誰かのために~台湾からの来訪者~

第221話 荻窪駅での来客

 続きが見たい、というメッセージを頂いたので見切り発車気味ですが新章に入ります。プロット的にショートエピソードになりそう

 引き続きお付き合いください。



 4月の半ばを過ぎ。

 クラス替えの新メンバーにも何となく慣れて、新学期の少し違和感のある空気も落ち着いてきた。


 でもゴールデンウイークももう近い、という感じで少し浮かれた空気も漂っている。

 受験にそなえて集中講座に参加するなんてクラスメートの話を聞くと、なんか後ろめたい気にはなる。

 

「そういえば、三田ケ谷達はどうするの、ゴールデンウィークとか」

「俺とルーファちゃんと俺の家族で温泉旅行に行く予定」

「はい、オンセンというのは初めてなのでとても楽しみです。大きなお風呂なんですよね」


 学校帰りに三田ケ谷達に聞いてみたら、そんな答えが返ってきた。

 ルーファさんは完全にもう三田ケ谷の家族の一員扱いになってるな。本当に高校を卒業したら結婚しそうだ。


「受験とかは?」

「俺は東京の何処かの大学に行ければって思ってるよ。一応魔討士の功績点で推薦位は取れそうだし」

「私はダイガクというものには行きません。戦士に必要とは思えませんし……此方の世界の生活にもっと慣れるのと、魔討士の位階を上げたいので」


 二人が言う……二人とも結構考えてるな。

 ゴールデンウイークはどうしようか。檜村さんを誘った方がいいんだろうか。

 そんなことを考えているうちに荻窪駅に着いた。


「じゃあな、片岡」

「失礼します、カタオカ様」


 二人が寄り添い合って荻窪の商店街の方に歩き去っていった。

 相変わらず仲がいいな。


 今日は絵麻と朱音は七奈瀬君とどこかに行ってしまった。

 まだ5時前だから夕飯には間があるし、代々木で師匠にでも会ってこようか。 

 

「シツレイ。片岡水貴殿とお見受けします」


 そんなことを考えていたら、突然声をかけられた。



 黒いスーツ姿の男の人だ。

 痩せ型の180センチ近い身長だけど、なんとなくそれより高く感じる。

 見た目は30歳より少し上くらいに見えるけど……なんとなくもっと年上のようにも感じる。


 左右に分けた短めの黒髪とスーツ姿で紳士的な感じだけど、彫の深い顔立ちで、目つきが鋭い。張り詰めた感じだ。

 体格も髪型も年齢も違うんだけど、師匠に似た雰囲気を持っている気がした。


「片岡水貴殿……そうデスよね」


 口調に微妙なイントネーションの違和感がある。

 顔だけ見てると日本人だけど、もしかして海外の人だろうか。


「そうですけど」

「初めてお目にかかります。ワタシは胡・太婀フー・ディアと申します」

「あー、えっと……初めまして。片岡です」


 とあいさつはしてみたものの……いったいこの人は一体誰なのか。


「台南で心意六合拳の道場を営みつつ誅師……日本で言うところの魔討士をしております」


 疑問を察してくれたようにその人が言う。

 なんとなく師匠に似た感じがあったのはそれが理由か。


「片岡師父にお話があって台湾より参りました。少しお時間いただけないでしょうか?」



 とりあえず路上で話しているのも変な話なので、一旦近くのファミレスに移動した。

 台湾からわざわざ来てくれたという人を無視するのも気が引けるけど……なんとなく嫌な予感がしなくもない。


「これは手土産デス。ツマラナイものですが」


 ウェイトレスさんがコーヒーを持ってきてくれてテーブルを離れたところで、胡さんがオレンジ色の箱を机の上に置いた。

 パイナップルケーキというやつか……確か台湾に遊びに行った友達がくれた覚えがある。


「ああ、どうも、ありがとうございます」


 と、受け取ってみたものの……全く初対面だし、一体この人と何を話せばいいのか見当もつかないぞ。


「えっと……貴方も魔討士なんですか?」

「ハイ、台湾では誅師と言います。日本の魔討士制度と似ていて、登録して位階を上げる制度となっています。甲乙などの区分はありませんが。

ただ、定期的に定着した冥府ダンジョンの討伐への参加が義務となっております」


 日本のより少し堅苦しそうだな。国によって結構違いがあるらしい

 ヨーロッパの方はセス達を通じて知ったけど、アメリカのとかはどうなっているんだろう。


「で、えーと……僕に何か用事があるんですよね」


 台湾の魔討士のシステムは興味深い話だけど……こんな世間話をしにわざわざ僕のところには来ないだろう。

 あの場所で会ったのは偶然じゃなくて、荻窪駅で待伏せしてたっぽいし。


「はい。私はこの映像を見て師父をおたずねしました」


 そう言って胡さんがスマホを取り出す。

 画面に映っていたのは例の代々木の木のダンジョンマスターとの戦いだった。まさか海外の人にまで見られているとは。


 トゥリイの魔法で木のダンジョンマスターが焼き尽くされて、画面の中でトゥリイさんと僕たちが話しているところで胡さんが画面を止めた。


「このものについてお聞きしたく参りました」


 その人が静止した画面の中のトゥリイさんを指さした。


「このものは獣の耳をはやした者ですか?」

「そんなわけあるはずないですよ……アニメとかゲームじゃないんですから」


 今までのこの話は何度も聞かれたから、いい加減対応にも慣れてきた。

 荒い画像からの推測だから、知らぬ存ぜぬで通せばそれ以上は追及できない。


 ただ、この人のは今までのと違って茶化すような口調とか探るような口調じゃない。確信を持ったって感じの口調だ

 胡さんが表情を変えないままテーブルの上のコーヒーを一口飲んだ。


「そうですか……では、単刀直入に申し上げます。

日本の魔討士協会はこの獣耳を生やしたものとの交流があると思います。それを隠している」


 直球すぎる発言に思わずコーヒーを噴きそうになったけどかろうじてこらえる


「そして、あなたか、檜村様はそのものとつながりがあると見受けました。

どうかそのものと引き合わせていただきたい」

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