第226話 剣の裁定
シューフェンが指定した15日後。
平日だけど学校には休みをもらって魔討士協会に来た。こういう時は乙類5位の肩書は便利だ。
「異世界に行けるのは色々と興味深いんだが……私はなぜ呼ばれたんだろうね」
「すみません……分からないんですよ」
今回、その胡さんの仇との渡りをつけるにあたってシューフェンが出した条件。
それはまず、門を抜けてソルヴェリアに来ること、それと檜村さんを連れてくること、だった。
ソルヴェリアに行くのは仕方ない部分もある。
魔討士の能力はダンジョンというか魔素がある場所でないと使えない。
ルーファさんの話では、異世界側は魔素がこっちよりも強くて、普通に魔法とかが使えるらしい。
命がけというのが何をするのか分からないけど、魔討士として何かをするなら向こうに行かないといけないのは仕方ない。
ただ、檜村さんを連れてきて欲しいというのは意図が良く分からない。
「まあ構わないさ。それに君が行くところには一緒に行きたいし、異世界に行ける経験はなかなかできるもんじゃない」
前にも来たことがある、魔討士協会の奥の倉庫のような部屋の中央には、四角い枠のようなものが浮かんでいてその中はテレビのノイズのようになっていた。
これも前に見たゲートだ。
部屋の中には木次谷さんと宗方さん、胡さんとそれともう一人知らない人がいた。
木次谷さんはかっちりしたスーツ姿、宗片さんはいつもの着流し風に作務衣に着物を着流しのように羽織っている。
胡さんは白い拳法着を着ている。
一目で分かる弔い合戦の意匠だ。
そしてもう一人。Tシャツに長袖のシャツ、それにジーンズのラフな格好の男の人だ。
40歳くらいだろうか。短めの整えられた黒髪に人のよさそうな顔でいかにもいいお父さんっていう雰囲気を漂わせている。
少し太って見えたけどがっしりした筋肉がシャツごしに分かった。
「やあ片岡君に檜村さん、始めまして……私は」
「丁一位、鹿渡川博典さんですよね……初めまして。片岡です」
どうにか落ち着いて答えようとは思うけどちょっと声が上ずる
……雑誌とかでも見たことがある、丁の一位。戦う治癒術師にして防御系の魔法使いだ。
その人がまさかいるとは思わなかった。
「片岡君、君のうわさは宗片君から聞いてますよ。なんか大活躍ですけど、修羅場に巻き込まれてばかりですね」
「どうも」
言われてみればそうかもしれない。
一年前は普通に魔討士をしてごく普通の7位とかだった気がするんだけど、なんか遠い昔のようだぞ。
「ゲートを抜けれるのは6人まで、とのことだったので、胡さんと私、片岡さん、檜村さんとこの二人にお願いしました。
門の向こうだと何が起きるか分からないですから、腕の立つ人を連れて行きたかったんですよ」
木次谷さんが説明してくれる。
確かに門の向こうは
でもまさか1位二人がついてきてくれるとは。
「私は万が一のための治癒役です。
それに異世界側の話は聞いていましたからね、行ける機会があるなら逃すわけにはいかない」
「そして僕が護衛ってわけだ。門をくぐれる人数が少ないなら日ノ本無双が付き添うのが一番効率がいい。僕は一騎当千だからね」
「君は相変わらずですね、宗片君」
「だって僕が強いのは事実だからねー、仕方ないさ」
二人が軽い口調で言う。
一位が二人そろうっていうのは多分中々レアの光景だろうな。
「時間です。行きましょう」
木次谷さんが時計を見て言った。
◆
門をくぐると、前から引っ張られるような感覚があって、気づいたら10メートル四方くらいの部屋にいた。
赤く塗られた柱に嵌められた窓から差し込む光が床に複雑な文様の影を作っている。
ほんのりと不思議なお香のような匂いがした。
周りには黒い細長い帽子というか冠をかぶって白いローブのような服を着た人が立っていた。
多分彼らは道術師というかこの門を開いた人たちだろう。
目の前にはレイフォンが立っていた。
シューフェンとは何度もあってるけど、彼と会うのはかなり久しぶりな気もする。
レイフォンが硬い表情で一礼して僕らに背を向けて歩き出した。
ついて来いってことだろう。
天井が高い細長い回廊は柱や窓に彫刻がされていて豪華な雰囲気だ。
異世界と言われても、なんか中華風映画のセットのような感じもある。
ただ、空気が違うのは感じられた。
ダンジョンの中にいるような魔素が周りにある感じが日本と決定的に違う。
レイフォンについていってしばらく歩いてまたホールのような広間にでた。
レイフォンがその一角の大き目の扉に向かうと自動ドアのように扉が開く。同時に太陽の光と草の匂いが吹き込んできた。
外は広い庭園だった。
石畳の道がまっすぐに庭園の真ん中に向かって伸びていて、中央には丸く石畳が敷かれたスペースがあった。
狼の文様と獅子の文様を入れた旗が中央ではためいている。
周りを見回すと、中華風ってかんじの赤い柱の回廊が広場の四方を囲んでいて、四方に今出てきたような扉が見えた。
なんとなく中庭のような感じだな。
空気の雰囲気は違うけど、明るい太陽は地球と全く同じだ。
多分12時くらいかなって気がした。この世界に時計があるかは知らないけど。
「これが異世界か……もう少し感動すると思ったけど、そうでもないねぇ」
「いやいや、人類にとって輝かしい第一歩ですよ」
宗片さんと鹿渡川さんが周りを見ながら言葉を交わす。
その中庭の四方を兵士が囲んでいた。旗と槍を持っていて物々しい感じが伝わってくる。
それぞれ衣装の色や文様は違う。
中には文官とでもいうのか、武器とか鎧を着てないやつもいた。
ただ、全員が獣耳と尻尾がある。中には背中に羽根があるやつもいた。やっぱりここは異世界……ソルヴェリアか。
こっちを見て何か囁き合っているけど、何を言っているのかは聞こえなかった。
全員の注目が集まる中で、レイフォンに促されるままに広場の中央に向かって歩く。
中央にはシューフェンがいた。レイフォンがシューフェンに向かって一礼する。
10メートルほど向こう、石畳の円の向こう側には狼の耳の男が立っていた。
遠目にも顔立ちが整っているのは分かったけど、細い目と薄い口に小ばかにするような笑みが浮かんでいた。
水色の服の表には、誇示するようの大きく描かれた爪と狼の刺繍がされている
胡さんが息を呑んでそいつを睨んだ。
隣にいても噴き出すような怒りが伝わってくる。あれが仇なのか。
シューフェンが胡さんの様子を確かめるように見て、腰に挿した剣を抜いた。
周りで旗を持っていた兵士たちが旗を大きく振って、風が吹き付ける。
「今より古式の儀礼にのっとり剣の裁定を行う」
◆
シューフェンが言ってざわついていた広場が静まり返った。
「裁定に挑むものよ……汝の名を名乗り、口上を述べよ」
シューフェンが促すように胡さんを見る。
シューフェンの意図を察したように胡さんが一歩進み出た。
「私は
「この私、白狼左衛の高貴なるチェンカイがそんなことをするはずないでしょう?祖人風情の言いがかりはまったく不愉快極まりない……ですが降りかかる災いを払うのは吝かではありませんよ」
胡さんが怒りを抑えたって感じで言う。
そいつ……チェンカイとやらは白々しい口調だ。
「口上は述べられた。
しかしいずれの言葉にも証無きゆえに、裁定は剣にゆだねる。正しき者に剣は味方するであろう。いまより両名は剣を交わし、自らの言の正しさを証せよ」
シューフェンが謳うように言って二人にそれぞれ剣の切っ先を向ける。
「承知か?」
なんとなくそんな気はしていたんだけど……要するにこの場で決闘しろってことなのか。
「色々と気が進みませんが……仕方ありませんねぇ」
「
胡さんが全くためらわずに言った。
「見届け人は白狼左衛第三旅帥、シューフェン。両名の受諾を以て裁定の成立を宣する」
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