第175話 地下街での邂逅・上

「こんな近い所にまた出るんだね」

「だから困るんよ……こんなに頻繁なのは初めてやけどな」


 買い物客で混雑した百貨店の地下街を走りながら清里さんが言う。

 この辺では普通の人にはダンジョン発生の警告は出てないらしい。


 しかし、野良ダンジョンがどこに出るのか、出やすい所と出にくい所があるのは確かなようだけど。

 これほど同じところで何度もでるものなのか。


「これだけ人が通るわショッピングの名所だわやからな。ダンジョンが出やすいからってそう簡単に閉鎖なんてできへんやろ」  

「まあ確かに」


 新宿も地下街が定着ダンジョンになってしまって、新山手線の工事とかにとんでもない手間がかかったのは知っている。

 代わりの場所なんてそう簡単には作れないか。



 混乱する地下街を走って辿り着いたのはかなり走って地下鉄の改札の近くだった。

 改札の前の広いスペースが赤いタイル張りのようになっていて、それを20人くらいの人たちが取り囲んでいる。

 逃げなくていいんだろうか。物見高いというか、度胸があるというか……この辺も関西気質なのかな。


 ダンジョンの中央にはまるでこっちを待ち受けるように2メートルほどのキューブが浮いていた。 

 赤いキューブには表面に三角形を描くように白いラインが浮かんでいる……今回のは新宿系らしい。


「すみません。通してください」

「頑張って!清里さん」

「しっかりたのみますわ!」


 清里さんが声をかけると、見物していた人がさっと避けてくれた。 

 ダンジョンの領域に踏み込んだけど、キューブは動く気配がない。

 槍を構えた斎会君と戦槌ウォーハンマーを構えた清里さんが警戒するようにキューブを挟んで陣取った。


 新宿系は何度か戦ったけど、他の系統と違って見た目から何をしてくるのか分かりにくいのが厄介だ。

 蟲系の魔獣は鎌で切りかかってくるとか噛みついてくるとか、何をしてくるのか何となく察しがつくんだけど。

 それに今まで戦ったやつだとレーザーを打ってきたりとかで風で止めにくい。


「浮いているんじゃ私の衝撃破も通じないんですよね」


 清里さんが困ったように言う。


「片岡君、一発食らわせてくれ。まずは俺が切り込む」

「了解。一刀!破矢風」


 風の斬撃が何本か飛んでキューブの表面を切り裂いた。

 キューブの表面に傷がついて赤い粉のようなものが飛び散るけど……この位じゃあまり効果はないか。


「食らえ!」


 斎会君が踏み込んで槍を突き出す。

 真っすぐに伸びた槍がキューブに突き刺さってガラスが砕けるような音がした。


 同時にキューブが線に沿って三角錐のようになってばらける。

 三角錐が組み合わさって、キューブのように立方体になっていたらしい。斎会君が警戒するように一歩下がる。


 いつでも風を撃ち込めるように意識を集中させるけど。

 内側から小さい三角錐の形の破片のようなものが漏れ出すように出てきて、そいつの周りを取り囲んだ。


「なんだこれ?」


 戸惑ったように斎会君と清里さんが顔を見合わせる。

 僅かな間があって斎会君がもう一度踏み込んだ。気合の声と同時に槍が振り回される。

 

 風切り音を立てて振られた槍が破片に触れたと同時に細かくとんだ破片が小さく爆発を起こした。

 連続した爆発音が響いて赤黒い光がストロボのように連続して光る。槍がはじけ飛んで床に突き刺さった。

 周りで見ていた人たちからどよめきが上がる。


「大丈夫?」

「問題ないが……これは厄介だな」


 槍を引き抜いて斎会君が言う。

 破片がまるで星の周りの輪のように浮いていた……触れるとさっきみたいに爆発するんだろうか。


 破片がじわじわとこっちに迫ってくる。

 前に戦った奴みたいに体当たりしてきたりレーザーを撒き散らしたりとかして向こうから仕掛けてくる感じじゃないけど。


「仕掛けにくいな……」

「じゃあこれはどうかな。一刀、薪風、青楔」


 頭の中でイメージを浮かべて鎮定を振る。風がそいつの周りに沸き起こって、渦を巻くような風が破片を吹き飛ばした。

 風に巻かれた破片が狙い通り撒き散らされるように床にぶつかる。破片が床で立て続けに爆発を起こした。


 本来は風で包んだ相手を弾き飛ばすようにして使うんだけど、上手く行ったな。

 キューブを守るように浮かんでいた周りの破片が消える。


「お見事!」

「檜村さん、ここは4位の魔法をお願いしますわ」

「任せてくれ【書架は北西・理性の五列。八拾参頁九節……私は口述する】」


 キューブはまた元の形に戻っている。さっきの槍で刺されたダメージは無さそうだ。

 また破片を撒き散らされる前に終わらせたい。

 斎会君と清里さんが踏み込んだところで、突然白い刃が横から飛んでそのキューブに当たった。



 「なんだ?」


 斎会君が慌てたように脚を止めた。

 横の通路から三人が姿を現した。白い揃いのジャケットを着た男だ。

 それぞれが剣や槍とかの武器を持っている。乙類かな。


「援護ですか?」


 当たり前だけどこれだけ人が居れば僕ら以外に魔討士がいても不思議じゃない。 

 声を掛けたけど、無視してその三人がキューブと対峙した。


 一人が剣を振り下ろすと剣の先から白い斬撃が飛んでキューブに傷がつく。

 また破片をばら撒いてくるのかと思ったけど、キューブは何もする気配がない。次々とそいつらの白い斬撃がキューブを削る。


「助太刀します!」


 清里さんが声をかけて踏み込もうとするけど、それを邪魔するように斬撃の一部が飛んできた。

 二人が慌てて飛び退る。


「危ない!」

「おい、何すん……なんのつもりですか!」


 斎会君と清里さんが抗議の声を上げるけど、そいつらが無視して攻撃を続ける。

 何発かの斬撃を受けてキューブが砕けた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る