第176話 地下街での邂逅・下
キューブが砕けて僅かな間があって壁を覆っていた赤いタイルが剥がれるように消えた。
ダンジョンが消滅して元の地下街が戻ってくる。
周りから拍手が上がる中で、白いジャケットの男たちが言葉を交わし合って握手をしていた。男二人と女一人……多分全員大学生かもう少し上って感じか。
ダンジョンマスターを倒せたのはまあいいんだけど。
「あのさ。ああいうの、禁止事項じゃないか?」
魔討士同士の交戦は厳禁だし、仲間を巻き込まない様に戦うのは魔討士同士では常識だ。
ここを蔑ろにしたら、巻き添えを食いやすい前衛をやる人なんていなくなってしまう。
しかもさっきのは斎会君と清里さんをわざと狙っていたようにしか見えなかった。
幸い二人には怪我は無さそうだけど、踏み込みがもう少し深かったり反応が遅れたら危なかったと思う。
それにあんな風に強引に割り込みはしないのも暗黙の了解だ。
野良ダンジョンの討伐実績点や功績点は交戦した人で山分けだから、無理して強引に手柄を取りに行く理由は無い。
「我々は正当討伐活動互助会の会員だ。よって我々にはそのルールを守る理由がないね」
「……お前らがか」
男の内の一人、背が高くて髪を坊主にしたやつがそっけなく言い返してきた
どこかで聞いた名前だと思ったけど……あの吉祥寺での戦いの後に聞いた名前だ。
なんかよく分からない団体だったけど、こいつらがメンバーなのか。
「聞いたこともないが、それがあんな風にする理由に……」
「ああ、待ってくれ。勘違いしないでほしい。無礼があったらお詫びする。誤解しないでくれ。
我々は君達と対立する気は無い。片岡君、清里さん、斎会君。むしろ我々は君たちを守りに来たんだよ」
もう一人のメガネ姿の男が、険悪な感じの斎会君を遮るように言った。
「守る?」
「だってあれは君達には荷が重かっただろう」
メガネの男が言うけど。
確かになんか厄介な能力を持っていそうではあったけど、あの倉庫街の時の巨大キューブに比べればまだマシな相手だと思う。
三人で時間を稼いで檜村さんの魔法を当てれば十分倒せた。
「……いや、そんなことはないと思うけど」
言い返したら、眼鏡の男が不快気に顔をしかめて周りを見回した。
「皆さんいいでしょうか、是非聞いていただきたい」
そいつが芝居がかった大袈裟な口調で周りを囲んでいた人たちに呼びかけた。
戦いの後に物珍し気にこっちを見ていた人たちの注目がそいつに集まる。
「このように高校生を命の危険に晒すような真似をしていいのでしょうか。
責任ある大人として子供に戦わせるような真似をしてはいけない、私はそう思います。
魔討士協会は判断力のない高校生を唆してヒーローの様に扱い、あまつさえ戦わせてしかもそれによって利益を得ている
今回のこれもそうです。高校生を最前線に立たせてヒーロー気分で戦わせるようなイベントは直ちに中止されるべきだ」
そいつが良く通る声で話して周りにアピールするように手を広げる。
戸惑ったような空気が流れて、なにかひそひそと囁き合う声が聞こえてきた。
「私はかつては魔討士でしたが、その体質に疑問を感じて新しい団体を作るに至りました。
そして我々は素質を強化する方法を開発しました。つまりもう人員不足を無理に子供を戦わせる必要はないのです。
我々は全国で活動の輪を広げています。支援をお願いします」
若干白けたような雰囲気に気付いていないのか、変わらない口調でメガネの男が言ってこっちを見た。
「こういうことだよ。子供が戦わされるのは良くないことだ。明日以降は私たちが見回るから安心してくれ」
にこやかに笑いながらメガネの男が言う。
「片岡君、斎会君、それに清里さん。
私たちは高校生の戦闘は認めていないから……今はすまない、君達を受け入れてあげることができないんだよ。でも卒業後は私たちの団体に来なさい。一緒に世の中を正しくしようじゃないか」
そいつが近づいてきて一枚のカードを差し出してきた。
あの毒島さんにみせてもらったのと同じカードだ。
「今のように非科学的なトレーニングや戦いをする必要はない。我々には最先端の訓練メソッドと
魔討士協会では8位に甘んじていたが、この技術で私たちの力も解放された。君たちの力も強化される」
自信満々って感じでそのメガネの男が言う。
後ろにいた女が人が檜村さんの方を見た。
「檜村さん。貴方は高校生じゃないですから我々の団体に入る資格があります。こちらに来る方が今より正当な扱いをうけれますよ」
◆
結局あの戦いの後には野良ダンジョンは出なかった。
流石に一日に同じ場所で三度も出たりはしないか。
巡回の終了時間まで梅田の地下街を歩いたり、カフェとかで一休みさせてもらったりしながら過ごした。
ただ、あいつらもこれ見よがしにそこらをうろうろしていたのがウザったかったけど。
「なんや、あいつら。腹立つわ。守ってあげるって何様やねん」
江坂の施設に戻ってきて会議室で3人になってすぐに清里さんが怒ったように言った。
あいつらと話している時も素が出そうなのは横に居て分かった。
なんというかあからさまに子供扱いされたのは非常に腹が立つ。
高校生は子供と言われればそうなのかもしれないけど。
「明日はどうするんだろうね」
檜村さんがスマホを見ながらつぶやいた。
一応今日会ったことは魔討士協会に連絡はしてあるけど、今の所返事はない
「あたしは行くで。魔討士協会がなんて言っても関係ないわ。あれで辞めたらあいつらの言う事認めたようなもんやん?絶対お断りやわ」
そう言って清里さんが僕等に答えを促すように見る。
「ミズキとショータはどうするん?」
「魔討士協会の依頼というのはあるが、俺には俺の考えもあるからね。禁止とかされない限りは参加するよ」
斎会君が言うと清里さんが嬉しそうに笑って斎会君の肩を軽く叩いた。
「ところで、ショータの考えって何なん?」
「俺は5位に上がるのに色んな人に助けてもらったからね。俺が皆の為に戦うのがその人達への恩返しだと思ってる。
それになんというか……今時古流の槍術なんて流行らないからね。俺が活躍すれば流派の名も上がる、というのもある」
「なるほどなぁ……で、ミズキはどうする?」
皆の視線がこっちに集まるけど。
「そこまで高い志があるわけじゃないけど……ああいう風に言われるのは僕もいい気分はしないからね。このまま行くよ」
ああいう上から目線の言い方は仙台のあいつらを思い出す。
あの時のことを思い出すと今も腹が立つくらいだし。
「クロエの姐さんは?」
「ああ……勿論参加させてもらうよ」
「ありがとさんです。今日はアイツらの邪魔で見れへんかったんで、明日は是非4位の魔法でガツンと一発、お願いしますわ」
「まあでも敵は現れない方がいいだろう?」
檜村さんが茶化すように言い返す。
「ホンマそうやな……いやー、でもちょう待ってえな。敵が全く出てこないと困るで、あたしが功績点稼げへんやんけ」
「功績点は山分けだろう?」
「おっと、そうやったわ……物は相談なんやけど、あたしだけ持ち逃げしてええか?」
清里さんが大げさな口調で言い返してようやく空気が和んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます