第186話 交流戦、一戦目・上

「では1人目は誰ですか?」

「ここは地元代表で私が行きますね」


 尾城が出てきたのをみて清里さんが進み出る。

 口調は静かだけど、あの時のことを思うと相当怒ってるだろうな……というか背中から怒りオーラが出ている。


「女の子かー、女の子をイジメるの気が引けるな―」


 尾城がそれに全く気付くこともなく軽口をたたいた。


「お気遣いいただきありがとうございます。でも遠慮は必要ありませんよ」

「清里さん、君はそれでいいのかい?

本当は怖いだろう?下がるのは恥じゃない。協会の連中に無理に言わされているんだろう?」


 尾城が口調を改めて清里さんに言うけど。


「児玉さんは私の地元の友達です。彼をあんな風にやってくれて、一番腹を立てているのは私ですよ」


 清里さんが取り付く島もないって感じで言い返す。

 尾城が舌打ちして僕を見た。


「おい、片岡くーん。君は怖気ついたのかーい?女の子を先に出して恥ずかしくないの―――?まあ所詮はその魔法使いの力でランクを上げただけの奴だから一騎打ちが怖いのは分かるんだけどさーあ」 

「は?」


「4位の強い相棒が居ればそりゃあランク上げも楽々だよね――養殖5位の卑怯者に思い知らせてやりたかったんだけど、逃げられたらしょうがないなーあ」


 尾城が言う。何を言いたいのか分かったけど


「今のは絶対に聞き捨てならない……訂正してもらう」


 僕が言い返すより早く、檜村さんが普段とは全く違う、はっきりした怒りの表情で言った



 静かだけど迫力がある口調に尾城が黙った。

 

「もちろん私が彼の力になっているところもあるだろうが……彼がどれだけ私のために体を張ってくれたか、私にとって大事かわからないだろう。

何も知らないのに……知ったような口を利くな」


 冷静な感じの檜村さんがこんなに怒るのは初めて見た。

 ていいうか檜村さんが僕よりキレてどうするんですか……逆にこっちは冷静になれたけど。


「ふん。わかっていないな」


 檜村さんから反撃されるのは思わぬ展開だったのか、動揺したような尾城が言った。


「まあいい。そういうことなら力の差をわからせてやろう。そうだ。俺が勝ったら、そんな雑魚から離れて我が会に移籍してもらおう」

「それはいいかもしれません。檜村さんには私達と魔討士協会、両団体の懸け橋となって貰いたいですね」


 尾城が言って元村が相槌を打つ。


「それに、俺のような優秀な人間と組むほうが君にとっても有益だぞ……おい聞いているのか?」


 尾城が相変わらずの独演会のような口調で話しているけど、それを完全に無視して檜村さんが僕の肩に手を置いた。

 眼鏡の向こうの目が座っている。


「いいかい、片岡君。言っておくが負けてもらっては絶対に困るぞ。私は移籍など断じて御免だし、あんな奴とパーティを組む気はない。アレに比べれば如月の方が1000倍マシだ」

「ミズキ、先鋒は譲ったるわ。あのバカをぼこぼこにしてきーや」


 清里さんが言ってハイタッチするように手を出してくる。


「了解です」


 手を軽く合わせて清里さんに変わって前に出る。


 そう言えば昔師匠に言われたな。

 大人しさや謙虚さは美点だが、戦うものとしては全面的にいいことじゃない。必要なら強さを見せつけろ。そうすれば絡んでくるバカも減るだろ、と。


 舐めた真似をされたら思い知らせるのは大事だって話だったけど。

 要するにこういうことだな。


 

 改めて尾城と向かい合った。


「おっとー彼女の前でちょっとやる気を出したって感じかなぁー?でも気合では能力の差は覆せないよー。同じ風使いで能力強化をしている俺に勝てると思ってるのか―い?」


 尾城が煽るように言うけど。

 あまり何度も言われるとどうでもいいというか腹も立たなくなってくるな。


「一応聞いておくけど、お前等ははじめから児玉さん達を襲うつもりだったんだろ?」


 児玉さんの話を聞く感じ、こいつらから攻撃してきたっぽい。

 たまたま偶然居合わせて乱戦になった、と言う感じじゃない。


「だったらなんだーい、片岡くーん?」


 尾城が否定しないままに言い返してくる。


「詫びる気はないのか?」

「あるわけないだろー。弱っちいのが悪いんだよ――何か言いたいことはあるのかなー?」

「いや、そう言うことなら叩きのめすのに遠慮はいらないなってね」


 元々手加減なんてする気は全くなかったけど、躊躇する必要は完全になくなったな。

 鎮定を握り直して正眼に構える。

 尾城も突き出すように剣を構えた。青い刀身の片手剣だ。


「では双方、フェアに戦ってください。準備はいいですか?」


 元村が言う。


「僕はOKです」

「いつでもいいですよー会長」


 尾城が緊張感のない口調でいう。薄笑いを浮かべた顔も全く同じだ。

 風を操る能力と……それと児玉さんが言う通り斬撃を飛ばせるんだろうか。でも関係ない。


「一刀、薪風……」

「初め!」


「凪舞!」


 元村の開始の合図と同時に風で背中を押す。10歩ほどの間合いが一瞬で詰まった。

 尾城のにやけ笑いがひきつるけどもう遅い。


 隙だらけの剣を下から跳ね上げた。金属音が響いて剣が空中を舞う。

 そのまま鎮定の切っ先を尾城の顔に突きつけた

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る