富山ダンジョンとそこに眠る過去

第198話 相手の親との関係について

 お待たせしました。新章開始します。

 とりあえず行けるところまで連投します。



 あの大阪での戦いが終わって3日後。

 そろそろ春休みも終わってもうじき新学期って感じだけど、今日は富山に帰省するという檜村さんを見送りに東京駅に来た。


 平日の午前中だけど、新幹線のホームは家族連れとかスーツを着た社会人の人であふれかえっていて、ひっきりなしに発車ベルと到着のアナウンスが流れていた。

 クリーム色の車体に茶色と青のラインが引かれた北陸新幹線がホームに止まっている。


「久しぶりの里帰りですよね」


 少なくとも僕と知り合ってから帰省したという話はあまり聞いたことが無い。

 あの原宿で会った時から随分長くたった気がするな。


「ああ、そうだね。多分一年ぶりくらいだと思う」


 時計をちらりと見て檜村さんが答えてくれる。

 ちょっと抗議するような視線で眼鏡の向こうから僕を見ているのに気づいたけど、とりあえず気付かないふりをした。


 3月ももう終わりだけどすこし肌寒い。

 薄手の黒のダークブルーのコートと大判の白いショールを着ている檜村さんはなんか相変わらず服装が魔法使いっぽい。


『かがやき509号が発車します。お乗りのお客様は……』


 そろそろ発車時間かな、と思ったところでアナウンスが流れた。


「すまないね。すぐに戻ってくるよ……少しは寂しいとか思ってくれるかい?」

「ええ」


 そう答えると檜村さんがほほ笑んでトランクを持って新幹線に乗り込んだ。

 待っていたようにドアが閉まる。

 窓の向こうの檜村さんが軽く手を振った。こっちも振り返したところで新幹線が滑るように動き出してホームを出て行った。 



 その日の午後は新宿で三田ケ谷とルーファさんと会った。

 一しきり二人の買い物に付き合って、チェーン系のカフェで一休みすることにした。


 新宿は新宿ダンジョンが発生した関係で一番賑やかなスポットは代々木の近くになっている。

 平日だけど今日もそこら中が人だらけで、カフェもにぎわっていた。


 カウンターでオーダーして広い店内の隅で席をとる。

 僕と三田ケ谷はコーヒー、ルーファさんはロイヤルミルクティーとミルクレープのセットだ。


 相変わらず甘い物が好きだな……でも全然太ったりとかそう言う気配はない。

 むしろ髪とかも綺麗になっている気がするな。


 ルーファさんは褐色の肌のエキゾチックな雰囲気と、アオザイのような民族衣装風の服装だからなのか微妙に店内の注目を集めている。

 三田ケ谷がちょっと威嚇するように周りに視線を巡らしていた。

 なんか僕の方とスマホを見比べながら話している人が気もするけど……気のせいということにしておきたい。

 

「で、檜村さんは富山に帰省か」

「だね……そういえば、ルーファさんは1人で大丈夫なの?」


 檜村さんとルーファさんの共同生活は今も続いているはずだけど。


「はい。もう日常生活には不自由はしません。お料理も自分でしますし……ただ、スマートフォンとかインターネットはまだよくわかりませんけど」


 ルーファさんが言う。

 元異世界人だけど随分馴染んでいるな。調理器具とかは普通に使えるらしい。


「片岡。お前も一緒に行けばよかったんじゃないの?富山って寿司が美味いって評判だろ」

 

 三田ケ谷が言う。

 まあ勿論その話は知っている。春休みももう少しで終わるけど、ちょっと行くくらいは出来た。


「実は誘われたんだよね」

「そりゃそうだよな」


 それとなく、一緒に来ないかい、と言う風に誘い水は掛けられた。

 勿論それに気付かなかったわけではないんだけど、今回はちょっとはぐらかした。


「でもさ……富山に行ったら檜村さんのお母さんとかとも顔合わせるだろ」

「ああ……それは中々気まずいかもな」


 三田ケ谷が察したように頷いた。

 檜村さんと付き合ってるのは事実だけど……富山の実家のお母さんと顔を合わせるのはなんか色々と別の意味がありそうで抵抗があるというか。

 東京のクラスメイトの親に会うとかとはわけが違う。

 

「その点、俺は親公認だから何にも気にすることなくて楽なもんだぜ」

「そうですね」


 ルーファさんと三田ケ谷が寄り添い合って指を絡める……このバカップルめ。

 なんか周囲からの視線が刺さってる気がするぞ。


「俺としては、親御さんに挨拶に行けないのが残念だな」

「まあそりゃ無理でしょ……」


 ルーファさんの親御さんは異世界側で生きているはずだけど、そこに辿り着くルートが無い。

 ソルヴェリアやサンマレア・ヴェルージャのゲートで異世界側には行けるようだけど、そこからルーファさんの村までたどり着くのは多分無理だろう。

 

「男として、お父さん!娘さんを俺に下さい!とか言ってみたいぜ」

「……いつの時代の話をしてるんだ」


 そんなシーンは昔のドラマでしかみたことないぞ。

 お前なんかに娘はやらんとか言われたら、相手の親と殴り合いでも始める気か。


「いや、ルーファがそう言う風に伝えるもんだっていうからさ。日本も向こうもあんまり変わらないよな」

「本当は正式に結納の儀をして皆に祝福をしてほしい気持ちはあります……結婚のときは村を上げて三日三晩皆で祝うのです。近隣の村からも人が来て、とても華やかで楽しいんですよ」


 ルーファさんが言う。

 どうやら異世界側の結婚式は僕等の世界以上に一大イベントらしい。


 ルーファさんは異世界側の遊牧民ぽいところの出身だ。

 こういういい方は問題あるのかもしれないけど、掟とか仕来りとか伝統とか色々ありそうな気はするな。


「ミタカヤ様は強く勇敢な戦士ですから、父様も母様もきっと喜んで認めてくれます」

「まあ当然……といいたいところだけどさ、まだまだ強くなってルーファに相応しい男になるぜ」

「ありがとうございます」


 二人が見つめ合う。

 ……本当に高校卒業したらすぐに結婚してしまいそうだな。まあ仲が良さそうで幸せそうだからいいのか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る