インターミッション

第212話 3年生の始まり~乙類5位の進路~  

 ぼちぼちと更新再開します。

 なんか戦ってばかりなので、しばらくは日常場面でも描こうかなと。



 新学期になって3年生になった。

 新学期早々に進路相談があった。言われてみればそういう時期だよな、という気はする。


 我ながら緊張感が無いとは思うけど、まだ大学受験とかいうのはイメージできない。

 とはいえ、クラスの中でも成績が良くて難しい大学を狙ってる友達はすでに色々とやってるっぽいから僕に緊張感が無さ過ぎるのかもしれない。


 進路指導室はいつ入っても他とは違う雰囲気があってちょっと苦手だ。

 中央に大き目のテーブルがあって、周りの壁にはいろんなグラフとか書類とかがはりつけてある。


 進路指導担当で60歳近くのベテランの大塚先生が書類をめくりながら僕を黒縁眼鏡越しに見てきた。


「それで、片岡。進路についてだが、何か考えてるか?」

「どこかに推薦とかとれませんかね?」


 成績が悪いというわけじゃないけど、特にいいわけでもない。

 択ばなければどこかしらに入るくらいはできると思う。親からも一応大学に入るくらいの貯金はある、と言われてるし。


 魔討士の功績点は進学にも有利って聞いているけど、どうなんだろう。

 大塚先生が大げさにため息をついた。


「新学期開始と同時に八つの大学から授業料免除での入学オファーが来た。引く手あまただよ。

そこじゃなくても、推薦なら恐らくどこでも受け入れてくれるだろう」

「は?」


 正直言って意外な話だったんだけど……大塚先生が苦笑いして僕を見た。


「お前な……どうも自覚がない奴だな。乙類5位なんだぞ。魔討士の功績点は進学にも有利に働くくらい知ってるだろ」

「まあ知ってはいますけど」


 具体的にどのくらい効果があるかなんてことは流石に知らなかった。

 そんなに効果があるのか。


「奨学金付きの入学オファーなんてあんまり日本じゃ聞かないが、熊本と福岡、徳島、名古屋、富山、仙台、千葉……だったかな。どこもこの時期に声をかけてくるくらいだから熱心なようだ。直接話をしたければ手配するよ。

入学するとお前が言えばその時点でおそらく入学が確定する」


 先生が書類を見ながら言う。

 別にそういうことのために戦ってきたわけじゃないけど、そういう話を聞くとやっぱりうれしい。


「だが、これはあんまり大っぴらにはするなよ。殆どの奴らはこれから受験だ。

一抜けしてて緊張感が無いのは周りによくないし、お前が妬まれるかもしれん」

「はい」


「それにだ。あまり堕落するんじゃないぞ。

お前の功績については誰もが認めるが、あくまで学生の本文は勉強だからな。成績があまりに下がるようなら推薦状書かんぞ」

「分かってますよ」


 そう答えると先生が満足げに笑った。


「まあ、お前はその辺手を抜くタイプじゃないからあまり心配はしてないよ。

しっかりやれ。選択肢があるってのは恵まれてるぞ」 


 そういわれると、なんとなく気分が少し軽くなった。


「まあしかし……お前みたいな生徒がうちの学校から出るとはな……だが、気を付けろよ。そんなこと言っても無理なのかもしれないが」

「ありがとうございます」


 返事を返したところで大塚先生が少し真剣な顔になった。

 

「ところで、だ。片岡。一つ頼みがあるんだがいいか?」

「なんです?」


 先生が誰もいない進路指導室なのにあたりを警戒するように左右を見回した。どうかしたかな。


「俺の友達の息子さんがお前のファンでな……サイン貰えるか?」

「……サイン?」

「なんでもいいんだ、息子さんの名前を書いて一筆くれ。目白洋治って名前だ。どうしてもと言われて断り切れなくてな……頼むわ、この通り」


 そう言って黒マジックと大きめの色紙を先生がカバンから取り出した。

 わざわざ準備してたのか。


「そんなことなんで今言うんです?」

「こういう状況じゃないと頼みづらいだろ。職員室で言えって言うのか?」


 先生が気まずそうに言う。


「……まあそうかも」



「ふーん、今更気づいたんか、ミズキ。バトルになるとあんなキレキレなんに他のことはぽやーっとしとるんやな、まあその辺もあんたらしいわ」

「確かに」


 その夜、その辺を聞いてみたくてビデオ通話で斎会君と清里さんと連絡してみたけど。

 呆れたように清里さんに言われた。斎会君も相槌を打つけど、僕は一体どういうイメージなんだ


「で、そっちはどうするの?」

「あたしは京都の京洛大学への進学が内定済みやで。ほれ」


 そういって画面にチラシが一枚映る。

 大学のロゴとキャンパスらしき広々とした芝生とその後ろの白い校舎、その中央にフォーマルな紺のジャケットを着てほほ笑んでいる清里さんが映っていた。


「3年生の時点でもう決まってるの、早すぎない?ていうか、それ何?」

「あたしがおれば志望者数にも影響与えるらしいんでな。さっそく宣伝に協力っちゅーわけやな。まったく、人気者は辛いで」

「なるほど」


 この辺は相変わらずだな。


「俺は体育系……できれば武道系が強い所に行こうと思っている。まだまだ他流から学ぶことは多いし、北海道から出た外で独りで揉まれてみたい」

「そうなんだ」

「今後も魔討士を続けていくためには、更なる技術研鑽をしなくてはな」


 こちらもいつもながら生真面目な口調で斎会君が言う。


「で、あんたはどうするん、ミズキ?」


 清里さんが聞いてきた。

 選択肢が多いのは助かるけど、ありすぎると逆に迷ってしまう。

 それになんかオファーを掛けてくれたところに断るのも悪い気がするし。


「今のところはあんまりイメージできないな。なんで清里さんはそこにしたの?」

「そりゃもう、成績もいいし校舎もオシャレでええしな。授業料も免除してくれるっていうし、条件が最高やったからやわ

でも一番は関西が好きやからな。他からの誘いもあったんやけど、大阪を離れる自分ちゅーのはちょっとイメージできへんかったんよ」


 地元愛か。確かにこの間会った時もそれは感じたな。


「僕は……東京にいるかな、多分」

「それはやっぱりあれかい、クロエのねーさんがおるからやろ?」

「まあそれもある」


 檜村さんは今は定期的に富山に帰って筧さんに会っているようだけど、この間会った時には3年生になったと教えてくれた。

 ゼミとかいうのが始まるらしくて忙しくかなるかも、と言う話だった


 僕の進路も心配してくれてるようだったけど……あれは遠距離にならないか心配していたのかもしれない。

 

 大学は転校するわけにはいかない。

 東京じゃなくても東京に近い方がいいな。


「で、ショータはどうなんや?あの可愛い彼女さんは一緒の大学に着いてきてくれるん?」


 清里さんがズバッと聞く。

 実は僕も気になったんだけど聞いていいものか迷った。微妙に聞きにくいと思うんだけど物おじしないな。

 

「あいつは北海道の短大に行って、その後は花嫁修業すると言っていたよ」

「花嫁修業って……なに、そこまで話がすすんどるんか?」

「俺としては先走り過ぎな気もするんだが……あいつがそう言う風に言ってきかないんだ」


 斎会君がちょっと困ったような顔で言う。

 写真では御淑やかなお嬢様っぽく見えたけど、結構押しが強いんだろうか。


「なんやそれ。まったく、二人そろってホンマムカつく奴やな。

なんでのろけ話を二つも聞かんといかんわけ、のろけ話じゃなくて呪われろや、二人とも」


 清里さんがわざとらしい口調で吐き捨てるように言った。

 

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