第174話 梅田地下街のイベントと野良ダンジョン・下
「ホントに出るのか」
「まあ、こういっては何だが無駄足じゃなくてよかったじゃないか。ただ歩いているだけじゃ、来た甲斐がない」
斎会君が言う……確かにそうかもしれない。
「さ、行こうや、二人とも。どんなもんか見せてもらうで」
先頭を走りながら清里さんが言う。華奢な見た目だけど足取りは軽やかで速い。
清里さんについて行くと、その方向から沢山の人が逃げるように走ってきた。避難誘導の声と悲鳴と足音が混ざりあう。
「皆さん、道を開けてください!」
清里さんが叫ぶ。人の波の向こうには赤いダンジョンの光が見えた。
天井を赤い光が覆っていて、なんか赤い光の奥に高いアーチのような天井が映っていた。
周りの壁には赤い柱のようなものが見える。なんとなく古い教会のような感じだ。
「来い、鎮定!」
ダンジョンに入ったところで呼びかけると鎮定がいつも通り空中から湧きだすように現れた。
人ごみの向こうには大きな鎧を着た人型のやつがいる。
西洋風の鈍い銀色の金属鎧と大剣。兜の中には赤い光を放つ骸骨が立っていた。
錆が浮いた剣とあちこち汚れた武骨な鎧が何となく威圧感がある。2メートル以上もある巨体が天井につかえそうだ。
あれはアンデッドナイトとでもいうんだろうか……見たことない相手だな。あれがダンジョンマスターだろうか。
アンデッドナイトが手にした剣をゆっくりした動作で持ち上げた。
「一刀!薪風!
振り回されるより風が絡みついた。
鎧が軋み音を立ててアンデッドナイトが剣を下した。これで少しは時間稼ぎ位になるか。
「やるやん、この距離で届くんか」
清里さんが言う。
アンデッドナイトの周りには粗末な曲刀と盾をつけたスケルトンが並んでいた。
そのアンデッドナイトが何か声を発した。逃げる人たちを追うようにスケルトンがぞろぞろとこっちに向かってくる。
「さっさと片付けましょう」
「無論承知!」
斎会君が言うと同時に稽古で使ってるのと同じような槍が空中から現れた。
槍を担ぐように構えた斎会君が人込みをかき分けて突進する。
大きく振り回した槍が次々とスケルトンを粉砕した。砕けた骨が散らばって音を当てる。
斎会君が戦っているうちにダンジョン内に取り残された人は皆逃げ出せたっぽい。
斎会君が槍を一回転させて構え直した。
「火舎斎獲流大槍術中伝。斎会将太!推参!邪悪なる妖よ!心して掛かってこい!」
「さすがやけど……なんや、ショータも結構演技派なんやな」
清里さんが言うけど……あれは演技ではないと思うんだけどね。
「では【書架は南西・理性の八列・四十八頁75節……」
「いや、クロエの姐さん、ここは高校生組の見せ場にさせてーな」
清里さんが言って詠唱しようとした檜村さんが止めた。
「ああ……分かったよ」
「さ、じゃああたしの腕も見たってな、ミズキ。援護頼むわ」
二度三度と軽く清里さんが飛び跳ねて
長い柄が付いた
清里さんが
重たそうに見えるんだけど、そんなでもないらしい。
「さて、じゃ、行きます!」
そう言って清里さんが
斎会君が槍を振り回すたびにスケルトンが砕けて倒れるけど、赤い石畳のような地面からまるで壁のように次々とスケルトンが立ち上がってきていた。
「斎会君、下がってください」
清里さんが声をかけて斎会君がバックステップして下がる。
清里さんが振りかぶって
スケルトンが足元から砕け散って、アンデッドナイトまでの道が開けた。
「行きましょう」
「応!」
二人が突っ込む。
「一刀!破矢風!」
風の刃が二人を追い越していってアンデッドナイトを切り裂いた。鎧に傷が穿たれて血のような赤い霧が吹きだす。
よろめいてアンデッドナイトの動きが止まった。
「行くぞ!初伝!竹払い!」
斎会君が槍を体ごと回転させて振りぬいた。
地面すれすれを走った槍が膝に命中する。鎧と槍の柄がぶつかり合って甲高い金属音が鳴った。膝が折れ曲がる。
かなりのダメージかと思ったけど、アンデッドナイトが何事もなかったように剣を振り上げた。
耐久力あるな。
「一刀!破矢風!」
「中伝!
剣を持つ腕を風の斬撃が切り裂いた。
斎会君が低い姿勢から斜め上に向けて伸びあがるように槍を突きだす。槍の穂先が脇から入って、そのまま兜から飛び出した。
兜の中の骸骨の顔にひびが入って目の窪みの光が明滅するけど。
頭を貫かれたままでアンデッドナイトがまだ動こうとする。
「えいやっ!」
清里さんの
当たった瞬間もう一度空気を震わせる衝撃が走って硬そうな鎧の胴がぐしゃりと拉げる。
さっき斎会君に叩かれた膝が音を立ててへし折れた。
体制が完全に崩れてアンデッドナイトが土下座でもするように前に崩れる。
「止めです!」
清里さんの
もう一度空気が震えるような音がして兜が音を立てて床に落ちた。
首を失った胴がゆっくりと床に倒れ伏して、姿が崩れていく。
終わったか。
◆
赤い光が消えた後は特に何も起きていなかった。
ガラスが割れたりとか、そういうのもなさそうなのは良かった。
戦いが終わって一息つくことになった。
清里さんの案内で梅田の百貨店の中のカフェに移動する
黒を基調にした落ち着いた感じの店で、カップもシンプルな白の奴だけど手触りが良くて、多分良い奴なんだろうな、と言う感じはする。
コーヒーは店からのおごりになった。役得だな。
静かな店内では黄色いハッピが目立つ上についさっき戦ったというのもあってか周りからみられている。
清里さんが笑って手を振っていた。この辺はそつがない。
「そういえば清里さんのはどういう能力なの?」
「衝撃を発生させてダメージを上げられるんです。それに地面を叩けば衝撃を伝えることも出来ますよ。
ただ、うまくコントロールしないと周りを思いっきり巻き添えにするんで、結構気を使うんです。昔に比べると大分マシになったんですけど、まだ練習中ですね」
店員さんの目があるからか、穏やかな口調で清里さんが言う。
あのスケルトンを砕いたのはその能力か。
見た目そのままの大雑把な武器かと思ったけど、見た目以上に狙い撃ちが出来るっぽい。
「片岡君ももさすがですね。あれだけ射程距離が長いのはうらやましいです」
「そうだな。君の能力はどっちかというと甲類っぽいな」
斎会君がコーヒーを飲みながら言う。
「檜村さん。次は是非魔法を見せてくださいね。4位の魔法なんてなかなかみれませんから」
「ああ……うん」
檜村さんが紅茶を飲みながら少し言葉を濁した。
「とはいうものの……私の魔法は周囲を巻き込むからね」
檜村さんが気まずそうに言う。
檜村さんの魔法は火力は高いけど、攻撃範囲が広いのが多い。
地下街とかでぶっ放すと余波で周りを壊したりとかそういう傾向はあるかもしれない。
コーヒーを飲みつつそんな話をしていたところで、テーブルの上に置いたスマホがまた震える。
画面にまた警告メッセージが映った。
◆
「なんや……またかいな……」
清里さんが嫌そうに言ってスマホを手元に引き寄せた。
「こんなに頻繁にあるものなの?」
野良ダンジョンが発生すること自体はもう珍しいことじゃなくなってはいる。
でも、これだけ近い場所で連続でというのはあまり聞いたことがない。
「いや……さすがにこんなの聞いたことないわ」
「そういうことを言っている場合じゃないだろう」
生真面目な口調で言って斎会君が立ち上がる。
「すみません、ご馳走様です」
「大変ですね!頑張って!」
店員の人の声を聴きつつ店の外に出た。
◆
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