第189話 本当の敵・上

「では次は俺の番だな。

すでにこの戦、勝敗は決したが、お前らも武人の端くれならば意地を見せてみよ」


 斎会君が槍を構えて進みでる。


「尋常の立ち合いに情けは無用……いざ勝負!」


 斎会君が言って床を強く踏みしめる。

 震脚っていうんだろうか。地響きのような音が響いて空気が震えた気がした。


 そう言えば武器付きの彼の戦いを見るのは初めてだな。訓練用の武器での試合はしたけど。

 元村の後ろにいた20歳くらいの男の一人が前に出てきたけど……斎会君と向き合ってすぐに手にしていた剣を下ろした


「どうした!」 

「あの……俺、オリます」


 そう言って男がすごすごと引っ込んでいく。

 なんか気まずい沈黙が流れて槍を構えたままの斎会君が固まった。

 

「貴様!それでも男か……恥を知れ!戦う前から恐れをなして背を見せるとは無様にもほどがある。

お前たちが達者なのは口だけか。此処で戦わぬとは武人の風上におけんぞ、この軟弱者!」


 斎会君がブチ切れたって感じで言う……普段の温厚な感じは全くない。

 やっぱり槍を握ると性格が変わるっぽい。


「なあ、ミズキ。あたしよりあいつの方が酷いこと言ってへんか?ショータって結構性格悪いんと違うか?」


 清里さんがひそひそ声で言うけど。


「さあ、どうかな」


 斎会君の場合は勢いで言ってるだけな気がするな。

 不満丸出しって顔でこっちに引き上げてくる斎会君を見つつ思った。



 なし崩しに三戦目が流れてしまったけど……これで終わりなんだろうか。

 ていうか、こっちが勝ったらどうなるんだろうか。

 木次谷さんはかなり勝ちにこだわっていたけど。


「勝負ありですが……あなたには聞きたいことがある」


 木次谷さんが元村に向かって言う。

 まるで戦いの前のような緊張感のある口調だ。


「勝ったから言うことを聞けという気か?」


 少しは元気を取り戻したらしい尾城が言うけど……自分から仕掛けておいてそんなこと言うか


「正しさを力で……権力で押しつぶすなど許されない!」

「そんなつもりは無い。アンタらと違って正しいとかどうとか言う気もないよ。

そもそも勝った負けたで正しいかどうかなんて決まらないでしょ」


 言い返すと尾城が黙った。

 勝った負けたで正しい正しくないが決まるなら、日本の魔討士で一番正しいのは宗片さんになってしまう。

 でもあの人はその辺には一番無頓着なタイプな気がするな。


 元村の方を見ると、余裕の薄笑いは消えていた。

 元村が尾城達を一瞥して木次谷さんの方に向き直る。


「あなた達のその能力は……」 

「いや、まだ終わってはいない。私が残っている」


 元村がそう言ってジャケットを脱いだ。


「はあ?先生が続きをやるんか?」


 清里さんがちょっと馬鹿にしたような口調で言う。

 ただ、さっきの尾城との戦いの時の声かけのタイミングを思い出すとなんらかの戦いの経験はあるかもしれない。


「私達の本当の力を見せてやろう」


 元村の前に白いディスプレイのようなものが浮かんだ。

 元村が何かを操作するようにディスプレイに触れる。


 元村の体を白い光が包んで、周りに白いバスケットボール位のキューブが4個浮かんだ。

 これ、もしかして。

 


「一刀!薪風!」


 とっさに風の壁を立てる。

 同時に硬いものがぶつかり合う音がして、清里さんが床に転がった。


 10歩近い距離があったはずなのに、元村が一瞬で僕等のすぐ傍、清里さんの前に移動していた。速い。

 いつの間にか元村の背中からは二本の細長いロボットを思わせるアームのようなものが伸びていた。

 アームの先端にはブレードが形成されている。


 清里さんが何が起きたのか分からないって顔で元村を見上げる。

 アームがくるりと回転して倒れたままの清里さんに向いた。


「一刀!断風!」


 風を鎮定に纏わせて上段から振り下ろす。鎮定とアームがぶつかり合った。

 全身を震わせるような手ごたえが鎮定から走って頭まで突き抜ける。細い見た目なんだけど恐ろしく強く硬い。


「竹払!」

 

 風切り音を立てて下段を斎会君の槍が払いのける。

 ガンと言う音がして槍が止まった。


「なんだと?」

「何してくれんねん、コラァ!」

 

 立ち上がった清里さんが戦槌ウォーハンマーを振り下ろす。

 元村がそれを片手で受けとめた。ワンテンポ遅れて轟音が響いて衝撃が走る。元村が戦槌ウォーハンマーを掴んだ。


「マジかい?」


 清里さんが言うのとまったく同じタイミングで巻き込むようにブレードが振られる。

 ヤバい。とっさに鎮定を立てて軌道に割り込む。


 ブレードを受けた瞬間、刀身からの衝撃、体が後ろに引かれる感覚、足に触れる床の感触が消えのが全く同時に来た。

 一瞬遅れて今度は殴られたような衝撃が背中が走る。


 体を起こすと後ろに赤いパネルにような壁があった。ここまで弾き飛ばされたのか。 

 元村が遠くに見える。10メートル近く飛ばされた……どういうパワーだ。

 

 防壁のおかげで痛みはさほどないけど息がつまる。

 でも痛いとか言ってる場合じゃない。元村が清里さん達を威嚇するようにアームを広げた。


「一刀、破矢風!蒼楔あおくさび!」 

 

 膝立ちのままで鎮定を突き出す。

 風の塊が元村を捉えた。元村の体が浮いて、風がそのまま壁に押し付ける。赤い壁にひびが入った。

 

「さっきはサンキューな、ミズキ。助かったわ」 

「怪我はないか?」


 駆け寄ってきてくれた斎会君と清里さんが聞いてくる。

 頷いて返して鎮定を構え直す。


 風の効果が消えて元村がこっちを見た。

 さっきのを見る限り踏み込みが恐ろしく速い。次はどうしてくるのかと思ったけど。

 

 元村の周りに浮いていたキューブが光を放つ。

 何をしてくるのか、何となくわかった。


「レーザーだ、避けて!」


 思わず声が出た。

 4つのキューブからばら撒くように飛んだレーザーが空中を切り裂いて飛ぶ。尾島や大和田が悲鳴を上げて身をかわした。

 敵味方お構いなしの無差別攻撃か。


アレはヤバい。レーザーは風じゃ止まらない。

 攻撃させない様にしないと。


「檜村さん、木次谷さん、みんな無事ですか?」

「大丈夫だ」

「【書架は南東・記憶の六列・参拾弐頁八節。私は口述する】」


 周りから木次谷さん達の声が聞こえた。

 檜村さんが返事替わりって感じで詠唱を始める。

 

「【今、敵は迫り鬨の声は門の外より響く。戦の時はきた。

されど恐れるなかれ。我等の四囲にそびえるは家祖が築きし高き城壁。其を超えること能うは北天より山嶺を越え来る渡り鳥のみ】術式開放!」

  

 ドーム状の白い防御壁が立ち上がる


「戦えない人はこの後ろに!」

「すみません」

「……なんなんだよ、これ……会長」


 檜村さんが言って木次谷さんや尾城達が壁の後ろに下がる。

 改めて元村を見た。アームを広げたまま、元村もこっちを見ている。


「これは手加減できる相手じゃないぞ」

 

 斎会君が呟いた。












 

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