遺骸まで辱めるような真似はさせないでやってくれ」


 そう言ってガゼイさんが頭を下げて周りがどよめいた。

 皇帝が頭を下げるなんてことはあり得ないんだろうなとはなんとなくわかる。

 胡さんが黙って、場に沈黙が降りた。

  

「我が妻と子も……それは望まないでしょう」


 胡さんが長い長い間を置いて答えた。

 

「すまねえな。感謝するぜ。よし、兄貴。これでやり残しはねえ。引き上げようや」

「では、キジタニ殿。早い朗報をお待ちしておりますぞ。こちらはいつでも構いません、そう明日でも」


 そう言ってガゼイさんが門の方に向かって歩き去っていった。

 その後ろにジェスイさんとお付きの兵士達がしたがって門を出ていく。


 姿が見えなくなるまで全員が頭を下げていて、誰かが安堵したような息を吐いて頭を上げた。

 なかなか破天荒というか、部下の人は苦労しそうな人ではあるな。

 ……そんなことよりも。

 

「どうするんです?」


 同盟なんて話になったら魔討士協会の中でおさまりがつくんだろうか。


「……どうしましょう」


 普段は落ち着いている木次谷さんだけど。

 さすがにこの展開は予想外だったのか、本当に困った顔をしていた。


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