第199話 新しい武器

 檜村さんが富山に帰って二日後、新宿の本部に来てほしいというメッセージが来た。

 そろそろ顔なじみになりつるある受付のお姉さんが案内してくれたのは、本部の奥の倉庫のような広間だった。


 昔は会議室だったのかなって感じの広い部屋だけど、今は飾りが無くて殺風景なだだっ広い広間だ。

 中央には四角い枠のようなものが浮かんでいて、枠の中はテレビのノイズのように灰色になっていた。

 なんかCGを見ているような、シュールな光景だな。


「カタオカ、久しぶりだな」


 部屋に入ると声をかけて来たのはエルマルだった。

 なんかシューフェンといい、呼びつけられてばかりな気がするな。

 とはいっても街中で待ち合わせってわけにはいかないんだけど。


「どうしても片岡君に会いたいとのことでね……いつも申し訳ない」


 出迎えてくれた木次谷さんが申し訳なさそうに言うけど。


「いえ、別にそれは良いんですけどね。今日は休みですし」


 まだ春休みだし今日は特に予定も無かった。


「ところで、今回は1人なの?」

「ああ、この僕に従者がいないのは不満ではあるんだが……これは公務のためだからね、仕方ないことさ。そうだよなキジタニ」

「ええ、感謝してますよ」


 エルマルが偉そうに言って、木次谷さんが答える。

 ゲートを展開するために使われているらしい広間の隅には、大き目の黒い箱が置かれていて、その周りには何人かの人がいて中を改めていた。


 どうやらあの人たちもゲートを抜けてきたらしい。

 ただ見た目はどう見ても日本人だけど


「なんです?あれ」

「片岡君には教えますが……実はサンマレア・ヴェルージャで銃の弾を生産しているんですよ」

「そうなんですか?」


「異世界側の武器は普通に魔獣を倒せる……ということは、向こうの金属で作った銃弾ならば魔獣にも対抗できると思いましてね。サンマレア・ヴェルージャでは良質の金属が取れるので協力をしてもらっています」


 木次谷さんが言ってエルマルが頷く。

 ということは日本から異世界側に行っている人がいて、その人たちがゲートを通るから今回は付き人とかを付けずに来たってことか。


「一応、一定の効果は確認できました……とは言っても、まだとても片岡君や清里さんとかのような上位帯にはとても及びませんが。

今は自衛隊と協力して色々と試行錯誤しています。最も効率的な弾丸の種類は何か、あまり使い慣れて無い人でも使えるようにはどうすればいいのか。検討することは多い」


 言われてみると、箱の傍にいる人にはスーツ姿の人に交ざって迷彩服の人がいる。自衛官の人かな。

 木次谷さんが話してくれているうちに、その迷彩服姿の男の人がこっちに歩み寄ってきた。


「君が片岡君だね。風鞍三佐から君のことはよくお聞きしていますよ」


 落ち着いた口調でその人が言う。

 坊主に近い短い髪、見た目は30歳くらいだろうか。

 話し方は穏やかだし、見た目も背が高い普通の男の人って感じだけど……なんというか、乙の上位帯のような独特の雰囲気がある。


 差し出された手を握った。

 硬くて強い掌と軸が通ったように安定した体が握手した手から伝わってくる。相当鍛えてあるんだろうなと言うのは分かった。

 

「特別災害対策小隊所属、安曇一誠あずみかずあき一尉。宜しく。対空間浸食災害用装備の実戦での試験を担当しています」

「よろしくお願いします」


 そう言う安曇さんの迷彩服の胸にはいくつもバッジがつけられてた。

 風鞍さんの仲間というか同僚とかだろうか。同じようなのを付けていた覚えがある。


「魔討士ですか?」

「いや、そう言う能力とかは全くありません。一般人です。志願しました」


 安曇さんが答えてくれた。


「そう言う人は他にもいるんですか?」

「ええ。特別災害対策小隊の半分は能力を持たない隊員です。自衛官で能力を持っているものもいますが、風鞍三佐のように民間から入隊してくれた方も多い」

「そうなんですか」

  

「私にも君のような能力は無いのですが……ようやくこれで私たちでも戦えるところまできました」


 安曇さんがしみじみとした口調で言う。


「私たちには自衛官として国を守るものとしての矜持があります。女子供に最前線で戦わせて、守られているのは正直言って忸怩たる思いはありました」


 子どもという部分にちょっと棘があるけど……これがプロとしてのプライドなのかもなって気がした。


「では失礼します」


 安曇さんが敬礼してくれて、きびきびした動作で箱の方に戻っていった。



 安曇さんが行ってしまって、木次谷さんとエルマルが何か話しているのが耳に入ってきた。


「……ところでキジタニ、今回の貢ぎ物はどうなってる?」


 エルマルが木次谷さんに言って木次谷さんが顔をしかめた。


「いえいえ、エルマル卿。我々日本とサンマレア・ヴェルージャの関係はあくまで対等、貢ぎ物ではありませんよ。交換の品は後程お見せします」

「ふん、まあいいだろう。前回の品は素晴らしかったからな。王様も期待してくれてるぞ」


 エルマルが答えて僕の視線に気づいたようにこっちを見た。

 エルマルがアピールするように手を広げる。その指には銀色の大き目の指輪が光っていた。

 あれは日本の品だろうか。


「ニホンの装飾品は実に素晴らしいぞ。意匠も多彩でどれも美しい。他の国の連中も羨ましがっている。

これならサンマレア・ヴェルージャの西方連合の内部での地位も上がるな」


 エルマルが指輪を見ながら満足げに言う。

 どうやらこっちからはアクセサリーというか宝飾品とかそういうものを交換として出しているらしい。

 お札だので払うのは無理なわけで、物々交換になるわけか。


「連合の中で最初にお前らに接触できたのは運が良かったな」


 エルマルが言うけど……ファーストコンタクトは最悪どころの話じゃなかった気がするぞ。


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