第200話 何のために戦うのか

「そういえばさ、何か話したいことがあるんじゃないの?」


 わざわざ僕を呼んで単に挨拶がしたかったなんてことはないだろう。

 なら用事があるんじゃないかな。


 木次谷さんが察してくれたように軽く会釈して箱の方に歩き去ってくれた。

 エルマルが言葉を探すように少し黙り込む。


「なあ、カタオカ……ニホンでは戦うのは当たり前じゃないんだよな」

「まあ、そうだね」


「じゃあ戦わない魔法使いとかもいるのか?」

「いると思うよ」


 少なくとも日本では魔討士は登録制で強制じゃない。

 だから能力があっても登録して無かったり、登録しても殆ど使わない人もいる。

 そもそも気付いていない人も結構いるらしい。


「じゃあ……なんでお前らは戦うんだ?戦いなんてせずに平和に暮らしたいとか思わないのか?」

「その理由は……人それぞれな気がする」


 突然聞かれる質問としてはかなり重い話題だな。

 如月は金のためっぽい。セスは多分貴族としての義務感だろう。

 清里さんは自分の成り上がりとかだろうし、四宮さんは家族のため。


「じゃあ、お前はどうなんだ?カタオカ」


 エルマルが僕を見て聞いてくる。

 何で戦うのかって、前も聞かれたな。


 最初は何となくだったけど……5位まで上がってきたら、使命感が無いわけじゃない。

 でも僕は檜村さんがいなければここまで真面目に戦ってないかもしれない、とも思う。


 正義にためにとかご立派なものじゃないけど……いざ何かが起きた時に逃げ出そうとは思わない。 

 いずれにせよこの気持ちは一言では説明がつかないな。

 

「どうかな……ただ、誰であっても自分の意思で戦ってるのは確かだと思うよ」

「自分の意思か……」


 エルマルがつぶやく。

 戦う目的は人それぞれだ。でもその目的が何であろうとも、誰かに強いられて命は張れない。


「……そうか」

「じゃあエルマルは何で戦ってるのさ」

「バートリー家は歴史ある武門の家だぞ。家名と国と民のために戦うのは当然だ。そんなこと考える間でもない。使命から背を向けるなんてありえない」


 エルマルが当たり前だって顔で答える。

 エルマルの国、サンマレア・ヴェルージャは多分僕等の世界とはかなり感覚が違うだろうな。

 セスあたりとは話が合うかもしれない。


「じゃあ、エルマルの国ではみんなが戦うのが当たり前なわけ?」

「ああ……まあそうだ。当然だろう。能力があるものが戦わなければ……誰かが死ぬんだからな」

「まあ……確かにそう言う面もあるよね」


 勿論誰も戦わないで済めばいいけど。

 ……でも誰も戦わなければそれこそあの知性ある蟲とかに降伏するしかなくなる。


「……当然だ。戦うべきなんだ」


 自分に言い聞かせるようにエルマルがいう。

 何か思うところがあるんだろうか。


 ただ、戦いに向いていない人もいると思う。トゥリイさんとかもそうだった。

 しばらく会ってないけど、元気にしているんだろうか。

 これだけ一緒に戦っていていうのもなんだけど、正直言って檜村さんもあんまり戦いに向いている感じではないとは思う。



 エルマルとの話が終わって新宿の本部を出た。

 この後はエルマルと魔討士協会と色々話し合いがあるんだろう。


 まだ三時くらいだし、何処かに寄っていこうかと思ったところで、ポケットの中でスマホが震えた。

 画面には檜村さんの表示が出てる。

 富山から掛けてきているんだろうか。

 

「もしもし。どうかしたんですか?」

「片岡君……急で済まないが、できれば富山まで来てもらえないだろうか」


「富山ですか?」

「……もし可能なら誰かも一緒に。三田ケ谷君やルーファも」


 檜村さんが続ける。

 藪から棒というくらいに突然の話だけど、電話越しでも深刻な感じなのは分った。


「どうしたんですか?」

「富山に新しく定着ダンジョンが現れた。攻略しなくてはいけないんだが……私だけでは手に負えない」


 檜村さんが言う。

 富山にも魔討士はいると思うから、僕等が行くまでもない気もするんだけど 


「私の友達が入院している病院なんだよ。彼女は眠っているから避難できなかった……あの子の事だけは人任せにはできない」


 僕の疑問を察したように檜村さんが言う。


「ああ……そういうことですか」


 檜村さんの過去の事は少し聞いたことがある。

 一緒に戦っていた友達がいたことも。その人が定着ダンジョンのダンジョンマスターとの戦いで意識を失ったままであることも。


 あまり詳しく聞くのも気が引けるから大したことは知らないけど。

 でも、そういうことなら檜村さんの気持ちは分かった。


「もしかしたら……もしかしたら……もう手遅れかもしれないけど……それでも」


 そう言って檜村さんが答えを待つように言葉を切った。

 とは言っても答える間でもないか。


「勿論行きますよ」

「すまないね」

「だって、僕らはパーティでしょ」


 前に檜村さんに言われたことだ。君の大事な人は私も大事に思っている、と。

 なら僕もそうしないといけない。


「すぐに出ます。また連絡します」



 頼めそうな相手に話を通して、次の日に三田ヶ谷とルーファさんと一緒に富山に新幹線で来た。


 ただでさえ魔討士やってることにいい顔をしてない母さんを説得するのは流石に難儀した。

 でも、高校生が富山まで戦いに行く、なんていうことになれば嫌がるのは当たり前かもしれない。


 周りから見れば身内が戦うなんていい気分ではないだろうな、と思う。

 自分では魔討士になろうと思っても、周りが止めるケースもあるかもしれないな。

 

「3月だっていうのに結構寒いな」

「そうですね」


 改札を出たところで三田ケ谷が言った。

 ルーファさんは寒さが苦手なのか、モコモコしたダッフルコートにマフラーを巻いている。

 ガラスの向こうに見える広い駅前には雪があちこちに残っていて、景色も肌寒い。


 吹き抜けのようになっているのか、駅構内も結構寒い。

 黒っぽいタイルが貼られた駅は天井が高くて結構お洒落な感じだ。


 駅の構内を貫くように向こうには路面電車が行きかっているのが見えた。

 駅の中を路面電車が通過してるのは面白いな。


 暫く待っていると檜村さんが駅に入ってきた。

 檜村さんの横には緑色のベストを着た40歳くらいの男の人が付いてきている。胸に魔討士協会のマークと富山県のロゴが入ってた。

 魔討士協会の人か、それとも役所の人かな。


「来てくれてありがとう、ルーファ」

「ヒノキムラ……私はずっとあなたに助けられた。ならあなたが困ったら助けるのが当たり前」


 そう言うと二人がハグし合った。


「ルーファちゃんが来るなら俺が来ないわけにはいかないですからね」

「ありがとう、三田ケ谷君」

 

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