第180話 そいつの正体

 そんな感じで今日も魔討士協会のロゴ入りのハッピを着て地下街を歩き回った。

 昨日はなんとなく緊張していたけど、今日はなんとなく余裕をもって周りを見れている。


 迷路なんて言われるだけあって通りのつながりがややこしい。

 とはいっても、新宿とかも相当複雑だったけど……その新宿もいまは定着ダンジョン化してしまって昔の面影は無くなってしまった。

 

 そして、一日歩き回っていたけど今日は何事も無かった。

 一応5時で終わりってことになっていて、その後は協会の魔討士の人に引き継ぎになる。

 何度かあいつらにすれ違った時が一番ピリピリしていたな


「なんや、拍子抜けやな」


 清里さんが小声で言うけど……こういう日もあるよな。

 まあダンジョンなんて出ないに越したことはないとは思う。

 


 ホテルに帰って部屋に入ったところで、テーブルの上に置いたスマホが震えた。

 発信者は宗片さんだ。珍しいな。 


「どうも、こんばんわ」

「やあ、久しぶりだねぇ、片岡君」


 電話の向こうから宗片さんのいつも通りのちょっと間延びした声が聞こえた。


「今日の君達の映像を見たんだけど……なんかあいつと会ったっぽいじゃないか。懐かしすぎて電話しちゃったよ」

「……それだけじゃわかりませんよ」


 相変わらずというか、この人はマイペースだ。

 映像を見たってことは魔討士協会がどこかで僕等やあいつらを撮影してたんだろうな。


「ああ……ごめんね。あの、えーと、そうだ尾城精也おじろせいやってやつさ。君が今日会った、あの天パメガネ」


 天パメガネと言われてようやく誰のことを言ってるのか分かった

 ……そういえば名前も聞いてなかったな。そう言う名前らしい。 


「会ったことあるんですか?」

「まだ僕が3位だったころだね。2年程前かなぁ」


 電話の向こうの宗片さんがいつも通りの口調で言う。

 あいつが元魔討士なら会ったことはあっても不思議じゃないな。


「どんな奴なんですか?」

「君と同じ、風使いというか風を操る能力付きの乙類だったねー、見どころはあったんだよ。もったいないね」

「というと?」


「いやね、見どころがあったからさ。一緒に戦おうって誘ったんだよ」

 

 宗片さんが言う。

 一緒に戦おうというのは、まあ僕に言ったような意味合いだろうな。この人は前から同じようなことをしていたらしい。 


「そしたらさ、なんでお前なんかと一緒に戦わないといけないんだ、3位だからって偉そうにするなって言われてねー。まあそう言うことならいいかって思って放っておいたんだよ」


「なるほど」

「で、僕が一位に上がったころになったらねぇ、なんで自分を無視するんだ。バカにしてるのかって言って絡まれてね」


 淡々とした普段通りの口調で宗片さんが言うけど


「……意味が分かりませんね」

「うん。僕も彼が何を言ってるのか分からなかったよ。しかも大した能力もない癖に一位に上がったのは贔屓されたんじゃないかって言われてねー」


 ……1位相手によくそんなこと言えるな、とは思うけど。

 ただ、宗片さんの強さは端から見てるとかなり掴みにくい。


 強力でド派手な、見た目に分かりやすい特殊な能力を持っているわけじゃない。

 僕と戦った時もだけど、道場での試合でもはぐらかすように立ちまわるし、一見するとどこが強いのか分かりにくい……実際に対峙すると15秒もしないで分かるんだけど。


「で、どうしたんですか?」

「そりゃもう。贔屓で上がったインチキな僕の力を思い知らせてあげたよ」


 ……何が起きたのかは概ね想像がつく。

 そこまで言われて手加減する人じゃないよな。

 ていうか、なんかあいつが妙に敵対的なのはこの人のせいとかもありそうだ


「その後は良く知らないけど、いつの間にか見なくなったなーと思ったらそんなことしてたんだねぇ」


 宗片さんが見どころがある、と思ったんならば多分それなりの実力者だろう。

 今日会った時にはそんな雰囲気は感じられなかったんだけど。


 ただ、風鞍さんとかのように風格がある人もいるけど、それこそ宗片さんも普通にしている分にはあまり強そうには見えないわけで。

 雰囲気は必ずしもあてにはならない


「大丈夫だよ。片岡君。

僕が保証するけど、多少能力の強化だかがあっても君の敵じゃないさ。絡んで来たら遠慮なく思い知らせてやりなよ」

「いや……そういうわけにもいかないでしょ」


 相変わらず簡単そうに言ってくれるな。


「彼は君とは全然違うよ。彼は強くなろうとしていないから強くなれない。前も言ったろ、どれだけ素晴らしい能力をもっていてもね、使いこなす人次第さ」


 宗片さんが謎かけのようなことを妙に自信ありげに断言してくれた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る