第232話 異世界の皇帝
お待たせしました。
とりあえず書け次第上げていきます。
◆
波が引くように全員が跪いた。
檜村さんが困ったように周りを見回す。
どうしたものかと思ったけど、木次谷さんも宗片さんも膝をついたりはしなかった。鹿渡川さんも深く頭を下げたけど、立ったままだ。
ただ、周りが全員跪いているから、微妙に居心地が悪い。
シューフェンが非難するような目で僕等を見るけど。
「だよな。お前らは異国の民で俺様に平伏する必要はない。ここで平伏する方が胆力に欠けるってもんだ。
気に入ったぜ、お前ら。良い武人だな。俺はソルヴェリア皇帝、ガゼイだ」
皇帝……ガゼイさんが頷いて、その後ろにいた人が渋い顔をする。
ガゼイさんが崩れた建物の方に目をやって笑った。
「派手に壊したな……まあ結構なこった。
それに素晴らしい競い合いだった。ああ、全員、頭を上げろ」
ガゼイさんがよく通る声でいうと、全員がすっと立ってもう一度頭を下げた。
なんというか、威圧感があるというより、何となく従ってしまうような威厳のある強い声だ。
「おいでになるならば相応しい席を用意いたしましたのに」
シューフェンが言うけど。
「俺様がいると余計なことを考えさせちまうだろうが。
剣の裁定みたいな古臭い儀礼には興味はねえが、一対一の立ち合いは剣士が命と意地をぶつける場だ。
俺がしゃしゃり出て余計なものを持ち込むのは無粋ってもんだろ」
ガゼイさんが言ってこっちを見た。
「なあ、お嬢さん、それにカタオカとやら。シューフェンが一度は言ったと思うんだが、改めて俺様の国に来る気は無いか?
都の一番いい場所に屋敷を用意するぜ。勿論俸禄も思いのままだ」
「陛下……言葉遣いを考えられなさい、普段の宮中ならともかく。異国の戦士の前ですぞ。威厳が保たれませぬ
汝ら朕の国に参らぬか、でしょうが」
後ろにいる人……偉い大臣とかお付き偉い人っぽいけど。
本人は全然聞く気が無さそうだ。なんか苦労がしのばれる。
改めてガゼイさんを見た。
少し薄笑いを浮かべたような顔に鋭い目つき。
ソルヴェリアの獣人の年は分かりにくいけど、多分20歳半ばくらいだろうか。
旗と衣装にも獅子の横顔が縫い取られているけど。
波打つような金色の髪とがっしりした顎を覆う金色のひげ、それと見事な体格は確かに百獣の王、ライオンを思わせる。
そして、近くで見ると、単に大きいとかいうだけじゃなくて、強さというかそういうエネルギーが伝わってくる気がした。
お飾りの皇帝とかじゃないな。
腰には大きめの剣を挿しているけど、良く見ると後ろの兵士が恭しく長い爪のような武器を掲げていた。
あれが本来の武器っぽい。
「素手でチェンカイに勝っちまうとはな。大した覚悟だぜ。
それに後ろの細いのも……お前がこの中では一番の手練れだな。俺様にはわかるぞ。お前もどうだ?俺様の国に来る気は無いか?強い奴は何時でも歓迎するぜ」
「僕より強い人がいるなら考えてもいいけどねぇ……君は強いのかい?」
宗片さんが敬語なんて使う気全く無しって感じの口調で言う。
横で木次谷さんが青ざめているし、向こうではおつきの人が顔をしかめているけど、当事者の二人は全然気にしてなさそうだ。
「おいおい、異国の奴だからしらねぇのも仕方ねえが。四海一の武人とは俺様の事だぜ?」
「へぇ……日ノ本無双の僕とどっちが強いかな」
二人が睨み合う。
「あの人は強いの?」
「皇帝陛下は我が国一の武人だ。
シューフェンに小声で聞いたら凄い返事が返ってきた。
魔法支援とか無しの一騎打ちであの知性の有る蟲を倒してるとしたらとんでもないな。
皇帝が最強の剣士とか、ゲームみたいな話だ。
「いい加減にしてください、宗片さん。戦争を始める気ですか」
木次谷さんがたまりかねて割って入る。
「皇帝陛下……陛下も落ち着かれなさい」
「兄貴よぉ、水を差すなよ、相変わらず戦士の機微ってもんが分かってねぇな。本当に金獅子士族かよ」
ガゼイさんが言う。
どうやら後ろの人はお付きの人じゃなくてお兄さんらしい。
そういえば、長男が皇位を譲って即位したとかいう話をシューフェンから聞いた気がするな。
お兄さんが後見役というか世話役をしているわけか。
言われてみると髭は薄いけど顔立ちは似ている。
ただ、いかにも武人って感じの雰囲気のガゼイさんとちがっていかにも温和そうだ。
あまり強そうには見えないんだけど、やっぱり強いんだろうか。
「あくまでこれは掛け合いってやつだ。本気で斬り合ったりはしねえって。なあ、お前、そうだろ?」
「まあそれはね……でも僕はガチでやってもいいし……片岡君。どう?一本やってみたら?」
そういうとガゼイさんがにやりと笑って後ろの爪を持った兵士の方を一瞥した。
「ほほう……それもいいかもな。
おい、カタオカ、いっちょやっとくか?さっきの守りも見事だったが……シューフェンも認めた風使いの戦いを見せてくれや」
「いや、謹んで遠慮しておきます」
色んな意味でヤバすぎる。
「いやいや、案外いい線行くかもよぉ?片岡君なら……」
「……いいから、ちょっと、黙ってください」
マジ切れ寸前って感じで木次谷さんが宗片さんの言葉を遮って、宗片さんが肩をすくめた。
「はいはい」
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