第205話 夢魔の迷宮
おはようございます。
引き続き行けるところまで行きます。応援よろしくお願いします。
◆
コの字型の病院の建物の入り口に立った。
目の前にはガラスの自動ドアが開きっぱなしになっている。
ガラス越しの向こうに普通の壁とか張られたポスターが見える。
その向こうにはエレベーターホールと受付の広間。
赤い光に覆われるようなダンジョンのいつもの感じではないし魔獣がいる気配もないけど、もうダンジョンの中に入っているのは分かった。
「来い、鎮定」
風が渦を巻いて鎮定が手の中に現れる。
如月達もそれぞれ槍や大剣とかの武器を手にしていた。
カタリーナが肩から掛けたアサルトライフルのレバーを引いて、映画の銃のような金属音が響く。
「1階と2階はダンジョン内だがまだ何もない。とはいえエレベータは使えないけどな。俺はとりあえず4階までは行っている。其処までは先行する」
梅乃輪さんが鎖鎌を手にして言う。
三日月のような弧を描く大きな鎌の刃は真っ黒だ。長い鎖がじゃらりと音を立てた。
鎖鎌使いは今まで見たことが無いな。代々木の道場でも見覚えが無い。
「8階は重症の患者の入院フロアでそこに3人取り残されているはずだ。男性が一人と女性が二人」
準備をしている僕等を見ていた人たちがいたけど……あと二人の関係者だろうか。
全員無事なら一番いいんだけど。
「で、どうする?」
誰かが言って、何となく全員の視線が僕に集まった。
「如月のパーティで5階まで先行してほしい。セス達は7階まで。そこで退路を確保して。僕と檜村さん、三田ケ谷とルーファさんでダンジョンマスターを倒す」
「まあいいだろう……ところで、俺を呼び捨てにすんな。何度も言うが、年上だぞ」
「任せておけ。お前等の背中は俺達が守ろう」
如月とセスがそれぞれ答えてくれる。
如月の抗議はとりあえず無視した。
「梅乃輪さんはセス達と組んで貰えますか?」
「ああ、分った。よろしくな」
「こちらこそ、よろしく頼む」
礼儀正しく梅乃輪さんとセスが挨拶しあった。
「皆、ありがとう……こんな急な、しかも危険なことに力を貸してくれて……本当に感謝している」
檜村さんが静かに言って深く頭を下げた。
「気にするな。騎士として当然だ」
「カタオカに頼まれちゃ断れないデショ」
「さっきも言ったろ、恩を返す時さ」
セス達がいうけど、如月は顔をそむけたままだった。
「如月も……本当にありがとう」
「一つ言っておくぞ。勘違いすんな。俺は片岡が好きじゃねぇし、お前も好きじゃねえ。
俺が信じるのは金とツレだけだ。それに関する借りは必ず返す。それが俺のルールだ。借りがあるからその分返しにきただけだ。礼を言われる筋合いはねェ」
如月が顔をそむけたまま言って、檜村さんが困ったようにもう一度頭を下げる。
森下さんがやれやれって顔で僕の方を見て笑った。
「じゃあ、頼みます」
「おっし!じゃあ行くぞ、森下、黒川、遠藤。俺達の力を見せてやろうや」
「さくっと終わらせて祝勝会だな」
「俺はブリシャブが食べたい、クソ美味いらしいぞ」
「ところでさ、お前さ……頼られて嬉しいとか素直に言えばいいのにな」
「勝手なこと言うんじゃねぇ!そんなことは思ってねえよ!まったくな」
如月が槍を構えて、その前に先導役の梅乃輪さん。
如月の横には大剣を構えた森下さんと短めのサーベルのような片刃剣を持った黒川さんが左右を固める。
後ろには遠藤さん。この人は武器は持ってないけど、両手が淡く光っている。魔法使い系かな。
「よし、じゃあ着いて来てくれ」
梅乃輪さんが開きっぱなしのドアをくぐって病院の中に入っていった。
◆
2階に上がった。
人気がない廊下にはベッドやカートが倒れて散らかっている。天井が低くてなんとなく圧迫感を感じるな。
廊下の奥の階段を上って三階に上がると景色が一変した。
分厚い赤い光が壁を覆っていて、普通なら光の向こうに見える元の壁とかそう言うのが全く見えない。
通路には靄のようなものが掛かっていて視界が悪い。
靄の向こうから何かが飛び出してきそうな気配があって嫌な感じだな。
「ここからが本番だ」
「何が出てきても関係ねえよ。なぎ倒すだけだ」
梅乃輪さんに如月が言い返して槍を一振りした。穂先が赤い靄を切り裂く
ルーファさんが周りを見て何かを思い出すように考え込んだ
「これは……
「はあ?なんだそりゃ?」
「そう言う魔獣です。広い領域を覆うタイプの魔獣……このダンジョン全体が夢魔の中です」
ルーファさんがいう
「ずいぶんはっきり言うんだな……」
「なんでお前がそんなこと分かるんだ?戦ったことあんのか?」
梅乃輪さんと如月が聞いてルーファさんが口をつぐんだ。
もしかしたら元いた世界で戦ったことがあるのかもしれないけど……よく考えればルーファさんのことは内緒だった。
一緒に居る時間が長かったから忘れてた。
「あの……故郷で一度だけ戦ったんです……そう、えっと……タイで」
言葉に詰まりながらルーファさんが言う。
如月達が胡散臭げにルーファさんを見た。
セスたちはあまり気にしてなさそうだ。
魔討士協会と聖堂騎士団は色々と情報共有してるみたいだし、ルーファさんの正体も知ってるんだろうな。
「情報があるならいいじゃないですか」
「……まあ確かにそうだ。情報なしで突撃よりはいい」
とりあえず話を逸らすと、梅乃輪さんがフォローしてくれた。
「で、どんな奴なんだ?」
「中にいる人間を捕らえて夢を見せ、夢の中に閉じ込めて魔素を吸い取る性質を持ちます。逆に言うと中の人間はそう殺されはしないはずです」
ルーファさんが言って檜村さんの表情が少し緩んだ。
普通のダンジョンの魔獣は攻撃的だからぼんやりしてたらすぐに殺されてしまうけど、そういうのなら希望はあるのか。
「ただ……カタオカさん」
ルーファさんが手招きした。
皆に聞こえないように言いたいことがあるっぽいから少し近づく。
「何?」
「一度戦ったことがありますが……恐ろしくしぶとい魔獣です。村の戦士10人がかりでようやく倒せました」
ルーファさんが檜村さんの方を横目で見て小声で言った。
それはあんまり楽しくない情報だな
◆
そんな話をしているうちに、通路に漂っていた靄がぐにゃりと歪んで塊のようになった。
その塊がこっちに向かって飛んでくる。
梅乃輪さんが鎖鎌の分銅を投げた。同時に如月が槍を突き出す。
槍の穂先と分銅に貫かれて靄が崩れて四散した。
「こんな程度ならどうってことないだろ」
「だといいんだが」
それで終わりかと思ったけど、また壁の一部がうごめくようにして、まるで掌のように広がった。
「後ろもだぞ!」
遠藤さんが言う。
後ろでも靄が幕のように広がってこっちに迫ってきていた。
「なるほど、こんな感じか」
「遠藤、後ろを頼む!さっさと突っ込むぞ!俺についてこい!」
「任せろ!」
遠藤さんの手から光の球が飛んで靄に命中した。
如月が槍を構えたまま走り始める。セス達がその後ろに続いた。
壁や空中から現れる靄の塊を如月の槍と森下さんの剣が薙ぎ払っていく。
後ろから追いかけてくるようなのは、遠藤さんの手から飛ぶ光弾が撃ち落として行った。
それぞれ強いんだけど、連携がうまい。息が合っているっていうか、信頼関係とかそういうのを感じる。
流石5位のパーティだな。
◆
非常階段のような急な階段を上がる。
階の表示とかが無いけど……5階まで来たはずだ。靄はますます濃くなってきている。
階段の近くに広い待合室のようなスペースがあった。
「よし五階だな。俺たちは此処で待機するってことでいいな」
「宜しく」
また周りから靄の塊が浮かんで向かって来たけど、如月の槍がそれを一突きにした。
「さっさと片付けてこい。あまりに遅いようなら俺は帰るからな」
「大丈夫……俺達のリーダーはそんなことしないさ」
「でも早目に頼むよ」
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