第188話 交流戦、二戦目。

 風の塊を受けた尾城が吹っ飛んで床に転がった。

 威力は絞ったし当てたのは肩だ。例の防御も効いてるみたいだし、死にはしないだろう。

 案の定、ちょっと見ていたら立ち上がった。

 

「勝負あり、ですね」 


 とはいえ、これで十分だろうとは思う。

 倒れてる間に追い撃ちかけ放題だったわけだし、その位は分かってると思ったけど……


「ふざけるな!見ろ!お前の攻撃なんて通じてはいない」


 尾城が立ち上がって怒鳴る。

 どこまでも往生際が悪いな。


「さあ、もう一度……」

「あのですね……あなた弱すぎです。そんなのでは大阪帝琳高校の魔討士部にも負けますよ」


 清里さんがズバッと言って尾城が黙った。


「片岡君、勝つのより手加減する方が大変だったんじゃないですか。そうでしょ?」


 清里さんが聞いてくるけど……一応気を使って言わなかったのに、君が言ったら台無しでしょうが。

 猫かぶりモードの丁寧口調の分辛辣さが増すな

 

 尾城が何かを言いかけたけど、元村が目で尾城に合図する。

 尾城がすごすごと下がっていって壁際で座り込んだ。



「やるやん、ミズキ。スカッとしたわ」


 小声で清里さんが言ってハイタッチした。


「じゃあ次は私ですね」


 口調を変えて清里さんが前に進み出る。あくまで猫をかぶり続ける気かな

 向こうからは元村の後ろに控えていた30歳くらいの男が進み出てきた。


 白の揃いのジャケット姿で背が高い。

 頬が緩んだ感じで少しふっくらした顔立ちにちょっと垂れた笑っているような目。


 穏やかそうであまり戦闘向きって感じではないけど、手にしているのは長目の杖だ。乙類系だろうか。

 体と武器には尾城と同じように白い光を纏っている


「はじめまして。清里さん。私は大和田怜おおわだれい

「どうも……清里芳香です」


 その男……大和田が穏やかな口調で挨拶して一礼する。煽り口調が酷かった尾城とは少し違うな。

 ちょっと戸惑ったように清里さんが挨拶を返した。

 

「少し話していいかい?」

「ええ……どうぞ」


「まず、私としてはこの戦いは不本意なんだ。

君は戦うように仕向けられているんだよ。世の中にそうさせられているんだ。俺はそんな女性のために力になりたいと思っている」

「……私は自分の意思でこの道を択んでいますので。お構いなく」


 素っ気ない口調で清里さんが言う。イラついてるなーというのは察しがついた。


「それに君は本来はもう4位に上がっていてもいいはずなんだよ。君はこの3人の中で一番強いし一番最初に5位に上がった。でも物静かで何も言わないから軽んじられている。

だが私たちが君に代わって声を上げよう。女性への不当な扱いは断じて許さない」


 にこやかな、というか白々しい口調で大和田が言う。

 口調が穏やかなだけで、言ってることは尾城と大差ないな。


「ああ、君の友達にしてしまったことに腹を立てるのは分かるよ。

ただ、間違った古い規範を打ち砕くためには時にああいうことも必要なんだ。叩く側も手が痛むんだよ。それは分かってほしい。

俺達は君の味方だ。君のような優秀な女性には是非我々の団体に……」


 大和田が話をつづけるけど。

 清里さんがため息をついて地面を戦槌ウォーハンマーの石突きで突いた。硬い音がして大和田が驚いたように黙る。


「あのな、そのありがたいお説教、いつまで続くん?さっさと始めたいんやけど」



 大和田の話を遮るように清里さんが言った。


「そもそも、人の友達に怪我させといてなに善人面しとるんや。厚かましいやっちゃな。

クズならクズらしく開き直らんかい」

「え?」

「それに、なんでそんな偉そうに言われて、あたしが聞かんといかんの?か弱そうな女の子は猫なで声で言えばいうこと聞くと思ったんかい、バカにすんなや」


 いきなり口調が一変して大和田があっけにとられたような顔になる。


「二つ言っといたるわ。まず、あたしは自分の意思で戦っとる。あたしの道はあたしの力で切り開く。あんたらの保護なんて要らんわ。

魔討士はあたしの成り上がりの道や。あたしの成り上がりストーリーの邪魔すんなや」


 きつい口調に押されたように大和田が黙り込んだ。


「あとな、二つ目や。ミズキもショータも強いで。だからこそあたしは先に4位に上がりたいんや。

強い奴を乗り越えるからこそ意味がある。しょーもないザコなら超えても意味ないやろ。そんなんなったらあたしの格まで下がるやんけ。そんなこともわからへんのかい。

スラムダンクもそうやろうが。マキとかセンドウとかライバルが強いからハナミチは格好いいんや」


 清里さんが言うけど、大和田が何を言ってるか分からないって顔で首を傾げた。


「……なに、あんたスラムダンク知らへんの?信じられんわ、スポーツ漫画みたことないん?文化が違うっていう感じやな」


 清里さんが言う……超有名作だから僕も勿論知ってるけど、結構前の作品ではある。

 年齢的になんであなたが知ってるの、と聞きたいくらいだけどやめておいた。


「まあええわ、正義は勝つって言うんならかかってきーや。あたしはそれでもええで。 

これは魔討士協会の正式なバトルになったから、討伐実績点もつくんでな。あたしの昇格の肥やしになってもらうで」


 そう言って清里さんが戦槌ウォーハンマーを一振りして構えた。


「信じられない……君達のためにしているのに……こんな風に言われるとは」


 本当に衝撃を受けたって顔で大和田が言う。


「無知とは悲しいな。不本意だが……仕方ないか」


 大和田が杖を構える。体を覆う白い光が増した。


「一応言っとくわ。あたしはミズキより強いで。

そっちで凹んどる奴みたくなりたくないなら気合入れてかかってきーや」


 大和田が杖を上段に高く掲げる。清里さんも戦槌ウォーハンマーを正眼に構えた。

 真っ向勝負か。



「始め!」


 元村の声と同時に二人が踏み込んだ。真っすぐに振り下ろされた杖と戦槌ウォーハンマーがぶつかり合う。

 真っ白い光が瞬いて、耳をつんざくような音がホールに響いた。


 二人が飛びのく。

 最初の交錯は五分か


「やるやんけ!次行くで!」


 清里さんが言って間髪入れずにもう一度踏み込んだ。

 大和田が下がりながら杖を振った。また衝撃音と白い光が走る。

 

 間合いを図るように清里さんがすり足で前に出て、大和田が押されるように一歩下がる。

 大和田の明らかに腰が引けている……端から見ていても、戦意を失ったのが分かった。


 当たり前なんだけど、防壁で守られているから殴られて痛くないとしても、怖くないというのとはまた別の問題だ。

 それにあの戦槌ウォーハンマーはかなり厳ついというか威圧感がある。

 正面から殴り合うのは怖いだろうな


「なんや……しょーもな」


 清里さんも気づいたらしい。大和田が杖を構え直そうとするけど。

 

「もう辞めえや。あたしは弱い者いじめは好かんのでな」


 清里さんがそれを制するように言って戦槌ウォーハンマーを一振りする。

 大和田が怯えたようにまた一歩下がった。

 

「能力の強い弱い以前の問題やわ。魔獣との戦いは殺し合いやで。そんな半端な気持ちでできるかい」


 清里さんが言う。

 もしかしたら大和田は尾城と違って殆ど実戦経験が無いのかもしれない。


「あたしが怖くても、それでも戦えるのは自分の意思だからや……嫌々やらされて戦いなんて出来へんわ」


 そう言うと、大和田が項垂れた。

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