第213話 3年生の始まり~絵麻と朱音、それと七奈瀬君~
1学期が始まって3日目の放課後。
帰り支度をしていたらクラスのドアの方から呼ぶ声がした。
「アニキ!」
「兄さん。一緒に帰りましょ」
……絵麻と朱音だ。
3年のクラスまでわざわざ迎えに来なくてもいいだろうに。
いつも家で顔を合わせてるけど、学校内で会うのはやっぱり違和感があるな。
そんなのもあって何となく登校するときも時間をずらしている。
というか、二人とも同じ高校に来るとは思わなかった。
絵麻は良く合格できた思うし、朱音はもっと上に行けたような気もするんだけど。
「片岡君の妹さん?可愛いね」
「ていうか、同じ年の妹?双子って感じじゃないけど」
「まあ……色々あるんだよ」
絵麻は養子で血がつながってないんだけど、その辺は説明するのもややこしい。
適当にはぐらかして鞄を持って廊下に出ると、絵麻と朱音とその後ろには藤村と篠生さんがいた。
いつもの揃いの放課後退魔倶楽部のパーカーを着ている。
「先輩、妹さんの入部ありがとうございます。お礼のご挨拶に参りました」
藤村が丸い顔に笑みを浮かべながら言う。
「二人とも入部したの?」
「私は入部したわ」
「あたしはまだ無資格だからさ……マネージャーって感じかな」
絵麻は魔素を集める能力はあるけど、魔討士の資格はまだ持ってない。
丁の系列の能力っぽいけど詳細は不明だ。
「はやく一緒にいけるといいわね」
「ホント。なんで資格貰えないんだろ。あたしも能力があるのは確かなのにさ」
不満げに絵麻がいうけど。
これは木次谷さんが言っていたけど、絵麻には資格を与えたくはないらしい。
能力が特殊なうえに新宿系に狙われている節があるからあまり活動してほしくないんだそうだ。
協会に資格の申請に行ってるけどなかなか資格が取れないのはその辺が理由だろうな。
気の毒ではあるけど……仕方ない気もする。
大阪で戦ったことを思い出すと、新宿系のあいつらはかなり強いし、奥多摩系の蟲とは違って策を巡らせる知性はありそうなのが厄介だ
「ところで、ですね。この調子で是非クラブの方にも参加ご参加されませんか、片岡先輩」
「……先輩、どうやら二人目当ての男子新入部員もいるんですよ。どうですか心配じゃないですか?」
「そうですよー先輩。二人とも可愛いですからね」
「ご心配ならぜひともこちらで活動をお願いします。後輩たちに見本を見せてください」
思わせぶりな口調で篠生さんと藤村が掛け合いのように言う。
そういう話を聞くと……ちょっと心配にはなるな。
「ねえ、片岡君!」
そんな話をしているところで後ろからクラスメイトに声を掛けられた
「どうかした?」
「片岡君、校門の前に七奈瀬二位が来てるよ。片岡君のお客さんじゃない?」
◆
校門の前には人だかりが出来ていてその中央には七奈瀬君がいた。
流石に人気者だな……本性はアレだけど。
今日は制服の白のブレザーにベレー帽の格好だ。私学の制服だからお洒落だな。
女の子にも見えるくらいの美少年なうえに有名人だからそりゃ目を引くだろう……というか何をしに来たんだろう
「片岡さん、こんにちは」
こっちに気づいた七瀬君が手を振ってきた。
「やっぱり片岡君のお友達なの?」
「ええ、そうです」
かわいい顔に柔らかい笑みを浮かべて七奈瀬君が応じる。
「さすが上位同士つながりがあるんだよね」
「そうですね……代々木でも一緒に戦いましたし、とても勇敢ですよ」
七奈瀬君が言うけど……5位ごときが、とか言ってたのを覚えてるぞ。
「ていうか可愛すぎ。モデルみたい。ハグしていい?」
「ハグはちょっと照れますから、握手でいいですか」
「じゃあ握手で。あと、写真撮っていい?」
「ええ、そのくらいなら」
「本当に可愛い!!テレビの100倍良いよね」
周りがまた盛り上がって、生徒以外の人まで集まってきた。校門の前の狭い歩道が人で大混雑になって車道にはみ出しそうになっている。
車のクラクションが鳴った。
……一体この場をどう収めたらいいのか。
そもそも何をしに来たんだろう。
「アニキ、なにしてんの。ほら一緒に帰ろ?」
そんなことをしてるうちに、ちょっと強引な口調で絵麻が割り込んできた
◆
なし崩しって感じで4人で帰ることになった。
荻窪の住宅街の少し狭い道を駅に向けて歩く。
「そういえば、何しに来たの?」
「絵麻を守るのが僕の仕事だからな」
七瀬君が言う……そういえばそうだったな。
中学レベルで絵麻を守れるのは彼ということで護衛役になってたはずだけど、僕と同じ高校に来たわけだから護衛の必要は薄くなった。
それに高校生と中学生で差も出てしまったし。
「ただ、あんまり学校に来ない方がいいとは思う。目立ちすぎるよ」
七奈瀬君は多分魔討士の中での知名度はトップクラスだ。
それに絵麻と仲良しとかだと色々と話題になってしまいそうだし。
とはいえ歩いている分には意外に人目を引かないっぽくて、家族連れや学生さんとかとすれ違っても特に好奇の目で見られたりしない。
すれ違う相手が有名人だとかなんて思わないのかな。
「まあ仕方ないだろ、これも僕の仕事だからな。仕方なく来てやっているんだぞ、感謝しろよ」
七瀬君が素っ気なく言う。
4人だけになると口調が素に戻るな。
「ふふーん、奏くん……そんなこと言って、あたしが心配だったんでしょ?」
「心配ってなにがだ?まあダンジョンについては一応片岡が付いてるからなんとかなるだろ、こんなのでも一応五位だしな」
「そうじゃなくてさ、例えば新しい学校でかっこいい同級生に会って一目で恋が生まれるとかさ、そういうこと」
「……はん、お前がどうなろうと知ったことじゃない」
七瀬君が顔を逸らすけど……態度で図星だということは分かる。
普段はあれだけ猫被ってるのにこういう時はバレバレだな。ていうか、もしかして本当に絵麻に会いに来ただけなのか。
「大丈夫だって、あたしは奏くん一筋だからさ」
「知ったことじゃないっていってるだろ。調子に乗るな」
「ところで、この制服どう?可愛いでしょ」
絵麻が紺色のブレザーのすそをちょっと持ち上げるようにしてアピールする。
うちの学校は公立だけど、ブレザーの襟が大きめでセーラー服っぽいデザインでわりと制服が評判がいい。
七瀬君が絵麻を横目で一瞥してため息をついた。
「スカートが短すぎるんじゃないか?そんな太い脚を見たい奴なんていないだろう」
「失礼だねー、奏くん。このカモシカのようなスリムな足に皆釘付けだから」
「見る目が無いやつばかりだな、まったく」
「可愛げが無いなぁ。こいつの足を見ていいのは僕だけだ、とか素直に言ってみ?」
二人が並んで言い合いながら僕らの前を歩いていくけど。
「どういう関係なの、あれ」
「よくわからないけど……絵麻の方が尻に敷いてる感じ」
朱音が小声で教えてくれた。
あの祝勝会の時のやり取りをみていると、特別な関係なのは分かる。あの後二人で戦ったこともあるとは聞いている。
恋人というのはちょっと違うような気もする
ただ……七瀬君の口調は変わってないけど、初めて会ったときのような刺々しい攻撃的な感じが薄れているのは感じた。
あれはあれでいいことなのかな。
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