第183話 その時の経緯。

 江坂の訓練施設につくとすぐに協会の人が奥の会議室に通してくれた。

 部屋に入るまでもなく、中から険悪な声が聞こえてくる。


 中に入ると、木次谷さんと魔討士協会の係員の人が何人か、それと清里さんが立っていた。

 テーブルを挟んで向かい合うように尾城とあと今日見た二人。それと初めて見る男が一人、尾城達の前にいた。


 そいつがこっちを向いて僕等に一礼する。そろいの白のジャケットは同じだ。こいつがリーダー格だろうか。


 40歳くらいだろうか。背は高めだけどそんなに鍛えた感じはしない。

 丸顔に短く刈って立てた髪と笑ったような細目で張り付いたような笑顔が浮かんでいる。


「初めまして、片岡君、檜村さん、斎会君。私は正当討伐活動互助会の会長を務めています。元村朗もとむらあきらです」


 こっちに一礼した後に、木次谷さんたちに床に付きそうなくらいに深く頭を下げた。

 なんかわざとらしい感じだな。


「どうも、先ほどは我が団体の者が大変失礼をいたしました」

「どういう状況だったのか説明して頂きましょう」


 木次谷さんが厳しい口調で聞く


「夜の7時ごろに野良ダンジョンに遭遇。我々の会員4名と其方の魔討士2名が魔獣と戦闘を開始したときに、不幸にも双方が互いに攻撃しあうような状況になってしまいました」

「あまりにも彼らがぐずぐずしているからね。思わず手が出てしまったんだよ。邪魔だったからね」


 尾城が言って木次谷さんの顔が険しくなった。

 清里さんは顔では平静を装ってるけど、ここまで怒りのオーラが伝わってくる。


「魔討士同士の交戦は禁止です。分かっていますか?」

「交戦ではありませんよ。あくまで不幸な事故だ」


 元村がはっきりと言う。


「それに、魔討士が戦闘中に他の魔討士に怪我を負わせても罰則はない。そうだろう?まあ俺たちの資格を停止したいならそれは好きにすればいい」


 尾城が言う。

 ルール違反じゃない、と言いたいらしい。


「そもそも俺のような優秀な人間を認めなかったお前らが悪い。今更後悔しても遅いぞ」

「……このような不幸な結果になったこと、誠に申し訳ない。改めて我が会員の行ったことをお詫び申し上げます。傷を受けた皆さんには後日お見舞いします」


 もう一度元村が深々と頭を下げるけど、後ろで尾城達がふんぞり返ってるから、全然謝ってる感じがないな。


「とはいえ、我々の力もお判りいただけたと思います。なりゆきで交戦してしまったとはいえ、我々の会員が魔討士を圧倒した事実には変わりはありません」


 顔を上げた元村が諭すような口調で言う。


「魔討士協会と正当討伐活動互助会は本来対立すべき組織ではない。共に魔獣と戦いダンジョンと対峙する存在でしょう」

「ライフコアの権益を独占しているのは問題だぞ。先行したからと言って利益の独占は許されない」


 元村と尾城が交互に言う。


「こう言ってはなんですが……自分たちの問題点に危機感を持っていただかないと困ります。一応あなたたちもダンジョンと戦う団体でしょう。

いいですか?我々には能力を強化する手法メソッドがある。素質に頼らなくてもいいし、無駄に金を掛けた訓練施設で不毛な素振りなんてしなくてもいい。私たちがあなた達を改善アップデートしてあげます」

「そうですか……本部に戻って検討しておきますよ」


 元村が言うけど木次谷さんはポーカーフェイスを崩さない。

 元村の顔の張り付いたような笑みが一瞬消えてまた元に戻った。

 

「それになんでも……ダンジョンの向こうの魔獣にも知恵があるものがいるというではないですか」

 

 元村が言って、流石に木次谷さんが固まった。



 元村がその反応を見て薄笑いを浮かべた。

 

「先日の代々木ではそいつら相手に中学生まで戦ったという。子供を戦わせる前に彼らとの話し合いをすべきだ。それに適切な情報公開も必要です」


 元村が言うけど

 ……何度か戦った感じだと、あいつらととてもまともな交渉が出来るとは思えないぞ。

 

 部屋に重たい沈黙が降りた。

 詳しいことは知らないけど、知恵のある魔獣の存在やシューフェン達の異世界側との交流は機密事項になってることくらいは察しが付く。

 少なくとも一般的なニュースとかに乗ったことはない。 


 木次谷さんの動揺と言うか、なんで知ってるんだ、という雰囲気が伝わってくる。     尾城が勝ち誇ったような笑いを浮かべてこっちを見た。


「なんか静かになっちゃったなーぁー。

ところであのひょろい男、乙の6位らしいじゃないの――、片岡くーん」


 尾城がまた人に話しかけているというよりも、動画配信の視聴者に語るような大袈裟な口調で言う。

 今日の昼の意趣返しなんだろう。


「6位であんなのじゃ……もしかして5位も大したことないのでは?どう思う、片岡5位君」


 5位の部分を強調しながら尾城が勝ち誇ったように言う。

 黙ったままでいるのもうんざりしてきた。それに相手のペースに押されてるのも不味い。


「僕らは魔獣と戦うことを考えてる。魔討士が突然攻撃してくるなんて考えてない」

「はーん?なんだって?」


 尾城が不快そうに顔をゆがめて僕を見た。


「能力とかが同じくらいでも、ルール無視の卑怯者の方と正々堂々戦う人だったら卑怯者の方が勝つかもね。でもそれって別に強いわけじゃないけど」


 僕等魔討士はそもそも魔討士同士で戦うことは想定していない。

 シューフェン達と少し戦った時や、あの新宿系に操られている人と戦った時も思ったけど、人との切り合いは魔獣と戦うのとは全く違う抵抗感がある。


 初めからそのつもりで来てる奴に攻撃されたら対応は難しい。


「そもそもそっちの方が人数多かったんでしょ?偉そうに出来るような状況なわけ?」 

「分かってない人はこれだから困るなーぁ、実力差だよー。不意を打たれても戦うのが戦士だろ?ん――?違うのかな」

「要するに片岡君は……」


 小ばかにするような尾城の口調にイラっとしたところで、清里さんが強い口調で尾城を遮った。

 清里さんに注目が集まる。


「あなた達が強いというなら姑息な真似をせず僕等に正々堂々と正面から挑んで来い、相手になってやると言ってます」


 清里さんが静かな口調で言った。


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