第181話 3日目の遭遇戦
「いろいろとややこしいことになってますな、片岡さん、それに斎会さん」
「おはようございます」
3日目の朝一番。児玉さんがホテルに顔を出してくれた。
ちなみに魔討士協会が用意してくれたホテルは僕でも名前を聞いたことがあるチェーンのホテルだ。
シンプルで必要最低限って感じの部屋だからそんな高級ではないのかもしれないけど、大浴場は快適だし朝ごはんが美味しい。
斎会君はカレーだのスクランブルエッグだのベーコンだのを皿に盛って朝からガッツリと食べていた。
「檜村さんもこれじゃデートどころじゃなくて困りますわな」
「……いや、そう言うのは関係なくてだね」
児玉さんが明け透けに言って檜村さんが困ったように言う。
ただなんというか、児玉さんの言い方は茶化すような言い方だけど嫌味な感じがしないな。
この人の人柄かもしれない。
「大丈夫ですわ。このゴタゴタが片付きましたらいいお店紹介しますんでな、きっと気に入っていただけますわ。大阪をお楽しみ頂かずにお帰りなんてことになったら大阪ものの名折れですんでな。よろしゅうお願いします」
「ああ、ありがとう」
「今日は俺と3人が別動隊って感じで待機しますんで、よろしゅうに」
そう言って児玉さんが帰って行った。
◆
次の日も同じように梅田の地下街を歩き回った。
……とは言ってもそんなに頻繁にダンジョンが現れるわけでもない。
最初の日はお店の人とかも割と注目してくれたけど、3日目になるとなんとなく馴染んでしまうらしい。
時々何あれって感じで通行人にカメラを向けられたりするくらいになった。
同じ大都会なんだけど、壁の広告や行きかう人の大阪弁とかちょっとした雰囲気が東京とは違う場所にいるなって感じさせてくれて面白い。
「ポイント稼げんのはあかんなぁ」
清里さんが小声でつぶやく。
「でも平和な方がいいだろ?」
「まあそりゃそうやが……でも魔討士協会としてもアピール度が低いのはよくないやろ」
斎会君と清里さんが言葉を交わし合う。
まあ何事も無いのはいいことだけど、暇と言えば暇ではあるな。
昼ご飯を食べてその後も地下街を歩き回った。
時折例の尾城とかいう奴とニアミスする。昨日の宗片さんの話を聞いた後だと色々と考えてしまうな。
僕と同じ風使いか……どんな能力なんだろう。
三時を回ってそろそろ四時。
カフェのスタッフさんがくれたホットコーヒーを飲みながら歩いていたところで、ポケットの中のスマホが警報音を上げた。
『ダンジョン発生!』
◆
『近隣でダンジョンが発生しました』
『ダンジョンには近づかないでください。ダンジョン内にいる人は速やかに最寄りの境界に……』
周りの人のスマホからも警報が流れた。
皆が自分のスマホを見て次に僕等を見る。
「よっしゃ……じゃなくて、行きましょう!皆さん」
「おう!」
清里さんがスマホを見て位置を確かめると真っ先に走り出した。その後ろを斎会君。
4時ごろの梅田は買い物客とサラリーマン風の人たちでごった返していたけど、走る僕たちを見てさっと道を開けてくれた。
清里さんについて走ると、前の日と同じように通路の一角とホールのような十字路が赤く染まっていた。
壁や天井が赤の光に覆われた岩肌のような感じに見える。八王子系か。
「皆さん!下がって下さい!」
凛とした声で清里さんが呼び掛けてそのまま人込みをかき分けてダンジョンの領域に入る。
「来い、鎮定!」
鎮定を構えて改めて周りを見る。まだあいつらはいないらしい。
そして周りの人が境界のギリギリ外で試合でも見るかのようにたむろしていた。
物見高いのはいいんだけど、危ないから少し離れてほしいぞ。
何体ものゴブリンが壁を作るように並んで武器を構えてこっちに迫ってくる。単体ではさほど強くないけど、数が多いのは厄介だな。
ゴブリンの向こうのホールのようなスペースにはいるのは、背中が曲がった巨体に長い腕。
河馬のような巨大な口を前に突き出した魔獣……トロールだ。
トロールは久しぶりに見たな。
ただ前に見た奴よりもガタイが大きい気がする。
トロールがゴブリンの後ろから悠然と前進してきて、ダンジョンの境界線がそれに合わせるように広がっていった。
「一刀!破矢風!」
鎮定を振って風の斬撃を飛ばす。
狙い通りに風の刃がトロールの顔を捉えた。赤黒い血が噴き出してトロールが後退する。
トロールが警戒するように姿勢を低くした。
あの巨体で通路に入ってこられると天井を突き崩されそうだ。
「暴れられると厄介だな」
「此処は一発、4位の魔法で派手にお願いします。あいつらの横やりが入っても面倒ですし」
「今日は三人でお守りしますよ」
清里さんが言って、斎会君が槍を構える。
「分かった。では、すまないが時間稼ぎを頼むよ」
「お任せください!」
「【書架は南・想像の弐列。五拾弐頁三節……私は口述する】」
檜村さんが詠唱に入る。
「片岡君、援護を頼みます!」
清里さんと斎会君がそれぞれの武器を構えてゴブリンの前に立ちふさがった。
「一刀!破矢風!天槌!」
風を打ち下ろすイメージで鎮定を振り下ろすと、風が天井辺りで渦を巻く。
風の塊が上からゴブリンの先頭を押し潰した。
「行きます!」
「一槍馳走いたす!覚悟!」
隊列が崩れたところに斎会君と清里さんが切り込んだ。
槍と
この二人よりは僕の方が射程が長いから少し下がり気味で風の援護に徹していればいい。
なんか楽させてもらってる気がするぞ。
あっという間にゴブリンがあらかた倒された。
それを見たトロールが地響きのような足音を立ててこっちに迫ってくる。
「下がっていなさい!」
清里さんが
振動が走ってトロールがホールまで後退した。他の通路を狙うようにトロールが周りを見回す。
「させんぞ!」
「一刀!破矢風!」
斎会君が気合の声を上げて槍をまっすぐに突き出す。
長い槍の穂先が肩口に突き刺さってトロールが叫び声を上げた。風の斬撃が顔をもう一度切り裂く。
威嚇するようにトロールが立ち上がって吠え声を上げた。
映画のモンスターのような得体のしれない野太い叫び声が通路にこだまして、周りで見ている人たちが悲鳴を上げる。
トロールがまた伏せるように姿勢を低くしてこっちにじりじりと進んでくる。
何度も傷を負って警戒してるっぽいな……とはいえ、それが命取りなんだけど。
後ろを見ると檜村さんが頷いた。
「気を付けて。魔法が行くよ!」
「【古の伝承に偽りあり。煉獄は業火が満ちたる場所にあらず。無明に燃ゆるはただ一対の篝火。煉獄の長曰く、何人たりとも彼の炎に殿油を指すこと勿れ、一度燃え盛れば七界悉く灰燼に帰す故に】術式解放!」
檜村さんが詠唱を終えてトロールを指さした。
僅かな間があって顔や肩の傷口、それに目や口から赤い炎が噴き出す。
そのまま炎が内側からトロールを包み込んだ
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