第201話 来てくれた人たち

「ところで、他には……来てくれそうな人はいるかな?」


 檜村さんがちょっと申し訳なさそうな口調で聞いてくる。

 定着ダンジョンの攻略だから戦力は多い方がいいってことだろう。


「カタリーナとセス、パトリスが来てくれます……それとあまり気が進まないけどもう一人」


 そんな話をしているうちに黒いSUVが駅のロータリーに止まったのが見えた。

 観音開きのドアが開いて後ろの席からパトリスと、助手席から窮屈そうに大柄なセスが降りてくる。


 カタリーナが周りを見回してこっちに向かって歩いてきた。

 全員お洒落なコート姿で相変わらず同年代には見えない。


「チャオ、カタオカ、それにヒノキムラさん。トヤマはまだ冬ね」

「来てくれてありがとう、カタリーナ、パトリス。それにセス」


「君たちに恩を返せるのが嬉しいよ。そういう機会を与えてくれて感謝する」

「声が掛からない方が傷ツクワ。イツでもアタシに頼っていいのよ」


 カタリーナ達が答えてくれた。

 三人とも実力は折り紙付きだ。セスが来てくれたのも有難いな。


「急な話なのに来てくれて感謝している」


 あまりに急ぎだったから殆ど事情も話さないままだったけど。


「お前が言うのならば余程のことだろう?」

「まあ」


「恩を返す時に事情を聴く必要はない。事情を聴いてやるかやらないかを判断するのは恩返しとは言わないよ」

「それに、友が苦境に立つときにこそ助力するのが騎士だ」

「マッタク……相変わらず騎士カブレよね」


 セスとパトリスが言ってカタリーナがやれやれって感じで肩をすくめる。

 セスがじろりとカタリーナを睨んだ。


「そういえば、なんで車で来たわけ?」


 新幹線で一緒に来ないかと言ってみたけど、カタリーナが運転して車で来たっぽい。 

 結構時間かかるはずだけど。


「考えてみてよ、カタオカ。アタシの武器は新幹線には持ち込めナイでしょ」

「まあ、それはそうかも」


 どういう許可を得ているのかは分からないけど、万が一車内でアサルトライフルなんて見つかった日には大変なことにはなるな。


 ◆


「ところで……もう一人というのは誰なんだい?」

「多分そろそろ来ると思うんですけどね」


 そんな話をしているところで、駅に大き目の黒のワゴンタイプにタクシーからその男が降りてきた……久しぶりの如月だ。


 檜村さんとのことを考えるとあまり頼みたい相手じゃなかったけど、甲5位は戦力としては頼れる。それもに如月には貸しがあるから、気がねしなくてもいい。

 如月が僕の方を一瞥してわざとらしく顔を背けてから、こっちに歩いてきた。


「急に連絡してきたと思ったら富山に来いとか全く……人の迷惑を考えろ。で、何をしろって?」

「定着ダンジョンの攻略に参加してもらう」


 前と同じ偉そうな口調だけど、如月にも殆ど事情は説明していない。 

 ……昨日の今日と言う急な話で、しかも事情も聴かずに応じてくれるんだから根は其処まで悪人じゃないのかもな。


「定着ダンジョンか……借りは借りだからな。400万分は働いてやるよ」


「定着ダンジョンで戦うのは久しぶりだな」

「半年ぶりくらいか」

「まあ、あの代々木に比べればマシだろ」

 

 如月の後ろからタクシーから降りてきた人たちが声をかけてきた。

 誰かと思ったけど……前に会った如月のパーティの人達だ。一番背の高い一人がにこやかに笑って手を上げてくれた。


「おはよう、片岡君。自己紹介がまだだったかな。俺は森下。こいつは、黒川と遠藤だ」

「みなさん、ありがとうございます」


 まさか全員来てくれるとは思わなかった。

 思わぬ戦力アップだな。


「いやいや、この間の戦い、君が来てくれなかったら俺達も死んでたかもしれないしね」

「それに、色々と困ったリーダーだけど……パーティだからな。付き合ってやらないと」

「おい、困ったリーダーって誰の事だ、黒川」


「何といってもこの時期は北陸は魚が旨い。こんな機会じゃないとなかなか来れないからね。観光も兼ねてるから気にしないでくれ」

「ていうか、さっさと片付けて地酒でも飲みに行こうぜ。富山の美味しい店を紹介してくれよ」


 森下さんと遠藤さん、それに黒川さんがそれぞれ答えてくれた。

 気を使わせないようにしているのが何となくわかる。リーダーはあんなのだけど……メンバーは何というか大人だ。


「ありがとうございます、助かります」

「おい、お前。俺と露骨に態度違うじゃねぇか」


 如月がこっちを見て不満そうに言うけど


「それは仕方ないと思わない?」

「ちっ、まったく口が減らないガキだぜ。年上へのリスペクトが足りねえぞ」



「ところで一体どういう状況なんですか?」

「中央病院にダンジョンが発生しています。最上階が起点になっていて、下層に拡大している珍しいケースです。ダンジョンマスターは不明。系統は八王子系です」


 檜村さんの横にいた緑のベスト姿の男の人がタブレットを見ながら答えてくれた。

  

「今は8階から4階までがダンジョンになっていて、下に向かって広がり続けています。何人かが最上階に取り残されています」

 

 8階から4階ということは、実質的に5階層のダンジョンってことか。

 

 定着ダンジョンの攻略に当たって、事前に伊達さんにアドバイスをしてもらった。

 前に仙台でやったようにサポートチームが道を開いてアタックチームでダンジョンマスターを倒す、と言う方法は有効っぽい。


 しかも今回は正体不明のダンジョンだ。

 カタリーナ達だけじゃなくて如月のパーティもいればサポートチームの層も厚くなるからありがたい。

 

「これだけの戦力がいるのですから、攻略を認めてもらえますね」


 檜村さんがその男の人を見て言う。男の人が少し顔をしかめた。


「あなたも行かれるんですか?」

「勿論です」

「協会としても行政としても、出来れば避けて頂きたいのですが……」


 その人が言葉を濁しつつ言う。

 

「……もう一度あのようなことが起きたら、非常に問題が大きい」


 檜村さんが高校生の時に定着ダンジョンの攻略で大けがをしているのは知っているけど、だからだろうか。

 その言葉を制するように檜村さんが男の人を見た。

 

「しかたありませんね」


 その人が首を振って頷いた。




 




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