第210話 また君に会えてよかった・上
そんなこんなのうちに日が傾いてきた。
マスコミの車とかギャラリーも減って、業者の人とか病院の関係者っぽい人達が壊れた建物の中に出入りし始める。
テントも片づけが始まって別の意味で周りが慌ただしくなり始めた。
◆
「では俺たちは行くよ、カタオカ」
テントの外にいたらセス達が声をかけてきた。
すでに普段着に着替えている。一人、会ったことのない女の人が後ろに立っていた。
「すぐに東京に帰るの?」
「せっかくだから少し観光をしていこうと思う」
「なら港の方、岩瀬の方にいいレストランや和食の店があるんだってさ」
これはさっき石田さんが教えてくれた。
「なるほどな。それはいい」
「ありがとう。今回は助かった」
サポートチームとして道を開いてくれたってのもあるけど、彼らがいなかったら火力不足で倒せなかっただろう。
どうにか三人は助けられたかもしれないけど、ダンジョンそのものは定着していたかもしれない。
「何度も言うが礼の必要はない。俺たちはお前に恩がある」
「アンマリお礼言われると困るヨ」
「それに今回の戦いは魔討士協会と我々
セスが言う。
「その通りです、ミスターカタオカ。この件はEUでも既に大きく報道されていいます。日本に派遣された
後ろにいた白いシャツに紺のスーツ姿の女の人が言う。
胸元には
肩くらいまでの黒っぽい濃い色の茶髪の白人さんだ。
僕よりも背が高い。180センチくらいありそうだな。
目元がぱっちりしている……と言うか化粧が濃い。
檜村さんよりは年上っぽいけど、カタリーナ達もだけど海外の人は年齢が分かりにくい。
体は細くて鍛えた感じは無いけど、魔法使いとかだろうか。
「申し遅れました。聖堂騎士団の
そう言ってアガサさんが一礼してくれた。
「報道されてるって、スペインにも放送されてます?」
「ええ、勿論」
アガサさんが答えてカタリーナが嬉しそうに笑った。
スマホを見て何か操作している。友達にメッセージでも送ってるのかな。
「そうなんですか?」
「もちろんあなたの事も報道されています。
「勘弁してくださいよ」
サムライなんて柄じゃないぞ。
しかし、連絡役といえば……
「そういえば、フィッツロイはどうしたの?」
今回のこれにもしゃしゃり出てきそうな感じがしたけど、全く姿が見えなかった。
「色々あってな、本国送還になった」
セスが言う……色々とはいったいどういう意味なのか。
ただ、表情を変えないセスが一瞬笑みを浮かべたので、左遷とかそういうものっぽいな。
「ね、カタオカ。SNSでアップするからさ、一緒に映って?コレも魔討士と聖堂騎士の友好関係のためヨ」
そう言ってカタリーナが有無を言わさずって感じで頬を寄せてくる。
高く掲げたスマホに顔が映ってシャッター音がした。
「アトさ、今からあたしが言うことのアトに、トゥ タンビエン カタリーナって言ってほしいんだけど」
カタリーナが言う。
前にもあったな、こんな状況。どういう意味か聞こうと思ったけど
「あのさ、それってどういう……」
「いいから。じゃあ、アタシの目を見て言ってね……Estuviste tan genial hoy también……カタオカ」
まったく答える気もなさそうにカタリーナが言う。
言ってからカタリーナが続きを促すように僕を見た。
「トゥ タンビエン カタリーナ……これでいい?」
「グラシアス、カタオカ」
にっこり笑ったカタリーナが駐車場の方に歩き去っていった。
「どんな意味だったんです?」
「申し訳ない。私はスペイン語が出来ないので」
アガサさんに聞くけど、事務的な返事が返ってきただけだった。
◆
セス達が行ってしまってから、今度は如月達が近寄ってきた。
「じゃあこれで俺たちの仕事は終わりだな」
「もう少し居たらいいんじゃないの?さっき魔討士協会の関係者の人が祝賀会を開くとか言う話をしていたけど」
そう言うと如月が嫌そうな表情を浮かべて首を振った。
「堅苦しいセレモニーなんてやってられっか。それにお前と慣れ合う気はねぇよ。いっただろ、俺はお前が嫌いだ。酒が不味くなる。
これで貸し借りは無しだ。いいな」
「勿論。本当にありがとう」
別に僕がお金を貸したわけでもなくて、あの400万は自分でいいだしたことだ。
それにこんな急で危険な話はどうにでも断ることも出来たと思うけど。
それでも最後まで危ない橋を渡ってくれたんだから、意外に良い奴なのかもな、とか思う。
「はん。今回は殊勝じゃねえか。俺にまた頼るなら、いいか金を払えよ。まあ初回なら少し安くしておいてやってもいいぞ」
「お前は……本当に素直じゃないよな」
「何が言いてえんだ、コラ」
「まあまあ怒るな。それより行こうや。この居酒屋がお勧めらしい。口コミの評価も高いぞ」
森下さんと黒川さんが茶化すように言う。
「せっかくだから駅前にいいホテルがあるっぽいし泊まっていこうぜ」
「いや、北陸なら温泉だろうが」
「じゃあな、片岡君。一緒に戦えてよかった。これであわよくば俺たちも昇格ワンチャンあるかもだしな」
森下さん達が手を振ってくれる。
「この素直じゃないリーダーに連絡とりたくなったらまず俺たちに連絡してくれ」
「余計なこと言うな、遠藤。もう顔も見たくねぇ」
「市電で行こうぜ。珍しいからな」
「歩くのが面倒だろ。タクシー呼べよ」
何か言い合いながら如月達も歩き去っていった。
◆
三田ケ谷達は何処に行ったのかと思ったけど、魔討士協会のテントに居た。
「今回はありがとう。これからどうする?」
「俺は寿司を食べて帰るよ。なんか石田さんがおごってくれるらしい。ルーファも寿司が食べてみたいらしいしな」
「そっか、ありがとう。助かったよ」
「気にすんなよ、片岡。俺は満足してるぜ。ルーファの前で良いところ見せられたからな」
「本当に勇敢でした。父に会ってもらえないのが本当に残念です。きっと素晴らしい戦士に嫁ぐことを喜んでくれるでしょうに」
そう言って二人が見つめ合う。あいかわらず仲が良いな。
「お前はどうするんだ?」
「檜村さんがもう少し付き添いたいらしいから、しばらくは付き合うよ」
檜村さんはまだ筧さんのお母さんと一緒に居る。
筧さんは他の病院に搬送されたらしくて、しばらく様子を見たいらしい。
幸か不幸か、檜村さんのお母さんは何やら手が離せない仕事で今回は姿をみせていない。
会うのが色々と気まずいのは変わってないから今回はこのまま逃げ切りたいところだ。
◆
その日は魔討士協会が準備してくれた駅前にホテルに泊まった。
北陸新幹線の影響で駅前は綺麗に整備されていて、新しいホテルも多いらしい。
晩御飯は三田ケ谷達と魔討士協会の奢りで寿司を食べた。
白いカウンターの清潔感のある店で、職人さんの手元まで見える、いかにも特別な店いう感じだ。
回転寿司しか食べたことが無い僕としては衝撃的な美味しさだった。
「さすがに値段が高いだけあるな」
「皆さんは功労者ですからね、遠慮なく食べてください。富山は回転寿司もいいのでそっちも試してほしいんですよ。駅の中にもあるので是非」
三田ヶ谷が言う。石田さんは地元だから自慢げだ。
寿司はほぼ初体験のはずのルーファさんも満足しているっぽい。箸を使う手つきも堂に入ったもんで、和食にもすっかり馴染んでるな。
◆
三田ヶ谷達は次の日の新幹線で帰って行った。
なんでも昼まで粘って、富山駅構内の回転ずしまで食べて行ったらしい。写真が何枚も送られてきた。
戦いから2日が立った。
ホテル代は魔討士協会持ちでいつまでいても良いとは言われてるけど、母さんからはいい加減に帰ってこい、というメッセージが何度も来ている。
春休みもそろそろ終わる。
どうしたものかと思いながらホテルのレストランで朝ご飯を食べていたら、硬い表情の檜村さんが向かいの席に座った。
「おはようございます」
「……片岡君」
「どうしたんです?」
ただならぬことが起きたことくらいは何となくわかる。
思わずこっちも緊張してしまうけど。
「……静夏が意識を取り戻したらしいんだ……明日の昼に、会いに行こうと思う。一緒に来てくれるかい?」
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