第182話 3日目夜の出来事
吹き上がった炎がトロールの巨体を一瞬で焼き尽くした。
トロールを黒い消し炭のように変えて、炎が吹き消すように消える。
ライフコアがごろりと転がってしばらくしてダンジョンの赤い光が薄れていく。
光が消えて跡には梅田の地下街の景色が戻ってきた。
天井に僅かに黒い焦げ跡が残っているけど、それ以外は特に何かが壊れたとかそう言う様子はない。
檜村さんが安心したようにため息をついた。
「何事も無くてよかったよ……あれが一番周りに影響しないのの一つだからね」
檜村さんが言う。
魔法使いはこういう場所じゃ気を使うよな……七奈瀬君とかは全然気にし無さそうだけど。
「いやー……流石4位ですわ。あれで一番静かって、じゃあ他のはどんなんやねんって感じですわな」
清里さんが小声で言って、檜村さんが照れたように笑う。
檜村さんの魔法はいくつも見たけど、この火炎系の魔法は敵を内部から焼くって感じの単体攻撃魔法だから周りへの影響は小さめだ。
そして、三田ケ谷やルーファさんと一緒に居る時もそうだけど、やっぱり人数が多いのはそれだけで余裕がある。
代々木の戦いでは一人前衛だったからなおさらそう感じるな。
「すげー!なんちゅう威力や」
「なに、いまのCG?それとも映画の撮影?」
「アホかい。そんなわけあるかいな」
「
「あのデカいの一撃やって」
「あんなに細くて可愛いのに、すごいね」
「あれが4位の魔法かい」
周りから喝さいと拍手が上がった。
乙類の武器使いよりも魔法使いの方が攻撃が派手だし、なんというか見栄えがいい。インパクトはあるよな。
武器使いはランクが上がってもあんまり見た目は変わらないけど、魔法使いは上位まで来ている人は威力も上がる分見た目も派手になる。
4位とかだと数が多くないから会う機会も少ないだろうし。
「いやー周りの子も大したもんやで」
「高校生は清里ちゃん最強とか思ってたけど、あとの二人もやるもんやな」
「なあ、あんたら!ここでずっと梅田の守護神にならへんか?」
「あの……今の戦いの動画、SNSにあげていいですか?」
中学生っぽい背の低い制服姿の女の子が檜村さんに聞く。
「ああ……まあ構わないと思うよ」
「もちろんいいですよ。片岡君、斎会君、いいですよね?」
清里さんがメガネの位置を直しながらおしとやか口調で聞いてくる。
見事な演技だな。
「みなさん、お怪我はないですか?」
「俺達は魔討士協会のもんです。怪我した人は此方まで申し出てください」
いつの間にか来ていた児玉さんとあと三人の魔討士の人たちが周りに聞いてくれている。
何かのために一応付いてくれてるって話だったっけ。
見た感じ、怪我人とかはいなかったらしい。良かったな。
そんな話をしている間に何か叫び声と走る足音をがした。
「おい!どけどけ!」
「道を開けろ!緊急事態だ!」
そっちの方を向くと、あの例の団体の白いジャケット姿の奴らが駆け寄ってきたのが見えた。
「皆さん!ご無事ですか?我々が来たからには安心ですよ!」
「おっと、これはこれは、正当ナントカ団体の皆さん、えらいのんびりしたお御着きですなぁ」
児玉さんが嫌味な口調で言う。
状況を察したのか尾城たち三人がしまったって顔で立ちすくんだ
「もう魔討士協会のもんだけで片付きましたんでなぁ、悪いんですけど他を当たって貰うてええですか?」
児玉さんが言うと周りから笑い声が上がった。
尾城が憎々し気に児玉さんの方を睨みつける。わずかな間があって尾城達が歩き去っていった。
◆
今日はその後は何も起きなかった。
とは言っても野良ダンジョンなんてそんなに頻繁に起きるもんじゃないわけで。
ただ、初日に2回、昨日は無かったけど、今日も1回だからかなり数は多い。
イベントと称して警戒を強めるのも無理はないかもしれないな。
『間もなく五時となります。引き続き楽しいお買い物を……』
どこかからアナウンスが聞こえてきた。
今日もここで終わりか。
「まあこの後は俺達が引き継ぎますんで。お疲れさんでした」
「ありがとうございます」
5時までが僕等の受け持ちで、あとは児玉さんとあと3人のに引き継ぎになる。
「片岡さん、風使いとして戦うの見たの初めてですけど、マジ強いんですなぁ……それに斎会さんも。でも斎会さんの槍は特に特殊効果なしなんでしたっけ?」
「ええ」
「……そっか」
児玉さんが複雑そうな表情を浮かべて呟いた。
前に児玉さんの武器の性能については聞いたことがある。色々と思うところはあるんだろうということは分かった。
能力の性能は関係ない。結局は使う者次第。
宗片さんや師匠が良く言うことだけど、その理屈を誰もが受け入れられるわけじゃないとも思う。
魔討士の
能力があって喜んでみたのはいいけど、実際に使って見たら期待外れとか見栄えが悪いとか、そう言うのを言うんだけど。
僕は間違いなくアタリを引いた側だ。
例えば風を操る能力が無かったとしたら……気持ちだけで今みたいになれるだろうか。
「まあええわ。変なこと聞いて申し訳ない。お疲れさんでした、御三方」
児玉さんがまたいつものように明るい表情に戻った。
◆
今日の晩御飯は斎会君と檜村さんとで、児玉さんが勧めてくれたかすうどん屋に行った……その名前はいったいどうなんだって気もするんだけど。
なんでもホルモンを揚げたものを入れたものらしい。それと沢山のネギと温泉卵がトッピングされていた。
それだけ聞くとこってりイメージなんだけど、そんなでもない。それに透き通るようなツユのあっさり味と不思議に合っていて美味しい。
東京のうどんとは大分違うな。
晩御飯を食べてにぎやかな街を歩いてホテルに戻った。
ホテル暮らしは仙台遠征の時にもしたから少し慣れてきたけど、自分の部屋なら手の届くところにある漫画とか本とかがないのはやっぱり慣れない。
あと、すぐ隣の部屋に檜村さんがいるというのは色々と考えてしまう。
仙台の時は僕一人だったし。
関西ローカルの番組はやっぱり独特のものが多い。
あと、難波ベンガルズの番組がものすごく多い。選手のオフとか自主トレ情報とかだ。
風鞍さんの影響で何となく野球を見るようになったから、近年成績を上げてきているのは知っている。地元の期待とか人気の高さがうかがえるな。
清里さんへの周りの声援を見ても地元の人を応援しようという意識が強いのかもしれない。
そんなことを思っていたところで、充電しながらベッドの上に放り出しておいたスマホがなった。
見てみると清里さんだ。もう10時過ぎだって言うのにどうしたんだろうか
「はい、どうしたの?」
『ミズキ。児玉のにーちゃんが怪我したんや。あの連中と揉めたらしいわ。あたしも状況がようわからんけど、すぐにショータたちを連れて江坂に来てくれや』
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